インタビュー

乾癬の種類による治療法の違い――治療選択のポイント

乾癬の種類による治療法の違い――治療選択のポイント
小宮根 真弓 先生

自治医科大学医学部皮膚科学講座 教授

小宮根 真弓 先生

目次
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乾癬(かんせん)は、特徴的な少し盛り上がった赤い皮疹(ひしん)(皮膚にできる病変)に白いフケのようなもの(鱗屑(りんせつ))を伴い、再発を繰り返す慢性の病気です。皮疹のタイプや患者さんの状態により、主に外用療法・光線療法・内服療法・生物学的製剤の4つの中から治療法が選択されます。近年では、重症の乾癬に対する治療薬の開発が進んで治療の選択肢も広がってきました。今回は乾癬とはどのような病気なのか述べるとともに、治療の選択肢や早期治療の重要性について、自治医科大学医学部皮膚科学講座 教授の小宮根 真弓(こみね まゆみ)先生に伺いました。

乾癬は、皮膚が赤く盛り上がりガサガサとした状態になってむけてきたり、白いフケのようなものである鱗屑が生じたりする病気です。爪の変形を伴うこともあります。皮膚に症状が現れるので皮膚の病気だと思われやすいですが、実はリンパ球や樹状細胞という免疫に関わる細胞が乾癬を引き起こしている可能性があると分かっています。免疫に関わる細胞は皮膚だけではなくほかの臓器にも影響を及ぼすため、近年では、乾癬は単なる皮膚の病気ではなく全身の病気と捉えたほうがよいのではないかと考えられるようになりました。

乾癬の患者さんの皮膚には、リンパ球の一種であるTh17細胞の活性化したものが多く存在します。Th17細胞の活性化には遺伝的素因や環境因子(不規則な生活や食事、ストレスなど)が関わっているといわれていますが、その仕組みは完全には解明されていません。

乾癬で皮疹が生じるのは、Th17細胞が体の免疫機能などに関わるサイトカイン“IL-17”や“TNF-α”という物質を放出し、表皮が刺激されるためだと考えられています。また、Th17細胞の増殖や維持に必要なサイトカイン”IL-23“も乾癬の発症に重要な役割を果たすことが分かっています。そこで、これらのサイトカインのはたらきを抑える作用のある生物学的製剤が重度の乾癬の治療において用いられています。

乾癬は、皮疹のタイプによって次の5つに分類されています。

  • 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)……ある一定の面積で囲まれた部分の皮疹(境界明瞭な局面型の皮疹)が多発してくるタイプで乾癬の患者さんの約9割を占める
  • 乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)……関節症状を合併するタイプ
  • 膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)……皮疹に小さい膿疱がたくさん出てくるタイプ
  • 乾癬性紅皮症(かんせんせいこうひしょう)……全身の皮膚に病変が広がるタイプ
  • 滴状乾癬(てきじょうかんせん)……小さい皮疹が全身に多発するタイプ

このように、皮疹の現れ方や広がり方は均一ではありません。乾癬の分類は少々分かりにくいかもしれませんが、尋常性乾癬の中でも関節症状があるものを乾癬性関節炎、膿疱があるものを膿疱性乾癬と呼びます。膿疱性乾癬の患者さんでも、先行して尋常性乾癬の症状が出てくることもあります。

皮疹のタイプの違いには、患者さん自身の体質も関係していると思われます。しかし、中には「もともとは関節症状がなかったのに、あるとき急に関節症状が出てきた」という患者さんもいます。このことから、体質で皮疹のタイプが決まる場合もありますが、何らかの増悪因子(状態を悪化させるもの)が加わると症状につながる可能性があると考えられています。

たとえば乾癬のタイプの1つである膿疱性乾癬は、発症の原因になる遺伝子変異を持っている方が発症しやすく、感冒(かぜ症候群)やストレスが引き金となって悪化します。滴状乾癬は、扁桃炎などをきっかけとして悪化します。

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提供:PIXTA

乾癬を診断する主な手段は、基本的には皮膚の状態を見ることです。特徴的な皮疹が生じることから、皮膚科医は視診するだけでも多くの場合診断が可能です。

より正確な診断を行うために、皮膚の一部を切除して病理検査に出す皮膚生検という方法で確認することもあります。乾癬の特徴の1つは、皮膚の角層下に白血球の一種である“好中球”がみられることです。好中球はほかの病気が原因で増えることもありますが、皮膚生検で好中球の存在が認められたら乾癬の可能性を考える材料になります。

また、血液検査も乾癬の診断に役立ちます。乾癬の患者さんの血液中には、白血球、特に好中球の増加がみられます。関節症状を伴っている症例では、CRP(炎症反応)の上昇や、炎症の程度が分かる赤血球沈降速度の亢進(過剰になる)が確認されることがあります。

乾癬の患者さんには、心筋梗塞(しんきんこうそく)などの命に関わる危険な病気の原因となる高血圧、高脂血症、糖尿病といった合併症のある方が多くいらっしゃいます。そのため、治療を始める前に検査を行い、患者さんの全身の状態を把握することが重要です。

全身状態を確認するのは、治療の副作用を抑えるためという目的もあります。たとえば、乾癬の治療で用いる内服薬の中に腎臓や肝臓への負担がかかりやすい薬があるので、肝機能や腎機能の程度をあらかじめ確認しておきます。生物学的製剤を用いる場合には、副作用が発現しやすくなる間質性肺炎やB型肝炎などの病気がないかを事前に調べておくことが必要です。

乾癬かどうかを自分で判断することは難しいかと思いますが、患者さんからは皮疹のほかに「フケがたくさん落ちて困る」「爪が変形して見た目が悪くなっている」といった悩みもよく聞きます。こうした皮膚症状で困っていたら、まずは皮膚科を受診してください。

中には、皮疹ではなく関節の痛みから始まる患者さんもいます。関節が痛むので整形外科やアレルギー・リウマチ内科にかかっていたら数年後に皮疹が出て、そこで初めて乾癬性関節炎の診断が付いたというケースも時々あるくらいです。皮膚科を受診するとき、関節の痛みについては相談しづらいと思われるかもしれませんが、関節の痛みがあるときはぜひ診察の際に医師に伝えるようお願いいたします。

乾癬の症状は、軽症から重症まで人によってさまざまです。軽症では本当にわずかな皮疹しか出ない方もいます。この程度なら特に治療する必要はありません。

乾癬の重症化が分かるタイミングは、小さい皮疹がたくさん出てくるときです。小さな細かい皮疹がたくさん出始めて、大きな皮疹に育っていきます。

重症では全身に皮疹が出てしまうことがあるとともに、炎症の強さに関連して動脈硬化心筋梗塞といったさまざまな病気の発症リスクも高くなるといわれています。皮膚症状だけだからと思わず、しっかりと炎症を抑えるような治療を行うことが大切です。

乾癬の中でも膿疱性乾癬は、刺激によって悪化しやすいタイプです。風邪やインフルエンザの罹患、予防接種、妊娠、事故、手術などが要因となって悪化することがあります。

乾癬性関節炎は、発症すると関節の変形が急速に進む場合があり、変形した関節は元に戻らず日常生活に影響をきたす恐れがあります。初診でX線(レントゲン)検査を行って骨の変化がみられる方は、今後変形するリスクが高いといわれており、進行する前に治療を始めることが重要です。ただ、関節の変形があっても強い治療は必要ない方もいるので、症状の悪化に注意しながら診察を進めていきます。

MN作成

乾癬の治療方法は重症度に応じて選択することが一般的です。軽症の方は外用療法(塗り薬)から始めて、それだけでも皮疹の改善が期待できます。病気に勢いがある重症の方ですと、塗り薬で皮疹が改善しても次々に新しい症状が出てコントロールが難しくなる恐れがあるため、紫外線を当てる光線療法や内服療法(飲み薬)を併用します。それでも症状を抑えきれない場合、生物学的製剤を使用します。なお、重症の方は塗り薬から使い始めることにこだわらず、生物学的製剤などから治療を始めても構いません。

この重症度に応じた乾癬治療の基本的な考え方の図は、旭川医科大学の飯塚 一(いいづか はじめ)先生が提唱して国内で広く用いられており、“乾癬治療のピラミッド計画”と呼ばれています。

乾癬の治療で用いられる塗り薬は主に、塗った部分の炎症を抑制するステロイド外用薬、皮膚の盛り上がった状態や鱗屑を改善させるビタミンD3外用薬の2種類があります。これらを単独もしくは組み合わせて使用します。

紫外線を当てると皮膚局所の炎症および全身の免疫が抑制されるため、乾癬の治療として光線療法が有効です。治療に有効な波長の紫外線を選択して照射する紫外線照射装置を使用して行います。さまざまな波長の光が含まれる太陽光を浴びるのと比べて、日焼けしにくく発がんリスクを抑えるとともに、治療効果がより強く出るメリットがあります。

乾癬の治療で用いられる飲み薬は主に、皮膚の角質細胞が過剰に作られるのを抑制するビタミンA誘導体、活発にはたらいている免疫反応を抑える免疫抑制薬(シクロスポリン、メトトレキサート)、PDE4という酵素(タンパク質)のはたらきと炎症を抑えるPDE4阻害薬の3種類があります。

生物学的製剤は、過剰に活性化した免疫のはたらきを抑える作用をもつ薬剤です。体の免疫機能に関わる物質であるサイトカイン“IL-17”、“IL-23”、“TNF-α”などが、薬剤として投与された抗体(タンパク質)に特異的に結合することでそのはたらきが抑えられます。生物学的製剤を使用するときは、免疫力低下によって症状が出やすくなる病気である帯状疱疹(たいじょうほうしん)肺炎などに注意が必要です。また、B型肝炎結核の既往がある患者さんでは、それらの感染症が再活性化することがあるので注意深く経過を見る必要があります。

症状が重い患者さんにとっては大きなメリットのある治療法といえます。たとえば接客業に従事していると、爪の変形や手指の皮疹など、人目に触れやすい部分に症状があって悩む方は多いと思います。このような場合、衣服で隠れる部分には皮疹が出ていなかったとしても、仕事への影響を重視して生物学的製剤を選択することがあります。

近年、乾癬の研究は大きく進歩しており、次々に新しい治療薬が登場しています。ここでは乾癬に対する治療のトピックスを紹介します。

関節リウマチの治療薬で知られるJAK阻害剤という飲み薬が、乾癬性関節炎の適応追加承認を取得し、保険適用される薬として使えるようになりました。乾癬の治療薬としては今までになかったタイプで、細胞内に炎症のシグナルを伝える分子であるJAK(Janus kinase:ヤヌスキナーゼ)を阻害する作用があります。免疫のはたらきをやや低下させることから副作用として感染症にかかりやすくなることがあるため、患者さんの全身の状態を把握したうえで処方します。

乾癬の治療で用いられる生物学的製剤の開発は目覚ましく、いくつかの薬の臨床試験も行われています。その1つが、重症の病型である膿疱性乾癬の原因として重要なサイトカイン“IL-36”を特異的に阻害する薬です。膿疱性乾癬の患者さんの中には、IL–36受容体拮抗分子を作る遺伝子(IL36RN)に変異のある方がいることが分かっています。膿疱性乾癬の病態に直結するサイトカインであるIL-36を標的とした、画期的な治療薬となる可能性が示されています。

生物学的製剤の開発が進んだことで、乾癬に対する治療選択の幅が広がってきました。関節症状のある患者さんについては、在宅で自己注射を行うことが一般的なTNF阻害薬やIL-17阻害薬を第一選択薬としています。一方、自分で注射をするのも注射の回数が多いのも面倒だと思われる方にとっては、初回は1か月、以降は3か月に1回程度通院しながら病院で注射を受けられるIL-23p19阻害薬が、利便性の面でメリットがあると思います。また、高齢の方では自己注射が難しいことが多く感染症のリスクも高いので、安全性からIL-23p19阻害薬を選んでいます。

このように、患者さんの症状の程度や副作用を考慮するとともに、「薬の投与間隔に合わせて通院できるか」「在宅で自己注射を行うことができるか」といったライフスタイルや事情も踏まえた選択が可能になっています。

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乾癬の悪化を抑えるためには規則的な生活を送ることが大切です。十分な睡眠、適度な運動、バランスのよい食事を心がけるようにしてください。普段の生活では、たとえば次のような対策を取るとよいでしょう。

乾癬の患者さんには肥満の方が多く、脂っこいものが好きで野菜はあまり取っていないという方もよくいらっしゃいますが、食生活の見直しは大切です。近年では、野菜に含まれている食物繊維を摂取するなど腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)腸内フローラ*を健康に保つことで、乾癬を発症しにくくなる可能性があるといわれています。余分な脂肪細胞からは乾癬の病態を悪化させるサイトカインの1つ“TNF-α”が多く分泌されるため、太りすぎにも注意が必要です。過度な飲酒や喫煙も乾癬を悪化させるため控えましょう。

また、乾癬には精神的ストレスが大きく関わっています。乾癬の治療を進めるうえでも、普段からなるべくストレスをためないよう意識してみてください。

*腸内細菌叢(腸内フローラ):ヒトの腸管に生息する腸内細菌の集まりのこと

乾癬の患者さんは生活習慣病を合併しやすく、生活習慣病が乾癬に悪い影響を及ぼすことが分かっています。たとえば高血圧は、腎臓から分泌されるレニン・アンジオテンシン系という調節システムを活性化させ、炎症が促進されて乾癬の悪化につながります。糖尿病は、乾癬がインスリン(血糖値を下げるホルモン)の抵抗性を悪化させる炎症を引き起こして血糖値が下がりにくくなることから、乾癬と密接に関係しています。乾癬の患者さんも、生活習慣病を改善することが大切です。

乾癬は、傷ついたところに皮疹が生じる“ケブネル現象”を引き起こす性質があります。たとえばお風呂に入ると皮膚がふやけてむけそうになりますが、その刺激は乾癬を誘発するためむかないようにしてください。ゴシゴシこすり洗いをするのもよくありません。なるべく肌に刺激を与えたり傷つけたりしないよう、優しく扱うようにしましょう。

乾癬は昔から知られている病気ですが、最近まで治療の選択肢は多くありませんでした。一所懸命治療に取り組んでいるのに、塗り薬や飲み薬だけでは皮疹を改善できない患者さんも少なくなかったことと思います。今では治療の選択肢が増え、患者さんによって皮疹のない状態まで回復が期待できる時代になってきました。さまざまな治療の手段がありますので、皮疹をもっとよくしたいという患者さんはぜひ皮膚科を受診して、積極的に治療を始めてはいかがでしょうか。

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