「Rare Disease day(RDD)」とは、希少・難治性疾患の認知度向上を目指し、毎年2月の最終日に開催される国際的な啓発イベントです。去る2019年2月28日(木)、東京でも「Rare Disease Day 2019 in Tokyo」が開催されました。
同イベントでは、「RDD日本開催事務局」の事務局長がインタビュアーになり希少・難治性疾患の患者さんやそのご家族からお話を伺うトークセッション「患者の生の声〜20歳前後の私たちからのメッセージ〜」が行われました。後半では、それぞれの将来の夢について話が及び、大いに盛り上がりました。引き続き、トークセッションの様子をお伝えします。
幼い頃は体調が特に悪かったという明璃さん。病気のために周囲にうまくなじめなかった記憶があるそうです。しかし、それも成長と共に徐々に変化していき、大学では素敵なご友人たちに囲まれているとのこと。
10年前の自分へ伝えたいこととして、こんな話をしてくれました。「成長するごとに不安や恐怖に襲われることは増えていくから、それをどう乗り越えていくかが大切だということを伝えたいです。それと、病気をかかえる自分としてではなく、普通の人として見てくれる人たちに出会えるということを伝えたいです。」
将来は自分と同じように病気で苦しむ方の心のケアをする仕事に就くことを目指している明璃さん。10年後の自分の未来について、キラキラとした瞳で語ってくれました。「就職して、いつかいい人と出会えたら結婚して、子どもを産みたいと思っています。将来の職業についてまだ具体的に決めてはいないのですが、公認心理士の国家試験を受けようと思っています。」
津田 明璃さんは、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症の患者さんです。ADA欠損症とは、常染色体劣性(潜性)遺伝*と呼ばれる遺伝形式で生じる、生まれつきの病気である原発性複合免疫不全症*のひとつです。4万〜7.5万人に1人の頻度で発症するといわれている原発性複合免疫不全症のうち、約15%がADA欠損症といわれています。
ADA欠損症の患者さんには、ADA酵素が欠損していることにより、全身の代謝不全が現れ、感染症にかかりやすくなってしまったり、体重が増えなかったりなどの特徴があります。また、難聴やけいれんなどが現れる可能性もあることがわかっています。
明璃さんも中耳炎や難聴、気管支炎や肺炎などの感染症を何度も引き起こし、入退院の生活を繰り返したそうです。
常染色体劣性(潜性)遺伝:一対の遺伝子の両方に変異が存在するときにのみ病気が発症する遺伝形式を指す
原発性複合免疫不全症:細菌やウイルスなどの病原体に対する防衛反応である免疫系のいずれかの部分に生まれつき欠陥がある病気の総称
7歳の頃からピアノを始めたという彩芽さん。将来はピアニストになることが夢だそうです。「ひとりでみんなの前でピアノを弾いていきたいです。みんなの前でピアノを弾くイベントを来年からはじめて、今後は、もっと病気のことをわかってもらえるほど大きなピアニストになっていきたいです。」そのために、もっとピアノの練習に力を入れていきたいと話してくれました。
また、ピアノは、自身の病気との関わりも深いといいます。「指も筋肉なので、ピアノを弾くことはリハビリの意味もありますし、ポンペ病という病気を伝えていく武器にもなると思っています。10年後には、病気を語れるピアニストになることが目標です」と力強く宣言してくれました。
最後に、彩芽さんは、ポンペ病の特徴と共に会場の人たちへ呼びかけました。「ポンペ病という病気では足の筋力が衰えてくるために、たとえば階段を登るときも辛く感じられるんです。もしそういう人を見かけたときは、後ろからでも前からでも、さりげなくでもいいので、支えてください。歩きづらそうにしている人がいたら、『大丈夫?』って声をかけてくれるだけでも結構です。」
吉田 彩芽さんは、ポンペ病の患者さんです。ポンペ病とは、エネルギーのもとになるグリコーゲンを分解するはたらきのある酵素「α-グリコシダーゼ」が分泌されなかったり、少なかったりするために発症する遺伝性の病気です。筋肉のはたらきが悪くなり、運動障害や呼吸不全など、全身にさまざまな症状が現れます。
ポンペ病は、40万人に1人の頻度で発症するといわれており、2001年の調査では、日本には29名の患者さんがいると報告されています。
彩芽さんが正式にポンペ病と診断されたのは5歳のときだそうです。診断された当時は治療法がない状態だったそうですが、彩芽さんが小学生のときに症状を和らげる治療法が日本で認められるようになりました。
美香さんに10年後のことを聞くと、弟さん(通称むねちゃん)ができるだけ普通の生活を送れるようになっていてほしいと話してくれました。「むねちゃんにもやっぱり将来の夢もありますし、今一緒にいるお友達だったり、これから新しくできる人間関係だったりを大切にしながら、自由にのびのびと過ごしてほしいです。100%は無理でも、10年後は、今よりも普通の生活に近づいていればいいと思っています。」
また、ご自身の将来についても次のように話してくれました。「私はイベント参加などの活動が好きなので、今後もさまざまな活動を通して、弟がかかっている病気について知ってもらえればと思っています。」
最後に、美香さんは、病気をかかえる患者さんや一般の方へ向けてメッセージを送ってくれました。「病気をかかえている方たちには、夢や目標を諦めてほしくないと思います。障害や病気があることを理由に諦めることはもったいないと思うからです。少なくても夢を見ているだけで希望や元気がわいてくると思うので、諦めずに夢や目標をもってほしいです。また、一般の方たちには、少しでも希少・難治性疾患に興味をもっていただけたら嬉しいです。」
相良美香シェラニーさんの弟さん、通称「むねちゃん」は、進行性骨化性線維異形成症(FOP)の患者さんです。進行性骨化性線維異形成症とは、幼少期から徐々に全身の筋肉や周りの組織が骨に変わり(骨化)、関節を動かすことができる範囲が狭くなったり、背中が変形したりする病気です。怪我や手術がきっかけで骨化が進行することもあるといわれています。
200万人に1人の頻度で発症するといわれており、日本では、60〜84名の患者さんがいると推計されています。
希少・難治性疾患は、病気の名称すら知られていないものも少なくありません。そんな中で開催された「患者の生の声〜20歳前後の私たちからのメッセージ〜」のトークセッション。ご来場の皆さんが、席を立つことなく熱心に耳を傾けている姿が印象的でした。
具体的な症状や受けている治療法にとどまらず、日常生活の様子や将来の夢まで、幅広いお話をお伺いすることで、より病気や患者さんを身近に感じることができたように思います。
希少・難治性疾患には、治療法が確立されていない病気も多く、患者さんの予後の改善が課題となっています。患者さんが夢見た未来へたどり着けるよう治療法が確立されるためには、今回のような啓発イベントがひとつの大切な足がかりになるのではないでしょうか。