インタビュー

妊娠・出産を目指した体質づくり――不妊症や不育症の原因の1つになりうる“冷え”の対策

妊娠・出産を目指した体質づくり――不妊症や不育症の原因の1つになりうる“冷え”の対策
髙田 杏奈 先生

新潟大学医歯学総合病院 産科婦人科 非常勤医師

髙田 杏奈 先生

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子どもを持つことを望んでも、希望どおりに妊娠・出産に至らないケースもあります。その原因はさまざまですが、体の“冷え”が不妊症不育症につながることがあるといわれています。なぜ体の冷えが、妊娠・出産に影響を与えることがあるのでしょうか。また、改善するために、日常生活でできる取り組みや治療法はあるのでしょうか。

今回は、不妊症や不育症の原因の1つになりうる“冷え”と、その対策方法について、新潟大学医歯学総合病院産科婦人科の髙田 杏奈(たかだ あんな)先生にお話を伺いました。

不妊症とは、妊娠を望んで性生活を送っても一定期間妊娠に至らない状態を指します。この一定期間は1年間とされており、1年間で妊娠に至らない場合には不妊治療を検討することが推奨されています(2022年3月時点)。

しかし近年は、晩婚化とともに妊活に取り組む方たちの年齢が上昇し、加齢により妊娠しにくいケースが増えていることが考えられます。不安な場合は1年間という期間を待たずに、医療機関にご相談いただくとよいでしょう。

不妊症は、女性と男性それぞれに原因があり、その割合は半々程度であるといわれています。女性側の原因として、卵巣・卵管・子宮のいずれかの異常が考えられますが、原因がはっきりしない場合も多くみられます。

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不育症とは、妊娠後に流産*早産を繰り返したり、死産となったりすることにより、元気な赤ちゃんを得ることができない状態のことをいいます。流産が起こる確率は比較的高く、2回繰り返すケースもめずらしくありません。

一般的に産婦人科では、特に3回以上流産を繰り返した場合を不育症と呼び、精密検査の対象としてきました。しかし最近では、妊娠年齢が高くなっていることを考慮して、1回の流産でも医師が必要と判断した場合には精密検査を行うケースがあります。

血液の凝固異常**子宮筋腫***、甲状腺の病気や糖尿病など、不育症の原因が明らかな場合は治療を進めていきます。しかしながら、不育症のうち半数以上が原因不明です。

*流産:妊娠22週未満で妊娠が終わる状態。
**血液の凝固異常:血液が固まりやすい因子を持っている場合を指す。
***子宮筋腫:子宮筋から発生する良性の腫瘍(しゅよう)。

体の冷えは、お話しした不妊症不育症につながることがあるといわれています。その理由を東洋医学の考え方に基づき解説します。

“裏寒”との関係

東洋医学では、体の表側である皮膚や筋肉、関節などの部位を“表”と捉え、体の内側である消化管などの内臓を“裏”と捉えます。“裏寒(りかん)”とは、主に消化管が冷えることによる機能低下の状態のことです。

東洋医学では、“気・血・水”という考え方に基づき体の状態を捉えます。目には見えない生命エネルギーを“気”、主に血液のはたらきを“血”、水分代謝や免疫に関わる部分を“水”と表すのです。裏寒の手前では、“水”が滞って、まるで毒のように体にはたらきかけてしまう“水毒(すいどく)”という状態になることがあります。水毒になり、体に水分がたまりやすい状態になると裏寒になりやすく、食欲が低下し栄養不足になることがあります。栄養不足は免疫力や精神力の低下につながり、不妊の一因になる場合があります。

“瘀血”との関係

東洋医学における“瘀血(おけつ)”とは、“気・血・水”の “血”の流れが滞っている状態です。血流の障害のことだと理解していただくとよいでしょう。

血流の障害により卵子が発育不良の状態になると、排卵障害が生じ、妊娠しにくくなることがあります。また、受精卵が着床するベッドの役割を担う子宮内膜の状態が良好でないために、妊娠しにくくなることもあります。さらに、静脈の流れが滞ると受精卵が着床しにくくなり、妊娠しても流産しやすくなる可能性があるのです。

切迫流産とは、妊娠の経過中に出血や子宮の収縮があり、流産に至る可能性がある状態をいいます。適切な治療により妊娠継続が可能な状態ですから、過度な心配は必要ありません。しかし、長期間入院する場合や早産に至るケースもあるため、予防できる対策を知っておくとよいと思います。

切迫流産の原因はいくつかありますが、東洋医学では“瘀血”が主な原因と考えられています。子宮への血流が悪くなると、子宮が収縮して胎盤への血流を確保しようとします。瘀血の最大の原因が“冷え”ですから、腰回りを冷やさないようにすることが大切です。

東洋医学から見ると、妊娠するためには、新しい命を産み育てる余力を持った健康体であることが重要なポイントになります。そのためには、十分な栄養とともに、便秘や下痢の解消、さらに適度な運動と十分な睡眠が欠かせません。

つまり、自分の体をよい状態に整えることが妊娠につながる、といえると思います。冷えを解消することも、その一環です。

日本人の女性はもともと体が冷えやすい、いわゆる冷え性の方が多いといわれています。これは、男性や欧米の女性に比べて筋肉量が少ないことが原因の1つと考えられます。冷えの症状は、手や足が冷たい、冷房が苦手、夏でも使い捨てカイロが必要など、一般的には自覚しやすいと思われます。

しかし、自分では気付かない“かくれ冷え性”の現代人が増えています。下痢をしやすい、下痢と便秘を繰り返す、などの症状は体が冷えているサインです。さらに、「ほてって暑い」とおっしゃる方でも、診察すると実は冷えている場合があるので注意が必要です。平熱が低い“低体温”の方も冷えがベースにあると考えられます。ダイエット志向などで食べる量が少なくなると、熱をつくるためのエネルギーが不足します。加えて、日本人女性は腸が長いので便秘になりやすく、腸の動きが悪い状態は内臓の冷えにつながります。実は腸も筋肉でできていますから、腸が動けば熱がつくられます。動きの悪い腸では必要な栄養素の吸収も悪くなり、さらに冷えやすい体になってしまうのです。

無理のない運動を取り入れて

体の熱は主に筋肉がつくっています。体が冷えている方の場合、筋肉がきちんと熱をつくっていない状態が見受けられます。冷えにくい体質をつくるためには、食事とともに運動によって筋肉をしっかりと鍛えていくことが重要なポイントになります。

ただし、冷え性の方は疲れやすい体質でもあるので、まずは無理なく、日常生活の中に少しずつ運動を取り入れることをおすすめします。たとえば、食器洗いの際にかかとを上げ下げする、少しだけ遠回りして帰宅するなど簡単なものを継続するとよいでしょう。

デスクワークの多い仕事をされている場合には、時間を決めてトイレ休憩をこまめに取るなど、長時間同じ姿勢で座らないような工夫が大切です。血流をよくするために腰を回すなど、軽くストレッチすることもおすすめです。

和食を中心に栄養バランスのよい食事を

冷えを改善する食事として、和食がおすすめです。和食は、お味噌汁など温かい汁物で体を温めることができます。さらに、煮た野菜など、胃に負担が少なく消化しやすい食事である点もポイントです。

また、日本人に不足しがちなたんぱく質、カルシウム、食物繊維も意識的に取るとよいでしょう。特に、豆腐や納豆などの大豆たんぱく質は冷えの改善につながるため、おすすめです。

反対に、甘いものや冷たいものはなるべく控えていただきたいと思います。特に糖分は筋肉が少ない方が多く取り過ぎると、体内に余分な水分を引き込み、頭痛めまいを引き起こす水毒の状態になることがあるので注意が必要です。

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十分な睡眠と入浴で体を温めることも大切

十分な睡眠を取ることも大切です。また、入浴の際にはシャワーだけ浴びて終わりにせず、浴槽でしっかりと体を温めていただくことも、冷えの対策としてよいでしょう。

医療機関で受けることができる冷え対策として、漢方薬による治療があります。たとえば、血の巡りをよくする漢方薬を服用することで、冷えの症状が改善されるケースがあります。

東洋医学の診察のポイント

東洋医学の特徴は、病気そのものではなく患者さん自身を診る点だと思います。東洋医学では、不調の原因を探っていくときに問診を重視します。起床時間、就寝時間、便の回数、入浴の可否、食事の回数など、普段の生活について細かく聞いていきます。そのうえで、脈をとったり、舌を診たり、お腹を触診したりして体質を見極め、処方につなげています。

漢方薬を服用して冷えを改善し妊娠に至った例

漢方薬で冷えを改善し、妊娠に至った患者さんの例を1つご紹介します。私の患者さんの中に、月経が1年に数回しか来ない状態が続いている方がいらっしゃいました。診察の結果、お腹や太ももが冷えていることが分かったのですが、ご本人には冷えの自覚がありませんでした。むしろ「体が熱い感じがする」と話されていたほどです。

虚弱体質などに効果が期待できる漢方薬を処方して2週間が経過した頃、「疲れていたみたいです」とおっしゃり、疲れや冷えを自覚できるようになりました。そのまま1か月程服用を続けていただいたところ徐々に体調が改善されていき、排卵誘発剤も使用してタイミング指導*で妊娠されました。これは一例ですが、漢方薬によって体調を整えることで妊娠しやすくなるケースがあります。

*タイミング指導:排卵日を予測し、妊娠に至りやすいタイミングを指導する方法。

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漢方の治療を受けたいときは

漢方薬による治療を受けたいと思ったときは、漢方を専門とする医師を探して受診することをおすすめします。産婦人科では漢方薬を使用する場合が割と多いので、不妊治療を受けている場合、まずは主治医の先生に相談するとよいでしょう。薬局で相談するのもよいと思います。

漢方薬も副作用があります。合わないと感じたときは無理に続けず、気軽に相談しましょう。ご自分に合う薬を一緒に探してもらえるような医療機関がよいと思います。

妊娠や出産を考えたとき、漠然とした不安を抱くこともあるかもしれません。そんなときはご自身の体を見つめ直すことから始めてほしいと思います。ご自身の体と対話して「本当は冷えている」「本当は疲れている」などと自覚することで、冷えの改善など、妊娠・出産に必要なことが見えてくるでしょう。

私は、病名がついているものだけが病気ではないと思っています。病気と健康の境目は曖昧で、坂道を上ったり下ったりするように人の体には揺らぎがあり、体調が変化するのは当たり前のことです。お話しした漢方薬による治療は、傾いた体を立て直すお手伝いができるのが魅力だと思います。

分からないことがあれば医療機関に気軽に相談していただきたいです。そして明るく前向きに、妊娠・出産を目指してほしいと願っています。

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