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皮脂欠乏症の原因には何があるの?〜自分でできるセルフケアや、皮膚科での治療法〜

皮脂欠乏症の原因には何があるの?〜自分でできるセルフケアや、皮膚科での治療法〜
安部 正敏 先生

医療法人社団 廣仁会 副理事長 兼 医療法人社団 廣仁会 札幌皮膚科クリニック 院長

安部 正敏 先生【執筆/監修】

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皮脂欠乏症(ひしけつぼうしょう)”もしくは“乾皮症(かんぴしょう)”は、極めてありふれた皮膚疾患です。皮脂欠乏症は一般的に“乾燥肌”という呼び方で知られており、皮膚疾患ではなく、体質と捉えられていることがほとんどです。事実、皮脂欠乏症で用いられる保湿クリームはドラッグストアなどでも多種多様な商品が売られています。症状が軽度な場合にはセルフケアが非常に重要ですが、症状が高度である場合には皮膚科で正しい診断を受け、原因にあった適切な治療を行う必要があります。

本記事では皮脂欠乏症の原因から正しいセルフケアの方法まで詳しく解説します。

皮脂欠乏症の原因には、加齢などによって人間が元来もつ保湿能が低下してしまうことのほか、摩擦などの刺激や過剰な洗浄剤の使用などが挙げられます。従来、高齢の方に多くみられる皮膚疾患でしたが、近年は気密性の高い都市型住居などの影響で、幅広い年齢にみられるようになりました。

人間の皮膚の保湿能は主に、皮膚の最外層である表皮と呼ばれる部分に存在する皮脂膜、細胞間脂質、天然保湿因子によって保たれています。皮膚の表面には皮脂膜が存在し、見えない脂で覆われています。また、その内側にある表皮細胞の間には細胞間脂質が多量に存在し、保湿とともに外界からの異物を通過させず、体内の水分を蒸散させないようにすることでバリア機能(人間を外敵から守る機能)を保っています。中でも代表的な細胞間脂質として、セラミドが有名です。近年、セラミドは化粧品や洗浄剤にも配合されていることで知られています。また、表皮にはこのほか天然保湿因子が存在し、これも保湿能に関与します。これらは自然保湿因子とも呼ばれ、アミノ酸類、ピロリドンカルボン酸、尿素、ミネラル塩類、有機酸、などにより構成されます。

皮脂膜や細胞間脂質、天然保湿因子は加齢により減少するほか、アトピー性皮膚炎など、生まれつきこれらが少ない人もいます。また、健常な人でも、乾燥環境下や過度な皮膚への摩擦刺激、過剰な洗浄剤の使用などによりこれらが減少し、皮脂欠乏症に至ることがあります。

近年、皮脂欠乏症が皮膚のバリア機能を低下させ、さまざまな皮膚障害をもたらするほか、若年における皮脂欠乏症は、食物アレルギーを引き起こす要因の1つとなることが明らかとなり、皮脂欠乏症を放置する弊害が再認識されました。そのため、皮膚の保湿能を維持させる保湿薬の重要性があらためて認識されてきています。

皮脂欠乏症の症状は、通常、全身に小型のフケもしくはうろこのような物質(鱗屑(りんせつ))が多数付着するのが大きな特徴です。小型鱗屑の存在は、皮膚表面の皮脂膜が欠如し、角質水分量も減少していることを意味します。したがって、皮脂欠乏症のスキンケアでは適切に保湿を行うとともに、生活環境を整えることを含めて“スキンケア”と捉えることが重要です。

皮脂欠乏症を悪化させる原因は複数あり、日々の生活習慣でも注意が必要です。

気密性の高い生活環境は皮膚から水分を奪うこととなり皮脂欠乏症を悪化させます。皮膚の水分を保つためには、湿度を60%程度に保つことが望ましく、適切に加湿器などを使用するとよいでしょう。

特に冬期は空気が乾燥しやすいことに加えて、気温も低下するため、通常よりも発汗が少なくなり皮膚の水分量が減るとされています。昔の生活の知恵として、ストーブの上にやかんをのせて沸騰したお湯から蒸気を得ることがありますが、これは皮脂欠乏症対策に効果的といえるでしょう。また、夏季でも近年はエアコンが完備されていることから乾燥環境で過ごす機会も多いため、夏季の乾燥対策も心がけましょう。

入浴も方法によっては、皮脂欠乏症を悪化させます。

まず、あまりにも高温のお湯での入浴は必要以上に皮脂を落としてしまうばかりか、温熱刺激がかゆみを引き起こしてしまうため、お湯の温度は熱くしすぎないようにしましょう。乾燥を防ぐ洗浄方法としては、過剰に皮脂を落とさないため、せっけんや合成洗浄剤を少量手にとり、十分に泡立ててから洗うとよいでしょう。また、ナイロンタオルなど摩擦力の大きい洗浄用具を使用すると、皮脂や必要不可欠な表皮の細胞まで除去してしまいます。そのため、体を洗う際には、摩擦の少ないガーゼや日本手拭いなどを用いるか、素手で洗うようにしましょう。せっけんは、十分に泡立てるとミクロのレベルで”ミセル“という構造をとります。ミセルとはせっけんや合成洗浄剤に含まれる界面活性剤が球状を呈する状態ですが、この状態では汚れや異物がミセルの中に閉じ込められるため、本来皮膚に必要な皮膚の脂を過剰に落としにくくなります。

環境因子のほかに、皮脂欠乏症を伴う病気もあります。皮脂欠乏症を引き起こす要因が単に皮膚疾患だけではないことに注意しましょう。

アトピー性皮膚炎は、皮脂欠乏症に加え、過剰な免疫反応(いわゆる”アレルギー“)が関与する慢性皮膚疾患です。ハウスダストやダニ、花粉など、本来人間に対して悪影響がないとされる異物に対し、排除にはたらく免疫機構が過剰に反応する結果、皮膚において炎症反応(湿疹)が起こります。このため、皮脂欠乏症状態によるバリア機能低下は、アトピー性皮膚炎をより悪化させ、バリア機能の低下した皮膚からさまざまな異物が侵入することで過剰な免疫反応が生じると考えられています。つまりアトピー性皮膚炎を良好にコントロールするためには皮脂欠乏症をうまくコントロールすることも重要となります。

糖尿病患者は、汗腺(かんせん)の機能が低下することや、高血糖状態による浸透圧の影響などで皮脂欠乏症となることが多くなります。さらに、血管障害によりさまざまな皮膚疾患が生じるため、日頃からバリア機能の修復のためにも保湿ケアの習慣を作ることが重要です。

透析における皮膚の問題点として、皮脂欠乏症、発汗低下、pH上昇、カルシウムの沈着、マグネシウムの沈着、リンの沈着、神経ペプチドの異常などが挙げられます。透析が長期に及ぶことで皮脂の分泌が少なくなり、汗腺のはたらきが障害されることで“皮脂欠乏症”に至ります。

近年、がん治療薬は大きな進歩を遂げ、生命予後も顕著に改善されました。そういったなかでも分子標的薬と呼ばれる抗EGFR(epidermal growth factor receptor)抗体薬では、薬剤が皮膚に直接作用することにより、表皮が薄くなることが明らかになっています。さらに、治療によって汗腺機能が低下するとともに皮脂が減少することで、皮脂欠乏症に至ります。

皮脂欠乏症のセルフケアは、理論上、皮脂膜やセラミドなどの細胞間脂質、天然保湿因子を補う必要があります。そのため、モイスチャライザー(水分と結合)効果、およびエモリエント(被膜をつくる)効果をもった保湿剤を用いるとよいでしょう。ただし、この2種は厳密に分類できるものではなく、両者の作用を有する製品も多数販売されているため、うまく使用することが重要です。具体的には、ヘパリン類似物質やセラミド入り保湿薬、入浴剤などは有用性が期待できます。保湿薬は1日2回以上塗るようにしましょう。また、室内の湿度を適切に保つほか、前述した入浴方法を実践することが重要です。

なお、アトピー性皮膚炎糖尿病など、皮脂欠乏症をもたらす病気がある場合には、医師と相談して適切にスキンケアを行うと同時に、もととなる病気の治療を行うことが非常に重要です。

皮脂欠乏症であってもセルフケアだけに頼るのではなく、気になる症状がある場合は皮膚科を受診するとよいでしょう。皮膚科では医師が目的に合った適切な薬剤を処方します。

皮膚科で処方される保湿薬は、エモリエント効果とモイスチャライザー効果を適切に引き出します。エモリエント効果とは、皮膚からの水分蒸散を防止し、皮膚を柔軟にするという皮膚生理作用のことで、皮膚に対してエモリエント効果を示すものをエモリエント剤と呼びます。つまり、皮膚の正常な解剖学的構造を保持するために、皮膚表面で皮脂膜を補強する保湿薬といえるでしょう。一方、モイスチャライザー効果とは、皮膚に水分を与えることで皮膚バリア機能を保つ皮膚生理作用のことを指します。皮膚に対してモイスチャライザー効果を示すものをモイスチャライザー剤と呼びます。つまり、皮膚の正常な解剖学的構造を保持するために主に皮膚表面に水分を与える保湿薬といえるでしょう。

保湿薬の種類はさまざまにあり、目的に応じて以下を用います。

ワセリンは、石油から得た炭化水素類の混合物を精製したものです。黄色ワセリンとこれを脱色した白色ワセリンがありますが、現在では白色ワセリンの使用が一般的となっています。少々べたつきますが、安価でエモリエント効果が期待できます。

プラスチベースとは、流動パラフィンにポリエチレンを5%の割合で混合し、ゲル化した製剤で、エモリエント効果が期待できます。伸びもよく重宝する一方で、多少のべたつきを感じます。

へパリン類似物質含有外用薬は、保湿効果が高く有効性が高い保湿薬です。エモリエント効果とモイスチャライザー効果の双方が期待できます。薬剤の種類も豊富で、塗りやすいクリームやローション、泡スプレーやフォームがあり、ベタつきが抑えられています。保険適用があり、医療機関で必要と判断されれば処方が可能です。なお、近年は市販品もありますがヘパリン類似物質の濃度が異なる場合があります。

尿素含有外用薬も保湿効果が高く、エモリエント効果とモイスチャライザー効果双方が期待できます。保険適用があり、医療機関で必要と判断されれば処方が可能ですが、一般向けに市販もされており、ハンドクリームなどとしてよく用いられます。尿素軟膏にも多数の種類があるため用途に応じて使い分けるとよいでしょう。

セラミド含有外用薬も市販されており、エモリエント効果とモイスチャライザー効果の双方が期待できます。ただし、保険適用がないため医療機関で保険による処方はできません。あくまで市販品を用いることとなります。

これ以外にも、米糠(こめぬか)などを用いた入浴剤が入手可能です。入浴により保湿効果が得られるため極めて手軽であり便利です。しかし、保険適用がないため市販品を購入することとなります。また、保湿用入浴剤を用いた入浴では滑りやすいため、特に高齢の方などでは転倒事故などに十分注意してください。

皮脂欠乏症”を単なる乾燥肌と自己判断し放置すると、かゆみをつかさどる神経が刺激されやすくなるため、かゆみが生じ、ひっかき刺激などで湿疹化してしまうことがあります。また、バリア機能低下によりさまざまな皮膚トラブルの原因にもなります。セルフケアも重要ですが、改善されない場合には皮膚科専門医に相談するようにしましょう。

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