昭和大学藤が丘病院は神奈川県横浜市青葉区に位置し、昭和大学の教育病院としての役割のほか、急性期病院として地域の方々への医療提供に尽力しています。川崎市北西部や町田市とも近く、地域外からの救急要請も受け入れるなど、幅広い範囲の医療を支える同院の特徴や取り組みについて、病院長の高橋 寛先生にお話を伺いました。
当院は、1975年に昭和大学の教育病院として開院しました。開院以来、地域の医療提供に尽力するとともに、若手医師の育成にも尽力しています。
当院では開院当時、若手医師育成のために最初の一年間は院内に居住して研修するレジデント制度を整えていました。今ではこの制度はありませんが、レジデント制度を行っていた伝統を受け継ぎ、現在の初期研修医制度になってからも先輩医師が後輩の教育をとても熱心に行うよい習慣が生きています。
当院ではそれぞれの専門教育は勿論のこと、救命救急医療を重要視しており、各診療科から若手医師を出向させて救命救急センターで救急医療の経験を積むことができるようにしています。
初期研修医の教育の一環として、4月にスキルアップセミナー(ベーシックコース)として静脈採血、動脈採血、縫合・結紮、尿道バルーン、腰椎穿刺、胸腔穿刺、気管挿管ならびに除細動のトレーニングとしてモデルを使って練習しています。秋にはアドバンスコースとして、消化器内視鏡検査、気管支鏡や気管切開などのより高度なトレーニングを行っています。
医療安全と感染対策は患者さんを守るうえでもっとも重要な事項です。診療にあたっては、安全・安心な医療の提供が最優先されます。そのため、当院では診断や治療が適切に行われているかどうかを多職種も交えたカンファレンスで検討しています。
たとえ小さなミスでも、それが大きな医療事故につながる原因になることもあります。事例を通して“どこに原因があったのか?” “対策はどうしたらよいか?”を詳細に検討し、医療事故を起こさないためにスタッフが一丸となって努力しています。
感染対策では院内感染の防止策として、マスクの着用や、手指の消毒を徹底するように指導しています。主な感染症として新型コロナウィルス、インフルエンザ、ノロウィルス、結核、耐性菌の対策に重点を置いて対策を行っており、普段から感染防止の意識を高めるために感染対策講習会などで教育を行っています。また、耐性菌の問題に対しては抗菌薬使用の管理を徹底しています。
当院は、“地域がん診療連携拠点病院”として指定を受けており、特にがん対策に重点を置いて診療を行っています。
がん治療に関しては、外科手術、化学療法、放射線治療による集学的治療を行っています。手術では、2021年4月より支援手術ロボット“ダヴィンチ”を導入しており、消化器・一般外科や泌尿器科、婦人科で使用しています。従来よりも低侵襲(体への負担が少ない)かつ高度な手術にも対応可能であり、泌尿器科においては術後の性機能保持などの面でメリットがあります。2024年6月には機器を更新し、より安全かつスムーズな手術を目指すことが可能となりました。
また、がんの診療にあたっては、それぞれの患者さんに適切な治療を選択するために、キャンサーボード(多職種で集まり、がん患者さんの治療方針について意見交換や検討、確認を行うカンファレンス)にて十分に検討し、よりよい治療を選択できるようにしています。
がんは、早期発見が予後を左右する大きなファクターです。当院では、内視鏡検査をはじめとして、最新の機器を設備して早期発見に努めています。また、当院ではがんと同様に、糖尿病や動脈硬化に起因する心臓病や脳卒中の対策として“メタボリックシンドローム”の対応にも重点を置いた診療を行っています。
当院では、歯科医師や衛生士が中心となって、口腔ケアに力を入れています。たとえば、外科手術や内視鏡治療、検査を予定している患者さんには、その前から口腔ケアを行っています。
内視鏡治療や検査をする際には局所麻酔を使用するため、一時的に飲み込む力が弱まります。検査や治療中に唾液の誤嚥(食べ物や唾液を誤って気道に飲み込むこと)につながってしまうことがあります。また、誤嚥したまま放置していると、誤嚥性肺炎になってしまう場合もあります。
手術前や検査前に口腔ケアを行うことで、誤嚥や誤嚥性肺炎の発症率が減っています。当院の歯科・歯科口腔外科と協力して、患者さんの口腔ケアに努めています。
当院は、昭和大学病院系列の各病院との連携により、より質の高い医療サービスの提供を目指しています。
中でも特筆すべきは、eICUシステム(遠隔集中支援システム)の導入です。このシステムは遠隔医療の1つで、当院のICU (集中治療室)と東京都品川区旗の台にある昭和大学病院の支援センター(集中治療科の医師、看護師、医師事務補助者の3職種が勤務)との連携により、患者さんの状態をよりきめ細やかに見守り、迅速かつ適切な対応を行える体制となっています。また、当院と昭和大学病院、双方の集中治療科がこのシステムを介してICUにおける治療を24時間サポートしています。当院の集中治療科はICUの患者を治療するだけではなく、重篤な合併症のある場合は術前・術後をとおして主科と協力して治療することにより、術後の合併症や悪化を防ぐ体制を整えています。
また、昭和大学横浜市北部病院や昭和大学藤が丘リハビリテーション病院との連携も行っています。特に北部病院とは毎月1回、院長会議をしています。たとえば、当院で対応が困難な患者さんを北部病院で受け入れてもらうことや、北部病院で対応が困難な患者さんを当院で受け入れるなどの連携をしていきたいと考えています。
同じ昭和大学の病院であり、同じ横浜市の北部に位置する病院として、連携を強めていくことで地域の皆さまに安心して暮らしていただける医療体制を構築できるよう尽力しています。
当院は青葉区に病院が開院した1978年から地域との連携を重視し、医師会をはじめとする地域活動に積極的に参加してきました。現在も私は青葉区医師会の副会長として、地域の医療フォーラムや講演会を共同で開催しています。また、青葉区は防災への取り組みにも力を入れており、医師会だけでなく、歯科医師会や薬剤師会、柔道整復師会、看護師の団体、区役所、アマチュア無線会、FMサルースなどが協力し、毎月防災委員会を開いています。
なお、当院では患者さんがより安心して医療を受けられるように“二人主治医制”を導入しています。この制度は、当院の医師と地域のかかりつけの医師とが連携して、1人の患者さんをともに主治医として診療する取り組みです。普段の診療は地域のかかりつけの医師が担当し、年に一度の精密検査や専門的な診断が必要な際には、当院で検査を実施します。その後、検査結果や治療方針をかかりつけの医師へ報告し、患者さんが一貫した医療を受けられるようにしています。
このような取り組みを通じて、当院は地域医療の質を高め、患者さんに安心して医療を受けられる環境を提供することを目指しています。
同センターは、旗の台の昭和大学病院に設置されていた口唇口蓋裂センターが2017年に当院に移転したことで開設されました。口唇口蓋裂の治療で広く行われている“鬼塚法”を考案し、確立した昭和大学の鬼塚 卓彌名誉教授を名誉センター長として指導に当たっています。
口唇口蓋裂とは、赤ちゃんがお腹のなかで成長するときに、顔の癒合*がうまくいかず、裂け目となって残ってしまう生まれつきの形状異常です。裂け目が唇にみられる場合は口唇裂となります。また、口蓋(口のなかの上側)が裂けていて、口腔と鼻腔がつながっていると口蓋裂となります。
口唇口蓋裂では、見た目だけでなく、言葉や耳の障害も起こしやすいといわれています。そのため、口唇口蓋裂の治療では多くの診療科との協力・連携が必要です。同センターでは、形成外科の医師を中心に、小児科、耳鼻咽喉科や歯科の医師、言語聴覚士など多職種のスタッフがチームとなり診療にあたっています。
*癒合……離れている皮膚や筋肉が付着すること
同センターでは、乳がんの健診や治療を行っています。プライバシーに配慮した診察を行っており、マンモグラフィー検査や超音波検査は移動せずに同センター内で行えるようになっています。また、検査は女性技師が担当しています。
乳がんの治療では長期の通院や、経過観察が必要となります。そのため、昭和大学ブレストセンターや昭和大学江東豊洲病院、昭和大学横浜北部病院に加え、近隣病院やクリニックとの連携を積極的に行っています。
当院では、形成外科による乳房再建術も行っており、術前の診療から一貫した治療を受けていただけます。
当院では、主に横浜市青葉区の2次・3次救急の受け入れを行っています。さらに横浜市の近隣地域のみならず町田市や川崎市北西部の救急患者さんの受け入れにも尽力しています。効率的に救急医療を行えるよう、1次・2次救急を扱うERと3次救急を救命センター内で診療しています。
また災害時には地域の拠点病院としての機能を担うとともに、DMAT(災害派遣医療チーム)の活動でも中心的役割を果たします。
当院では、脳卒中と循環器について救急隊とのホットラインを設置いたしました。このホットラインでは、通常の救急患者さんの受け入れとは別のルートで当院に要請がきます。
たとえば、脳卒中の場合では、患者さんが脳卒中を発症すると地域の医療機関や救急隊から、脳卒中ホットラインに要請がきます。以前は、2次救急へ要請がきたあとに脳卒中ホットラインに要請がきていました。しかし、脳卒中の治療は早く行わなければ予後が悪くなってしまいます。
そのため、患者さんに迅速な医療の提供を目指すために脳卒中ホットラインを設置いたしました。循環器に関しても同様にホットラインを設置しており、循環器専門医(日本循環器学会認定)が常在して、心筋梗塞などの緊急カテーテル検査・治療に迅速に対応しております。
また、地域のかかりつけの先生方からの緊急連絡にも迅速に対応するために、2023年の4月よりチャットツールの“LINE WORKS(ラインワークス)”を導入しました。院内の各部門が即座に連携して対応可否を返答できるようにしており、これまで以上に受け入れ対応が円滑になりました。特に、手術室の確保の必要がない内科系疾患では、ベッドに空きがあれば即時に受け入れ判断をくだすことができるようになっています。
当院では、地域の病院や昭和大学の病院とも連携を密接にし、地域医療の提供に尽力しています。断らない医療の実現のため、診療時間の改正を行いました。たとえば、全科の診療時間を17時まで延長しました。さらに土曜日の午後にも診療を行うようにしました。それ以降の受診はERで受け付けています。今後は、救急患者さんの受け入れをより充実させて、救急要請の応需率100%を目指していきます。
また、横浜市とともによりよい街づくりに貢献していきたいと考えています。当院が、地域の皆さまにのよりよいライフスタイルに貢献できるよう、今後も断らない医療の実現を目指して職員一同で努力してまいります。
*診療科や医師、提供している医療の内容等についての情報は全て、2024年9月時点のものです。
昭和大学藤が丘病院 特任教授 院長
高橋 寛 先生の所属医療機関
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まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。