インタビュー

乾癬とは? 症状との上手な付き合い方について

乾癬とは? 症状との上手な付き合い方について
山口 由衣 先生

横浜市立大学大学院医学研究科 環境免疫病態皮膚科学 教授

山口 由衣 先生

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皮膚が赤く盛り上がったり粉が出たりする病気、“乾癬(かんせん)”。皮膚の状態は見た目に影響が出やすいことから、患者さんは大きな精神的負担を抱えることがあります。乾癬を発症したらどのような治療やセルフケアを行うとよいのでしょうか。本記事では、乾癬とはどのような病気なのか述べるとともに、日常生活での上手な付き合い方などについて、横浜市立大学大学院医学研究科 環境免疫病態皮膚科学 教授の山口 由衣(やまぐち ゆきえ)先生に伺いました。

乾癬は一言でいうと“免疫の病気”です。免疫細胞が何らかの原因により活性化して表皮細胞が刺激されると、表皮のターンオーバー(新陳代謝)が異常に早くなります。そのために皮膚が厚くなったり赤くなったり、銀白色の鱗屑(りんせつ)と呼ばれる粉がボロボロと落ちたりする状態です。患者さんの約半数ではかゆみも生じます。

乾癬は決してめずらしい病気ではなく、患者さんの数は増加傾向にあります。これまでは日本人のおよそ0.1%と推定されていましたが、乾癬に対する認知度の向上もあり、最近では約0.3~0.4%といわれるようになりました。日本での男女比は2:1で男性に多くみられます。 

乾癬は、現れる症状によって次のように分類されます。

乾癬として典型的な皮疹を生じる一番多いタイプは尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)といいます。尋常性は“普通”という意味で、乾癬の患者さんの約80%が尋常性乾癬です。

皮膚の症状に加えて関節に炎症が起こるタイプは、乾癬性関節炎と呼ばれています。近年、日本における乾癬性関節炎の有病率は乾癬患者さんの14~15%という報告があります。

全身が真っ赤になって発熱し、膿疱(のうほう)(皮膚に(うみ)がたまったもの)が生じるタイプを膿疱性乾癬といいます。その中でも全身に膿疱が現れる汎発性膿疱性乾癬という病型は国の指定難病となっています。

皮疹が広がって全身が赤くなるものは乾癬性紅皮症という重篤な病型です。

水滴のような細かい皮疹が出るタイプは、滴状乾癬といいます。

乾癬の発症のメカニズムは完全には明らかになっていませんが、遺伝的要因が関わっているといわれており、発症に関わる要因は乾癬のタイプや人種によって異なります。たとえばHLA-Cw6という遺伝子は乾癬との関連が知られていますが、乾癬の患者さん全員が保有しているわけではありません。また、遺伝的要因を持っていても発症しない方もいます。

乾癬は、発症しやすい素因を持っている方が関節への負荷や皮膚への摩擦といった外的な刺激を受けることにより、乾癬が引き起こされやすくなるといわれています。また、細菌感染などの感染症も乾癬を引き起こす環境因子となります。それらに加えて、肥満やメタボリックシンドロームなどの要素が組み合わさることで発症しやすくなると考えられています。

肥満やメタボリックシンドロームとの関係とは?

乾癬の患者さんの体内では、さまざまな炎症症状を引き起こすサイトカインと呼ばれるタンパク質が過剰に作られています。なかでも、乾癬に関与する “TNF-α”というサイトカインは、脂肪細胞から分泌されて動脈硬化糖尿病のリスクを高める物質です。

乾癬の患者さんには肥満、メタボリックシンドローム、動脈硬化、糖尿病などの病気が健康な方と比べて多く、これらの病気は乾癬と悪影響を及ぼし合うことが分かっています。その仕組みは完全に解明されているわけではありませんが、共通物質のTNF-αが原因となっているのではないかと考えられています。

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乾癬には特徴的な皮膚症状があり、皮膚科を専門とする医師なら見た目だけでも診断することが可能です。症状が似ているほかの病気と見分けるために、皮膚を切り取って顕微鏡で調べる皮膚生検を行うこともあります。患者さんによってはX線検査、関節エコー検査、MRI検査、血液検査などを行い関節の炎症を確認します。また、乾癬に悪い影響を与える動脈硬化糖尿病などの病気を改善して乾癬をより適切にコントロールできるよう、血液検査などにより全身の健康状態を調べることも大切です。

乾癬と似た症状がみられる病気にはさまざまなものがあるため、自己診断はせず皮膚科の受診をおすすめします。たとえば、一般的な皮膚炎の1つである脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)も、頭皮や髪の生え際に炎症が起こってフケが出る病気です。脂漏性皮膚炎は髪の毛の生えている部分から皮膚炎がはみ出すことはなくフケはパラパラとして細かい一方、乾癬はより広い範囲に生じて頭皮全体が赤くなり、皮膚はフケよりも大きく剥けてきます。こうした違いはありますが、症状によっては見分けがつきにくいことも多いため、気になる症状があれば一度ご相談ください。

皮膚だけでなく関節にも症状がある方は乾癬性関節炎の可能性が考えられます。特徴としては、手がこわばる・足をつくときに足底(足のうら)が痛む・骨盤の仙腸関節(せんちょうかんせつ)という部分に痛みが出て動くと治まってくるといったものがあり、こうした症状は特に朝に強く現れます。また、爪の変形がある方は乾癬性関節炎のリスクが高いといわれています。乾癬性関節炎では(けん)靱帯(じんたい)の骨との付着部に炎症が起こり、新しい爪を作る細胞に影響をきたすためです。

乾癬性関節炎は、進行すると関節の破壊が生じてくるため早期発見が重要です。皮膚科を受診した場合でも、関節の症状があれば医師に伝えてください。近年では皮膚科以外の診療科にも乾癬の認識が広まり、リウマチ科や整形外科と連携しながら診察や治療を行うこともあります。

乾癬の治療の選択肢は多様であるため、患者さんと医師で相談しながら症状に合った方法を選びます。主な治療方法は次のとおりです。

乾癬の基本的な治療は外用療法です。症状が重い方でも、多くの場合まずは塗り薬で症状のコントロールを行います。大きく分けてステロイドとビタミンD3の2種類があり、両方の作用が組み合わさった合剤も存在します。

飲み薬は、次の5剤が保険適用されています(2021年10月現在)。

  • レチノイド(ビタミンA誘導体)……肌のターンオーバーを整えて角化を改善します。男女とも一定期間の避妊が必要となるため生殖世代には慎重に使用を検討しますが、免疫抑制剤の使用を避けたい方や高齢の方などに処方することがあります。
  • シクロスポリン、メトトレキサート……活性化した炎症細胞のはたらきを広く抑える免疫抑制剤には、シクロスポリン、メトトレキサートがあります。
  • アプレミラスト(PDE4阻害薬)……PDE4という酵素を阻害して活性化した細胞を落ち着かせる免疫調整薬です。副作用があまり強くなく診療所やクリニックでも処方できます。
  • ウパダシチニブ(JAK阻害薬)……ヤヌスキナーゼ(JAK)という乾癬の炎症に関わる因子を阻害する薬剤で、乾癬の中でも乾癬性関節炎のみに適応になりました。

紫外線療法は、紫外線を照射することによって、活性化した表皮細胞や炎症細胞を落ち着かせる効果のある治療方法です。近年、乾癬にはナローバンドUVBという極めて狭い範囲の紫外線を当てる治療が普及しています。

上述した治療法では皮膚の症状が抑えられない場合や、関節にも強い症状がある場合などは、生物学的製剤という注射剤を検討します。2021年現在は10種類の生物学的製剤が保険適用されており、点滴や皮下注射などのタイプも、効果もさまざまです。

乾癬の治療では、患者さんの症状、背景にある基礎疾患、病院にどれくらいの頻度で通えるかなどを総合的に考慮しつつ治療法を選択します。患者さんの生活スタイルや希望をふまえて相談していくことも重要です。

症状が軽度であっても、手や頭などの目立ちやすい場所に皮疹が出て社会生活に影響をきたすという場合には、必ずしも塗り薬だけで治療を行うのではなく、生物学的製剤などのより強い効果が期待できる治療を選択することもあります。

「スーツを着用するのに大量のフケが落ちてしまう」「名刺を交換するときに爪の変形が水虫と間違えられそうだ」といった困りごとに対して、生物学的製剤を使用する、爪の症状によく効く飲み薬を選択するといった臨機応変な個別対応を行うことも可能です。こうした希望があれば、ぜひ医師に伝えてください。

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乾癬は皮膚の症状が出るだけでなく、生活習慣病を合併して全身の状態にも関わってくる病気です。症状の悪化を防ぐためには生活習慣の改善や皮膚に刺激を与えないことも重要になります。

ここでは、患者さんご自身でできる乾癬のケアについて説明します。

食事はバランスよく取ることが大切です。食べてはいけないもの、食べたほうがよいものなどは特にありませんが、脂っこい食事を控えることは大切です。肥満は症状の悪化につながるため、太りすぎないよう気を付けましょう。

機械的ストレス(体の細胞や組織に負荷を与える刺激)、心理的ストレスの乾癬への影響は強く、皮疹を悪化させることが知られています。普段からストレス管理を行うようにしましょう。

先述したように乾癬はメタボリックシンドロームや肥満との関連が知られており、その対策として日頃から運動を心がけることが大切です。体操、ウォーキング、ストレッチなど、適度な運動を行いましょう。

皮膚の赤く盛り上がった部分を、入浴時にナイロンタオルを使ってこすり落とそうとしたり、人目が気になってつい剥いてしまったりするという方は多いかもしれません。しかし、皮膚を剥く刺激は“ケブネル現象”といって皮疹を誘発してしまうため逆効果です。皮膚への刺激を与えないよう注意してください。

乾燥は症状を悪化させるといわれています。皮膚の乾燥対策として、しっかりと保湿を行いましょう。

紫外線の強い夏は症状が軽く、冬になると悪化するという方がよくいらっしゃいます。一般的に日光浴は乾癬の症状改善として有益なため、多くの患者さんには適度な日光浴をしてよいとお伝えしています。

しかし、日光を過剰に浴びると皮膚がんのリスクを高めてしまうため注意が必要です。また、紫外線に当たると光ケブネル現象といって乾癬が悪化する方もまれにいることや、使っている薬によっては日光浴が悪影響になることからおすすめできない場合もあります。日光浴を行ってもよいか、まずは主治医と相談するようにしてください。

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乾癬には、膿疱性乾癬というまれな病型があります。発熱とともに、体に赤い発疹(ほっしん)を伴った水疱(すいほう)膿疱)が多発する重症のタイプです。遺伝的な要因が強く影響することが分かっており、感染症などの環境要因がきっかけで発作のように症状が起こる病気です。

重症度の高い患者さんは、症状が出たら入院が必要になる場合がほとんどです。皮膚症状以外にも、ぶどう膜炎という目の炎症を起こす場合や、まれに心不全ARDS(急性呼吸窮迫症候群:Acute Respiratory Distress Syndrome)という命に関わる状態になることがあるため、その場合の治療は緊急を要します。

膿疱性乾癬は、患者さんの症状がいつも何をきっかけとして悪化しているかによって取るべき対策はさまざまですが、一般的には感染症に気を付けて規則正しい生活を心がけることが大切です。症状の悪化を繰り返している患者さんにとっては、かぜをひいたときや疲れているときなど、ご自身でも症状が出やすいタイミングを把握されていることが多いのではないでしょうか。

また、近年の生物学的製剤の登場によって、膿疱性乾癬をコントロールしやすくなってきました。症状が落ち着いていれば、基本的には尋常性乾癬と同じような治療を行います。残っている皮疹があれば塗り薬を使いつつ、発症のきっかけとなりやすいかぜなどに気を付けて過ごしましょう。

乾癬による皮膚の症状は見た目にも問題となりやすく、精神的な負担を抱えている患者さんも多くいらっしゃいます。個人差はありますが、実は乾癬はうつ病の合併率が高い病気で、精神科での治療が必要になる場合があります。処方される薬によっては乾癬の症状を悪化させる恐れがあるため、皮膚科と精神科でしっかりと連携を取りながら診療を行うことが重要になります。

治療の選択肢が限られていた時代から乾癬と付き合い、よい治療法が見つからず苦しんできたという患者さんは少なくありません。だからこそ、まずは患者さんが治したい症状を医師に話してくださるようなコミュニケーションを取り、悩みに一つひとつ対応していくことが、患者さんへの精神的なケアにもつながるのではないかと考えています。

患者さんが医師に対して困ったことやつらいことを率直に話せる関係が理想的です。ぜひ、主治医と正面から向き合って、悩みや願いをぶつけてみていただければと思います。

また、同じ治療法を長く継続している方でも、「別の治療を試してみたい」「皮膚をもっときれいにしたい」といった希望を医師に伝えたら治療が変わることもあるかと思います。最近では新しい治療の選択肢が次々に登場しているため、治療を諦めていた方も医師に相談してみてください。

乾癬は昔から皮膚病として知られていた病気ですが、実は肥満や動脈硬化関節炎などにも関わる全身性の炎症の病気であるということが分かってきました。症状が軽度でも徐々に悪化してしまう恐れがあるため、医師から乾癬だといわれたことがある方は、定期的に皮膚科に通院することが大切です。慢性に繰り返す皮膚症状は非常につらいものですが、最近では、よりよい治療法が多数登場してきました。今まで自分に合った治療法がなくて困っていた方や治療を諦めていた方も、ぜひご相談いただいて、一緒に一歩ずつ前進していきましょう。

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