インタビュー

ADHDと仕事——向いている仕事、向いていない仕事はある?

ADHDと仕事——向いている仕事、向いていない仕事はある?
岡田 俊 先生

奈良県立医科大学精神医学講座 教授

岡田 俊 先生

この記事の最終更新は2018年01月12日です。

ADHD(注意欠如・多動症)は、12歳以前から学校、家庭、職場などの複数の場面で発達水準に不相応な不注意、多動性-衝動性が認められる発達障害です。もともとは子どもに認められる障害と考えられ、多動性−衝動性を中心にその症状が軽減し、成人期になると多くは軽快すると考えられてきました。

しかし、不注意症状を中心として、大人になってもADHDの症状が継続することがわかってきました。大人は家庭や仕事など、子どものころとは異なる社会生活が求められます。ADHDのある方が仕事や家庭生活を送るにあたり、本人や周囲は何に気をつければよいのでしょうか。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部 部長の岡田 俊先生に詳しくお話を伺いました。

大人のADHDは、子どものころにみられるような落ち着きのなさは目立ちません。しかし、心が落ち着かない、感情のコントロールが難しい、リスクのある状況を回避できないといったかたちで持続することが少なくありません。

大人のADHDについてはこちら

この質問に答えるには、前提として、成人期ADHDの方が、どの程度いらっしゃるかが明確でなければなりません。

学童期の子どもの3〜7%、成人の2.5%がADHDと診断されると考えられてきました[注1]

しかし、現在、広く用いられている米国精神医学会の診断基準が改定され、成人期の診断基準は緩和されました。現在の診断基準に基づく推測では、およそ3.55%が成人期ADHDと診断されると推測されています[注2]

しかし、報告されている成人期ADHDの有病率は国によりかなりの開きがあります。本邦における調査では、成人期ADHDの有病率は、1.65%と見積もられています[注3]。どのくらいの人が働けているか、を考えるとき、その分母となる患者群が軽症例を含むかなり広い群なのか、かなり困難の大きな一群に限っているのかも考慮する必要があります。

少し古い研究になりますが、英国において成人期ADHDの1001人の社会的転帰を調べた研究があります。その結果、職にある人が有意に少なく (52% vs. 72%)、過去10年間に転職した回数が有意に多いこと(5.4 vs. 3.4回)が報告されています[注4]

しかし、このような値は、ADHDの有無だけでなく、就職や転職を巡る社会の状況によっても影響を受けます。また、ADHDにはうつ病双極性障害、不安症、ニコチン依存など、さまざまな併存症を伴うことがあり、ADHDよりもこれらの併存障害によっても影響を受けますし、ADHDや併存症に対する治療提供の状況によっても異なってきます。

そのため、本邦にこのままの状況をあてはめることはできません。また、今日では、成人期におけるADHDの診断基準が緩和され、軽症例を多く含むようになっていますから、就労率も高くなっているでしょう。

しかし、ADHDの方のなかには、仕事に困難を抱える人がいる、ということは確かです。その一方で、ADHDはとても身近な障害で、多くの方が働けていると考えていいでしょう。障害名と就労の可否を直結することは適切ではありません。

注1:Simon et al., Br J Psychiatry, 194: 204-211, 2009

注2:Matte et al., Psychol Med, 45(2): 361-373, 2015

注3:中村和彦ほか, 精神治療学, 28(2): 155-162, 2013

注4:Biederman et al. J Clin Psychiatry, 2006

ADHDの成人の方が抱えることのある困難には、以下があります。

  • 不注意なミスが多い
  • 気が散りやすく、注意が持続しない
  • 1つのことをやり遂げないまま、別のことを始めようとするときがある
  • 仕事の優先順位を決めるのが苦手
  • 複数のことを同時にこなさない状況になると作業効率が下がる
  • 報告書の作成、書類の漏れない記入、長い文書の見直しが苦手
  • ぼーっとしたり、他のことを考えてしまうことがある
  • 電話の折り返し、お金の支払いや会合の約束を忘れる
  • じっとしていないといけない状況で落ち着かない
  • はしゃぎすぎる、怒りっぽいなど、感情のコントロールが苦手
  • 他人の言葉をさえぎって話し出すことがある
  • 他人のしていることに口出しや、横取りをしてしまう
  • リスクを伴う行動を回避できない

ADHDのある方に、これらすべての困難が顕著に認められるわけではありません。他方では、これらの困難は、程度の差こそあれ、ADHDではない人も含め、すべての大人が経験することでもあります。

どの項目も、その程度や頻度が発達水準に相応かどうか、という程度の差ということになります。ですから、本来ならばADHDでない方も共感・理解できるところであるはずが、実際には本人の努力や能力の不足、やる気のなさであるといわれてしまいます。それが、ADHDのある人を悩ませることになるのです。

ADHDの患者さんは、仕事の向き不向きというよりも、仕事の振り方で本人の能力が発揮されるかどうかが変わります。

適材適所の業務内容であれば問題なく仕事ができても、業務量や内容が変わったり、部署や役職の変更、上司の指示の出し方が変更されたりすると、その仕事を苦手に感じてしまうことがあるのです。

ADHDの方には不注意がある、といいますが、この表現は不正確です。興味のある分野や卓越した分野では過度な集中力を発揮する一方で、興味から外れた作業では集中力が低下します。

ADHDでない方は、状況に応じて何にどれくらい集中すべきかを柔軟に変化させることができますし、そのような柔軟性を求められます、しかし、ADHDの方はそのような柔軟性を持つことが難しいのです。

新しいことに取り組むエネルギーは卓越しています。しかし、単調な作業を長時間行うことが苦手で、注意がそれてしまいがちです。

一度に多くの作業を抱えると、それを順序立てることで苦手ですが、ひとつずつ作業に取り組める状況では能力を発揮しやすいでしょう。

このように考えると、ある特定の作業ができるかできないかではなく、どういった作業がどのように与えられるかによって、その人の能力が発揮しやすいかどうかが異なってくるのがわかります。

適材適所の仕事であれば問題なく仕事ができても、業務量や内容が変わったり、部署の変更、役職など役割、上司の指示の出し方が変更されたりすると、仕事のしやすさが変わってくるのです。

ADHDに限らず発達障害のある方が、うまく自分の力を発揮できるか否かは、上司の力量によります。そして、発達障害の人が輝ける職場は、その上司の下では、多くの人が自分の個性を活かして活躍できる職場です。これこそが上司の力の見せどころというべきでしょう。

日本人の営業マン

ADHDの方に向いている業種・職種を断言することは難しいですが、このような仕事であれば能力を発揮しやすいものはあります。しかし、同時に注意すべき点もあります。

ADHDがある場合、自分が興味を持て、ときには思い切った新しいことにチャレンジすることも許容され、自分がやった仕事のやりがいが見える方が能力を発揮できます。したがって、軽いADHD傾向はビジネスマンではプラスに働くこともあるでしょう。

その一方で、仕事を広げすぎてどれも中途半端になってしまう、リスクのアセスメントが不十分なこともあります。マルチタスクを抱え、その優先順位を考えマネジメントしながら取り組むことが不得意ですが、かといってあまりに単調なシングルタスクでは集中力を持続させるのは困難です。また、早い時点でその成果がわかる仕事のほうが、次の意欲につながります。

たとえ同じ業種・職種であっても、その職場における仕事の与えられ方や本人の裁量や立場などによって、仕事の向き不向きは大きく変わってくることでしょう。しかし、自分に合わない仕事や職場だからといって転職を何度も繰り返すのもあまり現実的ではありません。

重要なことは、自分の特性をよく知り、現在の状況を自分の特性に合わせるような調整を職場内で行う、あるいは、自分でできる工夫をすることです。

ADHDと診断された方が、仕事で得意なことを伸ばすにあたり、本人や周囲ができる工夫は多くあります。

分業の時代、何もかも自分で完結することが賢明とは限りません。マネジメントが得意な人もいれば、実務に長けた人もいます。

ADHDの方が苦手と感じやすい、マルチタレントであるほうが幅広い分野に適応できるでしょうが、マルチタレントの人が真に優れているかというとそうではありません。

もし、ADHDの方が苦手と感じやすい、優先順位をつけること、同時並行で作業することが必要な業務は、その部分を同僚にお願いするというのもひとつの方法です。

ADHDのある方にとって、上手にメモをとることを習慣化するのは大変なことですが、円滑に仕事を進めるためには一定のルールに基づいて管理することが大切です。最近は電子手帳やスマートフォンなどでのスケジュール管理も可能ですし、時間や場所に合わせたリマインド機能もあります。

また、自分のするべき作業をTo Doリストアップすると、優先順位を考えやすくなり、仕事の漏れを防ぐことができます。

ADHDの人は机の上にものが散らかりがちです。この状態が最も何をどこに置いたかわからない原因となります。机の上は物を片付けて散らからないようにし、メモは机の上にふせんで貼るなど、一定のルールを決めるとよいでしょう。

まずは、ADHDがある方が困り始めたきっかけがどこにあるのかを考えましょう。そして、どの場面で、何に困っているのかを考え、具体的にどのような援助が必要なのかを考えることです。

本人にできない理由を問い詰めても、本人も答えはわかりません。その人が配置転換の後に困難を抱えたのであれば、前の業務とどこが違うのか、その業務の中でどういった指示や作業が苦手なのか、ということを考えることが大切です。

ときには部下や同僚がADHDの方の仕事ぶりに不満を抱き、周囲が批判や非協力的などネガティブな対応をとるためにますます事態が悪化していることがあります。さらに、そのためにADHDの方が精神的な不調をきたすと、なかなか問題が改善しません。

上司の方はADHDの方の同僚の気持ちも聞きながら、業務や人間関係の調整を図っていくことも大切です。

発達障害のある方の早期発見、生活自立や就労支援を含め、生涯にわたる援助の体制と国および地方公共団体の責務を明記した発達障害者支援法があります。この法律に基づいて設置された発達障害者支援センターでは、就労をはじめとする様々な相談を受け付けています。

また、障害者職業センターでは、職業能力評価やワークトレーニング、ジョブコーチの派遣を行っていますし、ハローワークでは主として手帳を持っている方に専門相談員が相談を受け付けています。障害者就労を目指す場合、知的障害のある方の場合には療育手帳が取得できますが、知的障害のないADHDの方は、精神障害者手帳を取得することが可能なことがあります。

近年では、大学にもADHDを含む発達障害などを持つ学生のための相談室ができ、修学や日常生活の援助の相談に乗っているほか、就労支援部門との連携も図られています。

近年では、障害者の法定雇用率を達成している企業が急増しており、企業における障害者の支援経験は蓄積する一方、会社によっては、障害者雇用の進まない現実があります。ADHDは日本の成人期の1.65〜3.55%、およそ100人に2人程度にみられる身近な発達障害です。人は皆それぞれ得意、不得意を持っており、それはADHDでない方も同様でしょう。どのような得意、不得意があるとしても、同じように扱われるというのは当事者の権利でもありますし、同時にそのような得意、不得意をうまくマッチングさせて、企業で能力を活かせるようにすることが人事の腕の見せどころです。

一方では、ADHDのある方のすべてがADHDと認知されているわけではありません。うつ病や不安症など、さまざまな精神症状の不調を伴うこともあり、その背景にADHDがあることもあります。精神的な不調のために、職場との調整を行ったり、就労を制限したりするのは、その企業に雇用された産業医の仕事です。大きな企業では、産業医のほかに、精神科医や心理カウンセラーを配置し、精神的な不調への援助の体制を強化しているところも増えています。

同業種であっても、障害者雇用の進んでいる企業と、進んでいない企業があります。ADHDだから無理などという業種などはなく、きっと対応してきた経験の有無や、産業医との連携など、整備体制の未確立によるものです。一人ひとりの対応を重ねるなかで、ADHDの方だけでなく誰も働きやすい職場作りが進んでいることと確信します。

関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が10件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「ADHD」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください