院長インタビュー

研究・臨床・教育の三つの柱から、地域医療の発展に貢献する水戸医療センター

研究・臨床・教育の三つの柱から、地域医療の発展に貢献する水戸医療センター
山口 高史 先生

独立行政法人国立病院機構 水戸医療センター 院長

山口 高史 先生

目次
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茨城県の東茨城郡に位置している独立行政法人国立病院機構 水戸医療センター(以下、水戸医療センター)は、“研究”、“臨床”、“教育”の3本柱を軸として運営しています。“臨床”においては、“救急医療”“がん医療”“災害医療”の三つの側面を持ち、地域医療に貢献するべく、尽力しています。また、若手の医師の教育にも注力しています。

今回は、水戸医療センターの院長を務める山口(やまぐち) 高史(たかし)先生にお話を伺いました。

当院の前身は、陸軍病院として発足しましたが、1945年に厚生労働省に移管されたことにより国立水戸病院として再編されました。その後は三度の移転を経て、2004年10月に現在の茨城町桜の郷に新築移転。また、同年の4月に病院名も独立行政法人国立病院機構 水戸医療センターに改称しています。国立の病院として茨城県の中でも医療の中心を担ってきたという背景から、当院では “教育”、“臨床”、“研究”の3本柱を軸としています。

“教育”においては、特にがん教育に注力しており、地域の小学校や中学・高校に出向いて講義をしたり、地域の方々へ向けた出前講座を開催したりしています。“研究”に関しては、がんや救急医療に関連する研究に積極的に取り組んでいます。“臨床”については、特に “救急医療”“がん医療”“災害医療”の3本柱を設けています。“救急”においては、3次救急医療センターに認定されていることから、緊急時に対応できる体制を整えています。“がん医療”と“災害医療”においても、血液系のがんや乳がん、消化器系のがんなどのさまざまながんに対応できる体制を構築したり、茨城県の基幹災害拠点病院としてドクターヘリを出動させることができる施設を完備したりしています。

水戸医療センターの外観
水戸医療センターの外観

救命救急センターは、茨城県中央部の3次救急施設に認定されており、1次救急施設や2次救急施設などの医療機関および救急隊からの要請を中心に受け入れています。

脳神経外科の分野における強みは、ストロークケアユニットを設けていることです。ストロークケアユニットとは、急性期の脳卒中の患者さんに対してスタッフがチームを組んで適した治療を行っていくという試みです。脳卒中の治療は、可能な限り早い段階で治療を開始することが予後にも影響することがあるため、負担をできるだけ軽くするための治療を心がけています。

2010年からはドクターヘリを導入しています。また、翌年の2011年には、消防本部と共同でドクターカーの運用も開始しており、どちらも他院や事故現場などで緊急の対応が必要とされる患者さんがいる場合などに使われます。何よりも短時間で患者さんの行き来ができることが利点です。非常事態の際に、すぐに対応ができるように準備を行っています。

ドクターヘリ
​ドクターヘリ

当院は、基幹災害拠点病院であると同時に、原子力災害拠点病院にも指定されています。

基幹災害拠点病院としては、東日本大震災の際などに積極的に患者さんの受け入れを行っていました。当院は自前の井戸を設けているので、断水しても水の確保は比較的容易に行えるだけでなく、自家発電機能を備えているので停電対応することも可能です。

また、原子力災害拠点病院に指定されているため、原子力被ばくをされた患者さんに対して除染作業を行ったり、被ばくをされているうえにけがをされている患者さんに対して治療を行ったりすることも可能です。実際に、東海村の臨界事故や、東日本大震災の際に起こった福島原発の放射能漏れ事故の対応も行っています。そのような有事の際には、住民の方の不安を解消するために情報発信をしたり体制を整えたりするといった役割も求められています。当院では、今後も役割を果たして行けるように尽力していきます。

当院は地域がん診療連携拠点病院の指定を受けており、がん治療に注力しています。特に血液内科では悪性リンパ腫多発性骨髄腫白血病などの治療を行っています。さらに乳がんや消化器系のがんなどの治療にも積極的に対応しています。

また、がんの患者さんに向けて医療相談室、ならびにがん相談支援センターを設置しています。入院費用や治療についての不安や悩みをお伺いし、解決のためのお手伝いをする組織です。利用料はかからないため、当院で治療中でない方にもお気軽にご利用いただける仕組みになっています。

泌尿器科では、前立腺肥大症をはじめ前立腺がん膀胱がん、腎がんなどの病気に対応しています。

治療方法のひとつとして、DaVinci(ダヴィンチ)というロボット支援手術を取り入れていることも特徴のひとつです。そのほか腹腔鏡手術、内視鏡手術、前立腺肥大症に対するレーザー手術、抗がん剤治療も対応可能です。

また、もうひとつの特徴としてあげられるのは、腎臓移植を行うことができる施設であるということです。ドナー手術も当院の臓器移植外科で行っています。同時に移植に関する研究室を設けており、臨床研究にも力を入れています。患者さんの同意をいただいて、治療データをもとに研究に取り組んでいます。このような取り組みを通して、今後の医療の発展にも貢献したいと考えています。

ロボット支援手術の様子
ロボット支援手術の様子
ダヴィンチ
ダヴィンチ

地域の方々への情報発信には積極的に取り組んでいます。主な活動内容としては、出前講座や市民講座、それに加え中学校や高校で医療従事者を目指す学生さんたちに対する講義や実習などにも力を入れています。

特に、小学生には、医療に対して少しでも興味を持ってもらうことを目的にクイズ形式でがんのことを知ってもらう取り組みや、医療職の役割を知ってもらうカリキュラムなど楽しめる内容を展開しています。

子どもたちの人口が減っているこの時代に、医療業界を志望する人材を増やしていくことは将来的に大変重要な取り組みだと思っています。特に茨城県は医師数が昔から少ない地域ですので、そういった取り組みを自治体を通して増やしていくことが理想と考えています。

地域の方々全体へ向けた取り組みとしては、前述した市民講座、ならびに出前講座を開催しています。市民講座では、がん患者さんへ向けた就労支援や患者さんの体験談をお話しするコーナーなど、地域の方々にとって役に立つものとなるよう尽力しています。一方、出前講座は、対象地域内で会場の準備をしていただいたうえで、当日10名以上の方が集まっていただいた際に、無料で対応しています。講座内容についてはリストを作っており、その中から参加いただいた方々に聞きたい内容を選んでいただきます。がんについての内容から栄養・食事に関すること、災害についてなど幅広い演題を用意していますが、中でも認知症に関する講座が人気です。

当院は、2006年に茨城県知事から地域医療支援病院の承認を受けました。地域医療を円滑にすること、さらには地域の医療機関それぞれが自身の役割を全うできるよう、地域の医療機関との連携を図っています。主に、地域の訪問看護ステーションと連携して、訪問看護を行っています。当院の認定看護師が同行訪問を行ったり、講義とディスカッションを織り交ぜたセミナーを開催したりしたこともあります。

患者さんが可能な限り心配や不安を感じることがないように、病院の移り変わりの期間や当院と他院を重複して受診する方の支援を中心に行っています。

当院では隣接地に従業員用の宿舎を用意しており、さらに単身用と世帯用の両方を準備しています。また宿舎の4階がビジネスホテルのような作りになっており、研修医や研修で病院にいらしている方にも使っていただけるようになっています。当院では医師以外にも消防職員や救急隊の研修も行うので、そういった短期的に利用可能な施設を目指しています。

また研修の中には、夜間の緊急時出動トレーニングのプログラムもあります。遠方に住んでいる職員に夜間プログラムを行わせるのは負担になるので、その場合にも宿舎の存在が一役買っていると思います。ほかにも、病院内に保育所があるので出産育児をしながら働いている女性医師もいます。それだけでなく、休憩室や仮眠室、シャワールームなどについても、清潔感があり落ち着いた空間です。当たり前のことですが、どんなに病院の施設が整っていても、スタッフがいなければ治療は成り立たないため、快適に働いてもらえる環境の構築に努めています。

“水戸若手医師を育てる会”というNPOを作っています。これは私が水戸に来た当時、医師が地域に少なかったことから始めた取り組みです。協同病院と済生会病院、ひたちなか病院と当院の四つの病院が協力して、海外などから先生をお呼びしています。それは、2週間ほどの期間を通して、四つの病院を順番に回ってレクチャーをしていただくという貴重な機会です。海外の医師の考え方や判断基準など、日本でも活用できるお話を聞くことができ、大きな学びにもつながる機会となっています。

また、若手の医師へ向けた教育の一環として、鑑別診断道場という勉強会も四つの病院の持ち回りで行っています。診断道場では、診察の実践トレーニングを行うために、外部の先生を呼んでいます。

このように、特別な勉強会以外でも医師や研修医が行き来して勉強を行う機会がたくさんあります。済生会病院に産婦人科や腎臓内科の外来透析を勉強しに行ったり、ほかの病院から当院の脳神経外科に勉強をしに来たりしています。このように、地域の医師の結束が強まっていくことを嬉しく思っています。

山口先生

“できる限りお待たせしないように”という意識を持って診療にあたっていますが、ときにお待たせしてしまうことがあり、「なぜこんなに時間がかかるのですか?」というお声をいただくことがあります。血液検査で異常値が出てしまった患者さんなどは、緊急で治療を行わなくてはならなかったり、データに誤りがないかを確認したりするために再検査が必要になることも少なくありません。

ですから、地域の皆さんには、当院を上手に利用していただきたいと思っています。すでに、多くの方には理解をいただいており、だいぶ待ち時間も短くなってきています。しかし、さらに短くしていくためには、皆さんのご理解とご協力が必要です。これからも、地域の皆さんに頼っていただけるよう、スタッフ一同尽力していきます。

今の若手の医師の皆さんを見ていると、大変優秀な方が多いなという印象を受けています。おそらく、学校のテストでもよい点数を取っていることでしょう。そのような若手の医師の皆さんが、さらに成長できるように、教育体制を整えています。そのため、この地域は、自分を成長させるのには最適ともいえる環境であると思います。

実践的な学びを重ねること、たくさんの患者さんと対峙(たいじ)すること、さらにいろいろな医師の考え方や判断基準を聞いて自分に取り入れることなど、のびのびとした環境でありながら、しっかりと刺激を受けることができる環境に自分の身を置くことができるでしょう。

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  • 独立行政法人国立病院機構 水戸医療センター 院長

    山口 高史 先生

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