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第3回 JAMSNET WORLD講演会「世界の医療制度〜その光と影 邦人の視点から~」レポート-前半

第3回 JAMSNET WORLD講演会「世界の医療制度〜その光と影 邦人の視点から~」レポート-前半

JAMSNET東京(ジャムズネット東京)は、海外居住経験を持つ医療、保健、福祉、教育、生活等の...

JAMSNET東京(ジャムズネット東京)

メディカルノート編集部 [医師監修]

メディカルノート編集部 [医師監修]

この記事の最終更新は2018年02月28日です。

去る2017年11月26日(日)、東京大学にて第3回JAMSNET WORLD講演会が開催されました。

邦人医療支援ネットワーク(Japanese Medical Support Network:通称ジャムズネット)とは、海外で活躍する日本人をサポートすることを目的に立ち上げられた団体です。そのネットワークは世界に広がっており、世界各国で日本人の健康を支援する活動が行われています。

本会は「世界の医療制度〜その光と影 邦人の視点から〜」をテーマとし、世界各国のジャムズネットのメンバーが、それぞれの地域の医療制度について発表を行いました。

本記事では、当日行われた講演内容についてダイジェストでレポートします。

はじめに、ジャムズネットニューヨークの代表であり、米国日本人医師会 JMSA (The Japanese Medical Society of America)前会長である本間 俊一先生の発表が行われました。

写真のご提供:ジャムズネット東京

アメリカでは、日本よりも多くの医療費が使われています。それは、アメリカでは、患者さんが支払う医療費に上限が設けられていないことがほとんどであるためです。

さらに、アメリカは高齢になるとともに、医療費が上がるといわれています。今後の高齢化を考えると、これは深刻な問題になっていくのではないでしょうか。近年では、医療費抑制のしくみを設けるなどの対策が行われています。

また、アメリカには市民権がない国民がおり、彼らのほとんどは保険に入っていません。彼らのような無保険者を減らすしくみとして、政府は保険に加入できる収入の制限を広げたり、慢性疾患を理由とした保険加入拒否を禁止するなどの対策を行ってきました。

アメリカの医療は改善点もありますが、見習うべき点もあります。たとえば、その一つが研修医制度です。アメリカには、研修医を育てる病院を認定する第三者のシステムがあります。専門医の認定システムも同様で、第三者の認定試験をパスしなければ資格を得ることができません。

きちんとした診断が行なわれているか確認するシステムが築かれている点は、日本も見習うべき点だと思います。

続いて、Toronto Mount Sinai HospitalのLabor and Delivery(分娩部)で看護師として働く、ジャムズネットカナダの徳原 純子さんによる発表が行われました。

写真のご提供:ジャムズネット東京

私は2004年からカナダのトロントにある総合病院の分娩部で、看護師として働いています。カナダは移民や難民を受け入れていることもあり、トロントには、多国籍、多宗教、多言語の人々が集まっている点が特徴です。実際に私が働く病院にもいろいろな患者さんがいます。同性の結婚が認められていることもあり、パートナーが女性の場合もあります。

また、カナダは、公的資金によって無料で医療が提供されているので、健康カードを持つ人の診療代、治療費、検査費などがすべて無料なのです。

カナダは、80%以上が無痛分娩といわれています。病棟にいても、うめき声や叫び声はしません。テレビをみたり雑談をしながらお産をしている方もいらっしゃり、これには大きなカルチャーショックを受けました。

何かあっても対応できる体制が築かれており、リラックスして出産できる環境が整っている点は特徴でしょう。

また、カナダの病院では、業務の細分化が実現されていると思います。業務が細分化されており、医師も看護師も余分な業務をすることは少ないです。

また、プライベートと仕事の時間が明確にわかれている点も特徴だと思います。

続いて、ジャムズネットドイツの馬場 恒春先生の発表が行われました。馬場先生はドイツのデュッセルドルフにあるノイゲバウア馬場内科クリニックにおいて、主にドイツに暮らす日本人の診療に従事していらっしゃいます。

写真のご提供:ジャムズネット東京

ドイツでは、病院は基本的に入院患者さんのみで、外来の患者さんは近隣の開業医のところにいくよう分けられています。

また、ドイツでは、公的保険の加入者に限り、かかりつけ医の制度があります。これは、家庭医学の専門医をかかりつけ医とする制度で、他の専門家への紹介や入院の指示などもかかりつけ医が行います。

ドイツでは、公的保険とプライベートの保険が共存しています。多くは公的保険に加入しますが、なかにはプライベート保険に加入する方もいます。プライベート保険は、公的保険と比べて保険の適用範囲が広くなる点が特徴です。

乳幼児の予防接種は日本の予防接種の項目やスケジュールと異なります。たとえば、ドイツでは、2歳になるまでにほぼすべての予防接種が終わる仕組みになっています。また、薬のお話をさせていただくと、ドイツでは、ジェネリック医薬品を処方されることが多いでしょう。

私は主にドイツに暮らす日本人の方の診療にあたっていますが、仕事でドイツにいらっしゃる方やその配偶者、お子さんにうつ病などの症状が現れることがあります。

デュッセルドルフには日本語のできる臨床心理士が複数いますが、日本語のできる精神科医、臨床心理士がまだまだ少ない点は課題であるかもしれません。

続いて、ジャムズネットドイツの中川フェールベルク美智子先生の発表が行われました。中川先生はドイツのデュッセルドルフで、産婦人科医として、主に日本人女性の妊娠・出産をサポートしていらっしゃいます。

写真のご提供:ジャムズネット東京

ドイツは、陣痛がきたら病院にいくシステムです。定期検診はかかりつけの医師のところで受けるようになっています。定期検診中に問題があり細かく検査する必要があれば、高度専門医という超音波の専門の医師や胎児診断の専門医のところに行くこともあります。

問題がなければ定期的な検診で、陣痛がきたら病院で入院をしながらお産をします。産後は、3日程度の入院で自宅へ帰り、助産師が定期的に家庭訪問をし、問題がないか確認します。

ドイツの分娩病棟は、基本的に24時間オープンしています。ドイツでは、ムッターパスと呼ばれる母親手帳があります。これは、妊婦さん一人ひとりが持ち歩くカルテになっています。検査結果や問診票、出産予定日などすべて記載されており、ムッターパスを持っていれば、どんな病院でも出産を受け付けてくれます。

妊婦さんは、どの病院で出産するかを決めるために、いろいろな病院をみてまわります。病院側も自分たちの病院を選んでもらうために、見学会を実施するところもあります。

日本女性がドイツで出産する場合、ご両親が日本にいらっしゃり、近くにいない状況がほとんどです。その場合、夫婦で出産に取り組むことになります。日本に帰国せずドイツで出産される場合、夫がサポーターになります。

ドイツでは立会い出産は当たり前です。ファミリールームもあり、産後に夫も一緒に入院するケースもあります。