インタビュー

WEB市民公開講座『膿疱性乾癬(GPP)を知る』レポート

WEB市民公開講座『膿疱性乾癬(GPP)を知る』レポート
葉山 惟大 先生

日本大学医学部附属板橋病院 皮膚科 病院准教授

葉山 惟大 先生

2023年1月15日(日)開催

 

2023年1月15日(日)、希少疾患である膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)(GPP:Generalized Pustular Psoriasis)について理解を深めるためのWEB市民公開講座『膿疱性乾癬(GPP)を知る』が開催されました。

前半では日本大学医学部 皮膚科学系皮膚科学分野 助教の葉山 惟大(はやま これまさ)先生による『膿疱性乾癬(GPP)とは?』という講演が行われ、症状や治療方法、患者さんのQOL(Quality of life:生活の質)などについて解説されました。

後半には患者さんによる講演が行われ、当事者の立場から病気に対する向き合い方、コロナ禍における不安や生活上の工夫などについて、実体験を踏まえてお話しされました。本記事では、当日の講演内容についてレポートします。

【目次】

膿疱性乾癬とは、急な発熱や体のだるさとともに、皮膚が赤くなり無菌性の膿疱ができる病気です。膿疱とは、(うみ)をもった水疱(すいほう)(水ぶくれ)のことで、膿疱性乾癬では黄色の小さな膿疱がたくさん現れ、痛みを伴います。

膿疱性乾癬は乾癬の一種ですが、一般的な乾癬である尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)とは症状などが異なります。また、膿疱性乾癬は限局型と汎発型に分けられます。限局型の場合、皮膚の赤い発疹(ほっしん)(皮疹)や膿疱ができるのは体の一部ですが、汎発型は発疹や膿疱が全身に現れるほか、発熱や倦怠感などの症状が現れる重症な型です。そのため“膿疱性乾癬(汎発型)”は、指定難病の1つに定められています。

“かんせん”という言葉の響きから、感染症を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、膿疱性乾癬は免疫システムに異常が生じることで起こる病気だと考えられています。したがってほかの人に感染することはありません。

膿疱性乾癬は珍しい病気で、日本乾癬学会登録データ(2003~2006年)によれば、膿疱性乾癬の患者さんが乾癬全体を占める割合は約1%といわれています。膿疱性乾癬(汎発型)と診断を受けて、指定難病の医療費の助成を受けている患者さんは全国で2,058人です(2020年時点)。また、男女比は男性1.0に対し女性が1.2と、女性にやや多い病気だといわれています。発症年齢は、男性では30~39歳と50~69歳、女性は男性より少し若く25~34歳と50~64歳にピークがみられます。

膿疱性乾癬は炎症が強く現れる病気です。皮膚症状とともに発熱や体のだるさ、むくみ、関節の痛みなど全身に症状が現れます。

皮膚の症状

全身あるいは広い範囲の皮膚に紅斑(こうはん)という赤い発疹が現れます。その上に、 膿疱と呼ばれる膿をもった水ぶくれがたくさん出てきます。膿疱は一度よくなっても何度も繰り返し現れ、最初は軽い症状であってもだんだん重い症状になっていくこともあります。

この膿疱は白血球の集まりですが、細菌感染ではありません。体内に侵入した異物から体を守るはたらきを担う白血球が正常に機能せず、自分の体を攻撃することで症状が起こります。

全身の症状

灼熱感(ヒリヒリした感じ)とともに全身の広い範囲に痛みを伴った皮疹が現れます。多くの患者さんは、高熱が出て悪寒(おかん)を感じます。全身に炎症が起こるので、関節の痛みが現れることがあります。皮膚の炎症が強くなるとむくみの症状が起こる場合もあります。患者さんによっては、こうした膿疱性乾癬の症状の前に尋常性乾癬の症状が現れることもあります。

また、膿疱性乾癬は再発を繰り返すのが特徴です。いったん症状が緩和しても、前述の発熱や関節の痛みといった症状が繰り返し現れ、重症化すると入院が必要になる場合があります。そのため重症化する前に、皮膚科の医師に相談することが大切です。

関節痛や発熱など全身に症状が現れる膿疱性乾癬は、患者さんのQOLにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

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QOLとは

“QOL(Quality of life)”とは、 “生活の質”、“命の質”、“人生の質”などと訳される言葉で、近年重要視されています。

QOLの概念自体は古く、1947年に採択された世界保健機関(WHO)憲章の中ですでに、“健康とは、疾病がないというだけでなく、身体的・心理的・社会的にも満足のいく状態であること”だと定義されています。

たとえ病気が治ったとしても、その後、自分らしい生活を送ることが難しくなっては本末転倒です。WHO憲章では、病気がないと同時に心の安寧や社会に参画できる状態であることが“健康”だと定義され、これが現在のQOLの概念に相当します。QOLを高めるということは、健康かつ幸せな生活を送るうえで重要であるとされています。

膿疱性乾癬患者さんにおけるQOL横断的調査

私たちは、生物学的製剤の導入をはじめとする治療の発展により膿疱性乾癬(汎発型)の患者さんのQOLが変化したかどうかをアンケートによって調べました*。比較したのは、2003~2007年に調査したデータと、それと同様の方法で調査した2016年~2019年のデータです。

一般的な日本人の集団のQOLの平均値を50とし、膿疱性乾癬患者さんのQOLと比較すると、2016年~2019年では治療の進化により少し改善がみえているのが分かりました。それでも全ての項目で一般の方の標準値より低い値であり、課題は残っていると考えられますが、少なくともこの10年間の治療の進歩の結果、患者さんのQOLが改善しているということがこの調査で分かりました。

*Hayama K, et al. J Dermatol. 2021; 48(2): 203-206.

膿疱性乾癬が発症するメカニズムについては、まだよく分かっていない点が多々あります。先ほどもお話ししたように、免疫システムの異常が関わっているといわれており、遺伝的に乾癬を発症しやすい体質に、体の外側と内側からの影響が加わることで体の免疫システムに何らかの問題が生じ、発症するのではないかと考えられています。

外側からの影響の1つに、感染症があります。感染症によって強い炎症が起こると、それが引き金となり発症することがあります。そのほか、薬剤の使用、気候、精神的ストレス、睡眠不足、食事といった影響が考えられます。

内側からの影響としては、糖尿病肥満症などがあると膿疱性乾癬になりやすいのではないかといわれています。

また、発症には炎症性サイトカインという物質が関わっていると考えられています。サイトカインとは、細胞間の情報伝達を担う物質のことで、その中でも炎症を引き起こす物質のことを炎症性サイトカインと呼びます。炎症性サイトカインにはTNF-α、IL-17、IL-23、IL-36などがあります。

炎症性サイトカインによって炎症が起こると、そこに血液中の白血球が集まり膿疱ができるのではないかと考えられています。

膿疱性乾癬の診断のためには、問診、視診、皮膚生検、血液検査などを行います。膿疱性乾癬は、重症化するとまれに命に関わることもあるので、早期診断・早期治療を行うことはとても重要です。

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問診

問診では、いつから症状が現れいつから治療しているか、乾癬と診断されたことがある場合にはどのような治療を行っているかなどを確認します。また、遺伝的に乾癬を発症しやすい体質の可能性を考え、血縁の方に乾癬や膿疱性乾癬の患者さんがいるかどうかを伺います。これまでかかったことのある病気、乾癬以外の病気を治療するために飲んでいる薬があるかどうかを確認することも重要です。中には、服用している薬自体が発症の原因となっている場合もあるためです。感染症や妊娠が発症のきっかけとなることもあるため、最近、なんらかの感染症にかかったことがあるかどうか、女性の場合には妊娠しているかどうかを確認します。妊娠している場合は使える薬が限定されるため、妊娠の有無、妊娠した時期を考慮する必要があります。

皮膚症状で確認すること

皮膚症状に関しては、全身あるいは広い範囲の皮膚に赤い発疹があるか、その上に膿疱がたくさん出ているか、一度膿疱の症状が緩和しても繰り返し現れているか、といったことを確認します。

全身症状で確認すること

全身状態に関しては、発熱もしくはだるさがあるか、むくみや関節の痛みがあるかどうかを確認します。また、まれに目にも炎症が現れ、真っ赤に腫れることがありますので目の状態も診ます。

皮膚生検とは

膿疱ができる病気は複数あるため、ほかの病気と鑑別し確定診断を行うためには皮膚の一部を取って顕微鏡で調べる皮膚生検が必要です。局所麻酔を行ったうえで皮膚の一部を採取し、膿疱性乾癬の特徴的な変化があるか、膿疱が白血球の集まりであるかどうかを確認します。

血液検査で確認すること

炎症の程度や合併症の有無などを確認するために血液検査を行い、白血球数、CRP(C反応性タンパク)、血清アルブミン、血中カルシウムなどを調べます。

炎症があると白血球数は増加します。CRPとは、炎症の程度を表すタンパク質のことです。血清アルブミン、血中カルシウムは重症度の判定に必要です。

遺伝子検査

必須ではありませんが、ご家族にも似た症状の方がいらっしゃる場合には遺伝子検査を行うこともあります。

遺伝子とは、私たちの体の設計図のようなものです。その中でも、炎症を止めるブレーキとしてはたらく物質に関わる遺伝子などに変異がないかどうかを確認し、診断の参考にする場合があります。

重症度の判定

指定難病として医療費助成制度の対象となるのは、“中等症以上”または軽症でも高額な医療の継続が必要な方です。皮膚症状と全身症状の検査の値をスコア化し合計することで、軽症、中等症、重症に分類します。

膿疱性乾癬の治療には、全身療法、外用療法、光線療法があります。患者さんによっては使用できない薬、長期使用に注意が必要な薬もあります。

患者さんの状態やライフスタイルによって適した治療がありますので、診断後、主治医と患者さんとで相談しつつ、一人ひとりに合った治療法を選択していくのがよいでしょう。

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全身療法

全身療法には、内服療法(飲み薬)、生物学的製剤(注射薬)、顆粒球単球吸着除去療法があります。

飲み薬には、皮膚に作用する薬、原因となる免疫に作用する薬、関節に作用する薬などがあります。飲み薬の中には、妊婦さんには使えない薬もあります。また、服用中や服用終了後に避妊をしていただく必要がある薬を使用する場合は、患者さんにしっかりと注意事項を説明したうえで処方します。

生物学的製剤は、注射薬です。免疫の異常をもたらしている炎症性サイトカインに直接作用して、その物質のはたらきを抑えます。炎症性サイトカインにはいくつもの種類があり、生物学的製剤の種類によって標的とする物質が異なります。また、投与法は製剤によって静脈注射(点滴)と皮下注射があり、患者さん自身が注射することが可能なものもあります。炎症を抑えてQOLの向上が期待できる一方、免疫のはたらきが低下して感染症にかかりやすくなることがあるため、使用する前に感染症の有無を検査で確認します。検査の結果が出て生物学的製剤を使用できるようになるまでの間は、内服薬のほか顆粒球単球吸着除去療法などによって治療を進めます。

顆粒球単球吸着除去療法とは、血液中から炎症に関わる白血球を直接取り除いて炎症を抑える治療法です。

外用療法

外用療法は、ある程度症状が落ち着いた慢性期の患者さんに対する治療法として選択される場合があります。主に、免疫のはたらきを抑え炎症を鎮める作用のあるステロイド外用薬を用います。重症度や皮膚症状を診たうえで、炎症の度合いに適した強さの薬を選択します。

光線療法

光線療法も慢性期の患者さんに対して行われる治療法です。免疫のはたらきを抑える作用を持つ紫外線を利用して治療を行います。

PUVA療法という長波長紫外線(UVA:ウルトラバイオレットA)を用いる治療法と、UVB療法という中波長紫外線(UVB:ウルトラバイオレットB)を用いる治療法があります。近年はUVBが主流となっています。

膿疱性乾癬は非常にまれな病気ですが、発症すると皮膚や全身の症状によってQOLが著しく低下することが分かっており、難病に指定されています。指定難病の医療費助成を受けられるのは、皮膚生検と血液検査によって膿疱性乾癬であると確定診断された中等症以上の方(または軽症でも高額な医療の継続が必要な方)です。

近年は、生物学的製剤の進歩、選択できる薬が増えたこと、『膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン』という治療のロードマップが整備されたことなどにより、以前と比べると患者さんのQOLは向上しています。

しかし、炎症が再発することもあり、一般の方と比べると患者さんのQOLはまだ十分に高いとはいえませんので、さらに改善していくため今後も新しい治療方法の開発が望まれます。また私たち、皮膚科医も治療に励んでいく必要があると思います。

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※この報告は1人の患者さんの経過を示したもので、全ての患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。

発症~診断~治療まで

私が膿疱性乾癬を発症したのは、今から4年ほど前、2019年のことです。子どもの頃からアトピー性皮膚炎の持病があり、月に一度は皮膚科に通院する生活を送っていましたが、尋常性乾癬にかかったことはなく突然の発症でした。

腕に半円を描くような見慣れない発疹が現れ、かかりつけの皮膚科を受診しました。最初は、とびひ(伝染性膿痂疹)と診断され治療を続けましたが、皮膚のじゅくじゅくした部分や膿疱はあっという間に両腕に広がり、薬を何度変えてもよくなりませんでした。

発症して約1か月後に総合病院で皮膚生検を受けたものの、やはり診断がつきませんでした。なかなか診断がつかなかったこの時期は特に、皮膚の痛みやかゆみ、灼熱感などの体の症状にも悩まされていましたし、心理的にもとてもつらいものがありました。いったい何の病気なのか、どこまで悪化するのかも分かりません。頑張って治療を続けても症状は日に日にひどくなっていくばかりで、不安と絶望感に包まれていました。

膿疱性乾癬と診断されたのは、発症から約5か月後のことです。病名が分かったときは、ショックを受けるよりも「これでなんとかなるかもしれない」という思いのほうが強く感じられました。

入院治療によって一時は症状も落ち着いたものの、慢性期に入って再び症状が悪化することもありました。そこから、症状が落ち着くまでさらに数か月がかかり、その間は、なかなか希望や期待を持つことができませんでした。

「なぜ治療がうまくいかないのだろう」という思いが強く、皮疹が減っても関節痛やだるさ、爪の変形が生じるなど一進一退の状況に焦ったり落ち込んだりと、急性期とはまた違ったつらさを感じました。

現在の状況

現在は、関節の違和感や多少の皮疹、だるさなどは残っているものの、日常生活に支障が出ない程度に症状は落ち着いてきています。趣味も少しずつ楽しむことができるようになりました。症状が落ち着くにしたがって、心理的なつらさも和らいできています。

苦労していること

日常生活で苦労していることは感染症対策です。私は、膿疱性乾癬の治療のために免疫を抑制する薬を使っています。

症状が落ち着き仕事に復帰した頃にコロナ禍となったので、新型コロナウイルスに感染したら重症化してしまうのではないかと不安でした。

工夫していること

皮疹や関節痛が悪化しないように、洋服や靴はワンサイズ大きめで、柔らかくなめらかな素材でできた刺激の少ないものを選ぶようにしています。また、静電気が起こりにくいものを身につけるように気を付けています。

家族や周りの方たち

家族や周りの方たちによる家事や育児のサポートは、とても助かりました。さらに、以前と変わらない態度で私の心を支えてくれました。つらいときも、家族や周りの方たちとのたわいもない会話をすることで救われたと感じます。

皮膚科の先生方

主治医の先生はもちろんのこと、ほかの先生方も一緒に私を支えてくれました。治療がうまくいかないときには、海外に似た症例がないか探してくださったり、大学病院のカンファレンスにかけてくださったり、真摯に向き合ってくださる先生方の姿を見て、私自身も諦めずに治療を続けることができました。

また、主治医の先生がかけてくださった「元の生活に戻れますよ」という言葉は、心の支えになっていました。

患者会

私は症状がまだ改善されないうちに患者会に参加したのですが、患者会の方たちは、「気にしないで。私も背中に症状が出ているよ」とやさしく声をかけてくださいました。

何をやっても症状が緩和されないと悩みを打ち明けると、「自分もそういう時期があった」と教えてくれました。自分のつらさを理解してもらえたとうれしく感じたのを覚えています。

患者会に行ってよかったことは、仕事に復帰し趣味も楽しんでいる方たちの姿を見られたことです。治療を続けていくうえでとても励みになりました。

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私は、膿疱性乾癬について、大きな病気を抱えてしまったと考えるのではなく、体質の一部だと捉えています。

また、主治医の先生にこまめに相談するようにしています。体の状態が100点ではないことに対して、ただ漫然と諦めたり我慢したりするのではなく、治療を行う理由・行わない理由について先生と話をし、現状維持する理由について自分でも納得して折り合いをつけるようにするのです。そういった小さな積み重ねが病気と長く付き合っていくうえで大事だと思っています。

膿疱性乾癬の患者さんやご家族の方は、つらさや孤独感を覚えたり、治療に対して不安を抱えたりすることもあるかと思います。そんなときは、製薬会社や医師が関わっているWEBサイトや患者会にアクセスしてみてください。見るだけでもかまいませんし、患者会のセミナーなどには匿名で参加することもできます。生活に役立つ情報と、いざとなったら相談できる場所があり、支えてくれる仲間がいることを知ってもらえたらうれしく思います。

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