福岡県福岡市にある福岡和白病院は、1987年の開院以来、福岡市東区の中核的な病院として地域に根ざした医療を提供しています。
24時間365日体制で救急医療を提供することを柱に、地域医療の質の向上に努める同院の役割や今後について、院長の富永 隆治先生にお話を伺いました。
当院では、総合診療救急科において救急医療を担い、24時間365日体制で患者さんを受け入れています。担っているのは高度な救急医療を必要とする3次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)ですが、2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)や1次救急(入院や手術を伴わない救急医療)においても可能な限り患者さんを受け入れています。また、当院は2021年4月に質の高いがん医療を提供していることが認められ、“地域がん診療連携拠点病院”に指定されました。それに合わせて診療体制と相談支援の強化を図っており、その成果もあって、近年は専門的ながん診療を希望する患者さんが数多く来院されるようになりました。
ガンマナイフ治療とは、主に脳腫瘍に対し、ガンマ線という放射線の一種を照射する治療のことです。当院では1995年に九州で初めてガンマナイフを導入し、多くのガンマナイフ治療を行っています。
ガンマナイフ治療のメリットとして、開頭手術では難しい脳内の深い部分の病変に対し、治療を行えることが挙げられます。また、治療後の経過にもよりますが、入院は原則3日間と短い期間です。これらの理由から、ガンマナイフ治療は患者さんの負担をより軽減した治療といえるでしょう。
しかし、全ての脳腫瘍に対しガンマナイフ治療が効果的というわけではありません。そのため、患者さんの脳腫瘍の進行状況やほかの病気がないか総合的に判断し、治療方針を決定しています。
近年は低侵襲手術(患者さんの体への負担が小さい手術)が主流になっています。当院でも腹腔鏡や胸腔鏡を用いた低侵襲な手術を数多く実施してきましたが、手術支援ロボット“ダヴィンチ Xi”の導入で、さらに患者さんの体への負担が少ない手術が行えるようになりました。
ダヴィンチによる低侵襲ロボット支援手術では、患者さんの体に小さな穴をいくつか開け、内視鏡カメラと器具を挿入して手術を行うことから、術中の出血を抑えられ術後の回復も早いといった特徴があります。また、術者は3Dモニターを見ながら、人の手のように細やかな動きができる器具を操作して手術を行うため、従来の手法では手が届かなかった場所でも精緻な手術ができます。
当院では、前立腺がんを中心に大腸がんや肺がんなどの手術でダヴィンチを用いた手術を行っています。
循環器内科・心臓血管外科・脳血管外科・放射線科という、血管病に関わる4科が1つのチームになって活動しているのが“心臓・脳・血管センター(HNVC)”です。
HNVCでは近年、重症化しやすい心原性脳梗塞の治療が行える体制を整えました。心原性脳梗塞とは、心房が小刻みに震える心房細動が起きることで血栓ができやすくなり、心臓でつくられた大きめの血栓が脳の血管を閉塞させることで引き起こされる脳梗塞のことで、ほかの脳梗塞よりも脳が受けるダメージの範囲が広いといった特徴があり、死亡や重篤な後遺症など予後も不良です。
心房細動の治療には、抗凝固薬などの薬物治療やカテーテルアブレーション(カテーテルを用いて不整脈を抑える治療法)が一般的に選択されます。しかし、出血リスクが高く長期間の抗凝固薬の服用ができない方に対しては、心房細動による血栓の形成に起因する「左心耳」を左心耳閉鎖デバイス(WATCHMAN)で閉鎖し、1回限りの手技で心房細動による脳卒中を予防するという新しい治療も行なっています。左心耳が大きいとWATCHMANを用いることができないため、その際には外科的なアプローチをします。
こうした処置を行っても血栓が頭に飛んでしまう場合には、脳外科にて血栓回収を行います。心原性脳梗塞は急激に症状が現れることもあることから、こうした一連の治療がHNVC内で完結できるのは当院の強みです。
紹介件数が増えている症例の1つに人工弁周囲逆流に対する治療“経カテーテルプラグ閉鎖術”があります。
心臓に人工弁を入れてから年数が経過すると、組織が弱くなって人工弁の周囲から血流が逆流することがあります。しかし、高齢になると再手術が難しいこともあります。
その際に実施しているのが経カテーテルプラグ閉鎖術で、高齢で再手術が困難な方など、治療が難しい患者さんが他院から紹介されて来ることは少なくありません。こうした実績が評価され、他施設から多くのドクターが当院へ見学に訪れています。
肝・胆・膵外科外来では、肝細胞がん、肝内胆管がん、胆石症、胆道がん、膵臓がんなどの診療を行っています。
手術においては腹腔鏡などを用いた低侵襲の手術を行っていますが、担当医に蒲池副院長が着任したことで、進行がんをはじめとした開腹を伴う大きな手術が行えるようになりました。蒲池先生は北海道大学で肝胆膵悪性疾患の外科治療にあたってきた方で、門脈や肝動脈といった血管の再建術をはじめ、専門性が高い手術を手がけてきました。そうした経験を生かしていただき、当院でも難易度が高い手術を行っています。
脳神経内科では、脳や脊髄、末梢神経、筋肉の病気の診療を行っています。主な症例としては、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患、髄膜炎などの神経感染症、糖尿病性末梢神経障害や顔面神経麻痺などの末梢神経障害、多発筋炎や重症筋無力症などの神経筋疾患などがあります。
最近取り組みを始めたのが、パーキンソン病の患者さんを対象にしたリハビリプログラムです。また、アルツハイマー病の新しい治療薬が開発され、投与することでアルツハイマー病の発症を数か月程度遅らせる効果が期待できます。
形成外科では、体に生じた組織の異常や変形、欠損などに対して、その機能だけでなく見た目も重視して外科的な処置を行っています。具体的には、手術などで失った組織に対する皮膚移植による再建、顔面骨骨折や手の外傷、先天異常、熱傷など、診療領域は多岐にわたります。
また、2024年から切断指の接合も始めました。九州は工場も多いため、今後需要はさらに高まると思っています。
地域貢献の1つとして、医師による“健康教室”を開催し、体操の指導や講演を行っています。
その中には、応急処置や心肺蘇生、AEDの使い方の講習会なども含まれており、直近の健康教室では関節症センター長の林先生が講師となって、『変形性膝・股関節症へのよい靴の選び方』というテーマで開催しました。公民館や学校などにもお伺いしますので、ご希望があればご連絡ください。また、医師と地域の皆さんとの交流の場ともなる“健康フェスタ”も開催しています。2023年の秋には令和健康科学大学の“令愛祭”と合同で開催し、当日は心筋梗塞をテーマにしたミニ講演会に加え、脳年齢測定や動脈硬化測定などを実施しました。
こうした取り組みを通して地域の皆さんの健康に対する意識が高まり、元気に過ごしていただくためのお手伝いができればうれしいです。
地域の皆さんにとってよりよい病院を目指し、医療機器を積極的に導入するなどして診療領域を広げてきました。おかげさまで多くの患者さんに受診いただき、救急外来や手術の件数についてはコロナ前を上回って推移しています。
今後も患者さんの視点に立って物事を見つめ、患者さんが困ることがないように、予防から治療、回復・リハビリテーションまで切れ目のない医療サービスを提供していきたいと考えています。スタッフが一丸となって力を尽くしてまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。