妊婦さんは体や環境の変化、出産への不安などにより、何らかのストレスを抱えていることが多いものです。妊娠中のストレスは、さまざまな体調不良の原因となるほか、出生後の子どもの発達にも影響を及ぼす場合があります。ストレスを解消して心と体のバランスを整えるためには、十分な睡眠を取ることや、漢方療法を取り入れることでも効果が期待できるといわれています。
今回は、妊娠中のストレス対策と漢方療法について、JA静岡厚生連静岡厚生病院 産婦人科 診療部長の中山 毅先生にお話を伺いました。
日々の生活の中で、「ストレスがたまっているな」と感じるときはありませんか? 仕事の忙しさ、経済的な不安、職場や家族内の人間関係、騒音など、現代社会はストレスの原因となるさまざまなものであふれています。こうした心や体にかかる外部からの刺激(ストレッサー)に適応しようとすることで、心や体にはさまざまなストレス反応が生じます。現代は、男性も女性もストレスをためやすい社会であるといえるでしょう。
まずは、ご自身のストレス度をチェックしてみましょう。
チェック結果はいかがでしたか? はっきり自覚していなくても、点数が高いほどストレスがたまっている可能性があります。
女性の場合、ライフステージによってもストレス反応が出やすい時期があります。
女性は、思春期、成人期、更年期とライフステージの変化に伴って女性ホルモンの分泌量が変化します。中でも、妊娠・出産期は、女性ホルモンの分泌に特に大きな変化が生じる時期です。そのため、特に妊娠中はストレス反応が通常より出やすくなると考えられています。
妊娠中は体調や体型の変化、生活の変化、出産に関する不安など、さまざまなストレスの原因が生じやすいときでもあります。
妊娠初期は、つわりをはじめとするさまざまな体調の変化が現れやすい時期です。つわりによる吐き気や体調の悪さはストレスの原因となります。お腹が大きくなってくると動くのも寝るのも大変だと感じたり、息苦しくなったりすることがあります。
妊娠・出産によって自身のキャリアが一時中断してしまうかもしれないといった生活の変化に対する不安も、ストレスの一因となるかもしれません。
出産が近づいてくるとともに、無事に出産できるだろうか、赤ちゃんを迎えた後に穏やかな家庭生活が送れるだろうかといった不安も生じるでしょう。特に、初めて妊娠した方や、不妊治療を行っていた方は、いざ妊娠してみると次のステップに対して不安を抱かれることが多いように思われます。
このように多くの妊婦さんが何らかのストレスを抱えていることと思います。悩みを周囲に相談できずに悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
妊娠中は、心と体のバランスが崩れやすい時期です。ストレスが原因で自律神経のバランスが乱れると、頭痛・便秘・下痢・動悸・立ちくらみ・めまいといった症状が体に現れることがあります。
また、心の変化としては、不安やイライラに加え、心身のストレスから寝つきが悪くなる方もいらっしゃいます。
こういった体や心の変化について、異常なのか正常なのかを自己判断するのは、なかなか難しいことでしょう。自分の体や心に生じた変化をきちんと感じ取り、気になることがあれば、まずご家族や医師に相談してみることが大切です。
妊娠中のストレスは胎内の赤ちゃんにも影響し、発育が未熟なままでの出生(低出生体重児)や早産を引き起こす恐れがあります。その理由としては、ストレスが誘因となり、血管収縮が生じて胎盤から胎児への血流が悪くなることによる低出生体重児のリスクや、子宮収縮が促されて早産につながるリスクが上昇する可能性が考えられています。
また、O'Connorという学者らによる2004年の報告によれば、妊娠中の不安やストレスは出生後の子どもの行動や情緒に影響を及ぼすことが分かっています。
心理的なストレスが大きいのは妊娠初期と産後だといわれてきましたが、近年では、妊娠初期、中期、後期といった時期にかかわらず、メンタルヘルスケア(心の健康対策)を行うことが重視されるようになりました。その背景としては前述のO'Connorらによる報告のほか、妊婦さんやお母さんの精神疾患による自殺が増えていることが知られています。
そこで私たち産婦人科医は、妊婦さんが患っている病気や抱えている問題を早期に発見するために、特に妊娠の初期には必ず精神疾患のリスクがないかを調べることを大事にしています。
ストレスが体の不調として現れている場合には、たとえば便秘には便秘薬を用いるというように、症状そのものに対する薬物療法を行うことがあります。一方で、患者さんからの相談に応じたり、症状について丁寧に説明したりして不安を和らげてもらうことや、生活習慣の見直しの指導を行うことなども大切です。
また、妊娠中のストレスに対しては、漢方療法も効果が期待できるといわれています。
大きな病気へと発展する恐れもある妊娠中のストレスを解消するためには、東洋医学の“未病”という概念が役立ちます。東洋医学では、まだ病気ではない状態(未病)であっても、次に起こる病態の予測を立てて、未然に発生を予防するという治療を行います。
また、心と体はお互いに強く影響し合う存在であり、切り離して考えることはできないものと捉えます。これを端的に表すのが、心と体は1つが如しという意味を表す“心身一如”という言葉です。
人間の体を構成するのは、気・血・水という3つの要素です。“気”とは、目に見えない無形のエネルギーであり、“血”は体内を巡り体中に必要な栄養をもたらします。“水”は体を潤す無色の液体です。東洋医学では、気・血・水のバランスを整える治療を行います。心を健やかにし、気・血・水のバランスを整え体の不調を和らげていくことで、妊娠中のストレスも未病の段階で改善することが可能ではないかと考えています。
東洋医学では、舌診・脈診・腹診などの方法を用いて、ストレスがたまっていないかどうかを確認します。たとえば、脈診で強い脈が確認される場合には、ストレスがたまっている可能性が考えられるため改善を目指していきます。
ストレスによる不調を感じている方に対しては、紫蘇や高麗人参が入った漢方薬を使用することがあります。紫蘇は気の巡りを改善し、気分を明るくしてくれる効果も期待できる生薬です。つわりの症状があって気分が塞ぎがちな方に紫蘇の入った漢方薬を用いると、胃腸症状の改善や気持ちが明るくなるといった効果が期待できます。
また、たとえば胃腸の調子が悪く食欲不振の症状がみられるときには、高麗人参が入った漢方薬を処方することもあります。
そのほか、産前産後の不安などに対する効果が期待できる漢方薬もあります。妊婦さんのストレスに対し、いわゆる未病の段階で、さまざまな角度から治療できるのが漢方療法の特徴です。
当院で治療を行った妊婦さんのケースを2つお話しします。
つわりが重くなり脱水症まで起こしている状態を妊娠悪阻といいます。
妊娠悪阻で脱水が顕著だった妊婦さんに輸液剤の点滴を行ったところ、脱水症や食欲不振は改善されたものの、不安を感じ妊娠を継続するかどうか悩んでいらっしゃいました。
そこで、妊婦さんに対して「リフレッシュしたいときに使う気分が明るくなる効果がある漢方薬ですよ」と説明のうえ、紫蘇の入った漢方薬を内服してもらうことにしたのです。すると、脱水症や食欲不振が改善されただけではなく気分も明るくなったようで、「頑張って産もうという気持ちになりました」と言っていただけて安堵しました。
妊娠前から精神疾患があったものの、当院の医師に相談することなく「妊娠中は薬を服用してはいけない」と思い込み、お薬の服用を我慢していた妊婦さんがいました。待合室で思いつめたような顔をされていたため、体調が悪そうだと看護師が気付き声をかけたところ、お薬を自己判断で中断している状態であることが判明したのです。すぐに、もともと受診していた精神科の医師への相談をすすめました。
妊娠中は薬を中断しなければならないと考えている方も多いかと思いますが、妊娠中に服用できる薬もあります。自己判断せずに、まずは医師にご相談ください。医療従事者やご家族も、妊婦さんのちょっとした変化に気付いたら声をかけ、妊婦さんを守ってあげることも大事です。
妊娠中のストレス対策として、日常生活の中でも取り入れていただけることがあります。それは、よく寝て、よく喋り、よく笑うことです。
ストレスや不安を軽減するためには、まずしっかりと睡眠を取ることを心がけましょう。また、何か問題があったときに1人で抱え込まないよう、周囲の人たちにきちんと話すことも大切です。さらに、笑うことは幸せな気持ちをもたらし、知らず知らずのうちにストレスも和らぐのではないかと考えています。もし、最近笑っていないと感じたら、鏡の前でニコッとするだけでもよいと思います。
近年は核家族化が進んでいるからこそ、地域で妊産婦さんを支えていくことが大事だと思います。妊婦さんのストレスを軽減するために、医療従事者だけではなく育児経験者にも気軽に悩みを相談できるような場があればよいと常々考えています。妊婦さんのメンタルヘルスケアは、地域で連携して、包括的に支えていく必要があると思います。
お住まいの地域によって、妊婦さんを支えるさまざまな支援制度がありますので、活用していただくことをおすすめします。
妊娠、出産、育児は大きなイベントです。大変なことではありますが、できるだけポジティブシンキングで、楽しく前向きに捉えていくことがストレスの軽減につながるのではないかと考えています。ぜひ、よく笑ったりご家族とよく話す機会を持ったりして、妊娠を楽しむというくらいの余裕を持って臨んでいただけたらと、産婦人科医・漢方医として願っています。
JA静岡厚生連静岡厚生病院 産婦人科 診療部長
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