インタビュー

乾癬治療の展望——治療薬開発による新たな病態解明の可能性

乾癬治療の展望——治療薬開発による新たな病態解明の可能性
大槻 マミ太郎 先生

自治医科大学 副学長、自治医科大学 皮膚科学講座 教授

大槻 マミ太郎 先生

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特徴的な発疹(ほっしん)が現れ、患者さんの日常生活に支障をきたす乾癬(かんせん)。その要因としては免疫の異常が大きく関わるとされ、免疫細胞が産生するサイトカインをターゲットにした抗体医薬品の開発が世界各国で活発に行われています。乾癬の治療は今後どのように発展していくのでしょうか。日本乾癬学会 理事長としてもご活躍される自治医科大学皮膚科学講座 教授 大槻(おおつき) マミ太郎(たろう)先生に、これからの乾癬治療の展望と、乾癬の病態解明にかける先生ご自身の思いを聞きました。

まず、乾癬の病態について皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、乾癬は特定のアレルゲンに対するアレルギー疾患ではなく、また自分の体の成分を免疫反応で壊してしまう自己免疫疾患ともいえないのですが、遺伝的な背景を有する“免疫の異常”による病気だということです。実際には、そこにさまざまな後天的な環境要因が重なって発症すると考えられています。免疫異常といっても、一般に患者さんが気にする免疫低下とはむしろ逆で、部分的な暴走といったほうがよいかもしれません。

そしてもう1つ、乾癬の病態理解において大事なことは、「乾癬が全身と関連する病気である」ということです。乾癬の患者さんには、メタボリックシンドローム虚血性心疾患高血圧糖尿病脂質異常症炎症性腸疾患ぶどう膜炎などの併存疾患が複数見られるケースも珍しくありません。そして、乾癬の患者さんは皮膚の病気そのもので命をとられる(“life-threatening disease”)わけではないにせよ、乾癬と深く関連する心筋梗塞(しんきんこうそく)などを若年でも発症しやすく、寿命が平均より4年ほど縮まる(“life-shortening disease”)というエビデンスも出ています。

一方で、見た目にも極度に影響することからQOL(生活の質)が損なわれるのも重要ですが、単に見かけが問題の病気ではなく、実り豊かであるはずの本来の人生設計が根底から変わってしまう、QOLを破壊する病気(“life-ruining disease”)という認識も必要です。実際、うつ病を合併することも多いことが知られており、重いうつ状態から希死念慮を抱く患者さんや、最悪の場合は自殺を企図してしまう患者さんがいるのも事実なのです。

乾癬の診断・治療を行う場合は、乾癬以外のさまざまな病気が絡んでいる、そして何かが奥に潜んでいることを常に念頭に置くことが大事です。

乾癬の患者さんは、自分の皮膚の状態を一刻も早く治してほしいと思っているので、まず皮膚科の外来を自発的に受診されます。しかし、上述した高血圧糖尿病などの併存疾患があり、皮膚科以外の診療科を受診する必要がある患者さんは、内科だけでも複数の科を受診しなければなりません。そうすると患者さんの負担が大きくなり、皮膚科しか受診したくない、という方もいらっしゃるのが現状です。

そのため、乾癬の患者さんに対して、皮膚症状については皮膚科医が主治医となるのはもちろんですが、そのほかの内科的・精神科的な問題については皮膚科医がむしろゲートキーパーとなり、総合医的な管理を行うことが求められます。

皮膚科で行った検査から併存疾患が新たに見つかるケースもあります。たとえば、乾癬の患者さんに対して皮膚科で行った血液検査の結果から、糖尿病を疑って内分泌・代謝科へ患者さんを紹介したところ、実際に糖尿病と診断されて治療が始まったこともありました。皮膚科医がゲートキーパーになるというのは不思議な感覚ですが、乾癬の診療における皮膚科の存在価値は大きいと考えていますし、皮膚科医にとっては1人の患者さんをホリスティックに診るやりがいにつながっていると感じます。

また、他科との連携は、乾癬性関節炎に対する治療でも非常に重要です。乾癬の皮膚症状は、適切な治療によってほぼ元通りの状態に戻すことができますが、乾癬性関節炎は皮膚症状と経過が異なり、進行すると関節が曲がったまま、不可逆的になってしまう恐れもあるのです。乾癬性関節炎による症状の進展を防ぐために、できるだけ早期に適切な治療を進めるうえで、皮膚科とリウマチ科、整形外科の連携を強化しなければなりません。また、若手医師が他科連携を学ぶ意味でも、皮膚科以外の診療科と関わって治療を進めることが非常に大切です。

治療法に百花繚乱という言葉は不適切かもしれませんが、今や乾癬ほど治療手段が多い皮膚疾患はないと言っても過言ではありません。ただ、裏を返せば、完治させうる治療がないからこれだけの数になった、ともいえるわけです。いずれにせよ、特殊な治療や新しい発見をもとにした治療が続々登場しており、乾癬の患者さんを治療するにはそれらに精通しなければならないため、若手医師は乾癬を扱っていれば皮膚科の治療の極意をかなりの部分、マスターすることが期待できます。

たとえば、乾癬に対する紫外線療法はその歴史が長く、照射装置も多数開発されていますし、外用薬はステロイドをはじめ、さまざまな種類のものが適応となっています。内服薬についても日々開発が進められており、最近ではまた新しい薬が登場しましたが、数ある乾癬の治療薬のうち近年特に勢いがあると感じるのは抗体医薬品です。

抗体医薬品の一種であるTNF阻害薬が日本国内に登場した当初、それはリウマチの治療薬としてもっとも注目を集めました。その後、さまざまな種類の抗体医薬品が登場し、これまでにさまざまながん炎症性腸疾患多発性硬化症肝炎などの治療にも承認されています。最近(2021年1月時点)のトレンドとして、免疫疾患における薬剤開発はまず乾癬から始めて承認を取得し、その後ほかの疾患領域における追加適応取得を目指す、という世界的な趨勢(すうせい)も見受けられます。

乾癬の治療に適応される抗体医薬品は、インターロイキン(IL)-17やIL-23をはじめ、IL-36をターゲットにしたものも開発中です。私が学生によく質問する「さて、サイトカインはいくつまで知られているか?」という質問の意図は、皮膚科領域で治療標的として開発されるサイトカインは比較的最近発見・同定されたものが多い、ということなのです。IL-31やIL-33はアトピー性皮膚炎、そしてIL-36は膿疱性乾癬掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)を対象に臨床試験が組まれており、なかには承認申請までこぎ着けているものもあります。そのため、若手医師が乾癬の治療薬を勉強することは皮膚免疫疾患、すなわち皮膚科領域の免疫疾患はもとより、免疫学そのものの勉強にもつながるでしょう。

乾癬は見た目にもインパクトがある病気で、なおかつ病態は複雑であり、治療薬を作ってみても効果が出なかったというケースもこれまでにありました。では、効果を確認できなかった研究に意味がなかったか、というとそうではなく、ある物質をターゲットにした治療薬が“効かなかったこと”が分かれば(POC、すなわちproof of conceptが得られなかったという表現を使います)、次に何をターゲットにするかが絞られてきます。1つのトライアルが行われ、その過程で“新しいターゲット”を発見できれば、実臨床でその薬剤が日の目を見るかどうかは別として、病態の理解は深まっていくのです。

基礎(非臨床)から臨床開発まで幅広い研究を目指すトランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)が円滑に進む乾癬は、病態解明の見本のような領域といえ、乾癬の研究には今も世界中の企業が力を入れて取り組んでいます。それでもまだ乾癬という病気の根源にたどり着いたわけではありませんが、病態解明が進むことで乾癬の治療がよい方向に向かっているのは確かです。糖尿病などの併存疾患が放置されてひどい状態で見つかったり、乾癬に伴ううつ病で引きこもったりするケースも、かつてに比べると確実に減ってきているはずです。

バイオシミラー(バイオ後続品)*がどんどん出てきています。今後、乾癬の治療薬としても次々と登場してくるでしょう。折からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響により経営状況が非常に悪化している病院も多く、医薬品材料費のコストダウンに直結するバイオシミラーへの需要は、これからますます高まっていくだろうと予測しています。

*バイオシミラー:先行バイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性、有効性を有する医薬品として、異なる製造販売業者により開発される医薬品。

乾癬は基本的に“よくなる”過程が見た目にも分かりやすい病気であり、病変を消すことで患者さんを即ハッピーにして喜んでもらえるので、そのヴィジュアルなインパクトは眼科手術(見えなかったものが見えるようになる)に匹敵するような認識をもっています。逆にいうと、うまくいかないときはその責を免れず、ごまかしがききません。

乾癬は20歳代の若年層にも起こり得る病気であり、患者さんの中には進学や就職、そして結婚をはじめとする重要なライフイベントと、病気を抱えたまま向き合う人も少なくありません。そのような若い方が乾癬にかかると、症状の重さによっては生きる活力を失ってしまったり、仕事に就くことを諦めてしまったりすることもあります。

これはただ医師(主治医)として悲しいだけでなく、国の将来を考えても憂うべきことです。そのような事態を引き起こさないためにも、私はこれからも乾癬の治療をさらに発展させるために最大限注力し、1人でも多くの乾癬に悩む患者さんを救っていきたいですね。

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