セリアック病とは、小麦などに含まれるグルテンに対し異常な免疫反応が生じることで、自分自身の小腸粘膜を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患です。グルテンへの異常な免疫反応によって小腸が障害を受けると、腹痛や下痢などの症状が現れます。
札幌医科大学消化器内科学講座 仲瀬 裕志教授によると、セリアック病の治療の第一選択は、グルテン除去食の適応であるそうです。しかし、重症化した方には、最新の治療法も登場しているといいます。それは、どのような治療法なのでしょうか。
今回は仲瀬 裕志先生に、セリアック病の主な治療法についてお話しいただきました。
セリアック病の原因や症状、日本で増加傾向にある理由については記事1『セリアック病の原因や症状とは? 日本で増加傾向にある理由』をご覧ください。
セリアック病の治療では、まずはグルテン除去食が適応されます。具体的には、小麦やライ麦、大麦を含む食品の摂取を避ける必要があります。このグルテンはパンやパスタのみならず、市販のスープやソースなど広範囲に含まれている可能性があるため、実施には詳細なリストが必要になるでしょう。
そのため、グルテン除去食の適応では、管理栄養士のサポートを受けることも有効です。
医師の診察はもちろんのこと、食事においては管理栄養士や看護師の指導を受けることが効果的でしょう。
グルテン除去食を適応することで、おおよそ1〜2週間でセリアック病の症状は改善されるといわれています。
欧米では、難治例や重症化した方には、アザチオプリンと呼ばれる免疫抑制剤を使用します。この免疫抑制剤によって、T細胞(免疫反応を促進するリンパ球)などの免疫反応を抑えることで症状を改善します。
ステロイドによる治療も効果は認められているのですが、副作用が大きい点が課題となっていました。
そこで2017年に新たに登場した治療法がオープンブデソニドでです。ブデソニドとは、ステロイドの一種であり、クローン病(大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍が生じる原因不明の疾患の総称)に適応されている薬です。
このブデソニドの特徴は、局所での炎症を抑えることが可能であることに加え、体の中に入ると肝臓で不活性化され、ほとんど副作用が現れない点です。
オープンブデソニドとは、ブデソニドのカプセルをはずし、なかに入っている粉状の薬剤を直接患者さんに服薬してもらう治療法を指します。このオープンブデソニドは、グルテン除去食を適応しても改善されないセリアック病の患者さんに効果が認められています。
まだ効果が認められたばかりですが、今後は一つの治療法として確立されるのではないでしょうか。
記事1『セリアック病の原因や症状とは? 日本で増加傾向にある理由』でお話ししたように、私は、過敏性腸症候群(下痢や便秘が発生する腸の疾患)の患者さんのなかに、セリアック病の方が隠れているケースが少なくないと考えています。
過敏性腸症候群の治療を受けても改善されないようであれば、セリアック病の可能性を考えてもよいのではないでしょうか。
過敏性腸症候群とセリアック病の治療法は異なります。過敏性腸症候群と診断され、腸の動きを整える治療で症状が改善されないようであれば、お話ししたようなグルテン除去食を適応してみるのもよいでしょう。薬剤治療と異なり、グルテン除去食は副作用などもありませんので、試してみる価値はあるのではないでしょうか。
セリアック病は、日本では、大学病院であれば検査してもらえる可能性があるでしょう。たとえば、初診でセリアック病を疑った場合には、グルテン除去食を適応する前に採血し抗体を検査していきます。
また、私たち札幌医科大学病院では、希望する方にはグルテン除去食の指導が可能です。グルテン除去食を適応し改善されればセリアック病である可能性が高いですし、改善されなければ他の疾患の可能性が高くなります。このように結果がすぐにわかるという意味で、グルテン除去食は適応する価値があると考えています。
セリアック病は完治することが難しい疾患ですが、寛解(かんかい:症状が落ち着いて安定した状態)を期待することはできます。一度診断を受けたら一生付き合っていく疾患と捉え、定期的に検査を受け、必要であれば治療を受けることで状態は改善されていくでしょう。
難治例の方は、最も重篤化する可能性があり注意が必要でしょう。たとえば、難治例の方は、腸管炎症が慢性的に続き、その結果、リンパ腫や小腸がんへが生じる可能性があります。
しかし、このような炎症性のがんの発症はすぐに生じません。一般に、セリアック病の症状が現れ始めた頃から10〜20年後であるといわれています。このため、セリアック病と診断された方は、炎症性のがんが発生していないかどうかを確認するために定期的な検査が必要となるでしょう。
欧米では、セリアック病に伴う悪性リンパ腫(血液細胞に由来するがんでありリンパ球ががん化したもの)が数多く報告されています。
セリアック病では、腸管の軽い炎症が継続的に発生します。その炎症に伴い、リンパ球の増殖が局所で生じた結果、リンパ腫が発生すると考えられています。たとえグルテン除去食によって症状が治まったとしても、炎症は残ります。
このため、たとえ症状が治まったとしても、定期的に検査をしていくことがリンパ腫の早期発見には有効でしょう。具体的には、内視鏡によって小腸の粘膜に異常がないかどうかを確認し、必要であれば組織を調べる検査を行います。
セリアック病の日本での発症は少なく、現状では、そこまで症例数は多くないといわれています。しかし、記事1『セリアック病の原因や症状とは? 日本で増加傾向にある理由』でお話ししたように、食生活の欧米化など日本人の生活様式は、大きく変化しています。このように食事や生活の欧米化が進行するにつれ、疾患のパターンも欧米化しつつあります。
たとえば、洋食が多い方であれば、よりセリアック病に罹患する確率は高くなると考えられています。ですので、バランスよい食事をすることが、発症予防には重要です。今後は、患者さんの生活様式などから発症のリスクを判断する必要もあるのではないでしょうか。
セリアック病を発症しても、お話ししたようなグルテン除去食で症状が改善されれば、QOL(生活の質)が向上することは間違いありません。
さらに、お話ししたように、過敏性腸症候群の患者さんのなかにセリアック病の方が隠れている可能性も高いと考えています。過敏性腸症候群の治療を受けてもなかなか症状が改善されない場合には、主治医の先生としっかりと話しあい、グルテン除去食を試してみるのも一つの手であるでしょう。
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
日本炎症性腸疾患学会 副理事長日本消化器免疫学会 理事日本小腸学会 理事日本高齢消化器病学会 理事日本内科学会 評議員・総合内科専門医・指導医日本消化器病学会 財団評議員・消化器病専門医・消化器病指導医・炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン作成委員会副委員長・北海道支部 幹事日本消化器内視鏡学会 社団評議員・消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医
炎症性腸疾患の病態研究における第一人者の一人。炎症性腸疾患とサイトメガロウイルスの関連などの研究のみならず、消化器内科分野における外科、放射線科、化学療法部との密接な協力体制により患者さんのよりよいQOLのための高度先進医療を目指す。
仲瀬 裕志 先生の所属医療機関
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