院長インタビュー

高度で専門的な医療を通して子どもたちの健やかな成長を目指す兵庫県立こども病院

高度で専門的な医療を通して子どもたちの健やかな成長を目指す兵庫県立こども病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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神戸市中央区にある兵庫県立こども病院は1970(昭和40)年の開設以来、小児・周産期医療の“最後の砦”としての役割を担ってきました。兵庫県唯一の小児病院として、断らない救急をはじめとした医療提供体制の充実を図る同院の役割や今後について、院長である飯島 一誠(いいじま かづもと)先生に伺いました。

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西面外観

当院は兵庫県政100周年を記念して1970年に開設されました。当初は神戸市西部の須磨区にて診療しておりましたが、2016年5月に医療施設が集積するポートアイランドへと移転して現在に至ります。救急科をはじめとした27の診療科、病床数290床を有する当院は、兵庫県唯一の小児専門の病院であり、小児・周産期医療の最後の砦として24時間体制の診療を行っています。

兵庫県はエリアごとに特性が異なり、都市部もあれば医療過疎地域も存在します。都市部であっても医療資源が潤沢なわけではなく、新生児科や産婦人科の医師が十分に足りているかというと決してそうではありません。近年の晩婚化や出産年齢の上昇によって“ハイリスク妊娠”と呼ばれるケースは着実に増加しており、女性が安心して子どもを産み、育てられるような環境づくりが求められています。

こうした社会状況の中で、私たちが果たすべき役割は非常に大きなものがあります。当院では集中治療機能を強化するとともに救急医療体制を整えるなどして、質の高い医療を安定して提供するべく力を注いでいます。

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1階エントランスホール

当院は2017年4月1日に近畿圏初の小児救命救急センターに指定され、“いつでも全ての子どもを受け入れる”との理念のもとに、小児の救急患者さんを積極的に受け入れてきました。救急車からの受け入れ要請にどれだけ対応したかを示す救急応需率は97~98%の高い数字を維持し、1年間に受け入れる患者さんの数は15,000人*を超えています。

救急HCU病床は28床あり、病気・けが・症状の程度にかかわらずできる限り患者さんへの対応を行っています。小児・周産期医療の最後の砦である当院に寄せられる期待は年々高まりつつありますが、皆さんの信頼にお応えできるように、より一層充実した医療をご提供したいと考えています。

*2023年度実績:15,140人

小児救急医療と並んで当院の柱となっているのが、小児集中治療です。小児集中治療科科長を務める黒澤 寛史(くろさわ ひろし)医師を筆頭に、子どもたちの命を脅かす病気やけがに対する集中治療を24時間体制で行っています。

小児救命救急センターに指定されている当院においてPICU(小児集中治療室)が果たす役割は大きなものがあります。2023年4月にはPICUの病床数を16床に増床し、HCU(高度治療室)と合わせて27床を集中治療のための病床としています。

集中治療科の医師は、当院にある27の診療科全ての医師と連携して治療にあたっており、その機能と規模は西日本最大級となっています。小児の気管狭窄(きかんきょうさく)に対応できる医療機関が少ないこともあり、患者さんは兵庫県のみならず中国、四国、九州地方からお越しになるケースも珍しくありません。1人でも多くの子どもの命を守るためにも、引き続き医療提供体制の充実に努めてまいります。

当院は2013年2月に厚生労働省より小児がん拠点病院の指定を受けました。翌2014年4月には小児がん医療センターを開設し、2017年12月からは当院のお隣にある神戸陽子線センターと連携して治療にあたっています。

小児がんの中でも患者数が多いのが、血液腫瘍(けつえきしゅよう)白血病・リンパ腫など)です。当院は小児専門病院としては近畿圏で唯一の小児がん拠点病院であり、一般病棟の入院患者さんの3分の1は血液腫瘍の患者さんです。病棟内には無菌室が4床あり、重症の患者さんについては骨髄移植をはじめとした造血幹細胞移植も検討します。

また、がんゲノム医療連携病院の指定を受けた2019年からはゲノム情報をもとにした個別化治療をスタートし、2022年12月からは急性リンパ性白血病(再発難治性)に対するCAR-T細胞療法を行っていることも特徴となっています。

救急医療の現場で活躍する“ドクターカー”や“ドクターヘリ”をご存じの方も少なくないでしょう。ドクターヘリは地形や交通事情に左右されずに飛行できる点にメリットがあるものの、夜間は飛行できない、狭い機内で十分な治療ができないなどのデメリットも存在します。

こうしたマイナス面を解決してくれるのが“ドクタージェット”です。ドクタージェットは広大な大地が広がる北海道で実用化されており、近畿圏においても伊丹空港にドクタージェットを常駐させる計画が進んでいました。私自身も“飛ばそう、ドクタージェットプロジェクト”としてクラウドファンディングの呼びかけを行ってまいりましたが、おかげさまで2024年4月1日よりドクタージェットの愛知県営名古屋空港を拠点として試験運航が開始され、2024年5月17日に当院1例目のドクタージェット搬送が行われました。

当院はPICUを有しておりますが、日本全国どの地域にも小児専用の集中治療室が存在するわけではありません。夜間も飛べるドクタージェットがあれば全国各地から患者さんを搬送することができ、地域の医療格差を限りなくゼロに近付けることができるでしょう。今はまだ試験的な取り組みではあるものの、いずれは国家事業として伊丹・羽田の2拠点を軸にドクタージェットが運用されていくことを願っています。

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ドクタージェット内の様子

当院は近畿圏における小児・周産期医療の最後の砦であり、小児集中治療科科長を務める黒澤 寛史医師のほかにも各分野のエキスパートがそろっています。たとえば感染症内科科長の笠井 正志(かさい まさし)医師は、当院の感染対策部長であると同時に兵庫県感染症対策アドバイザーも務めていました。また、泌尿器科部長の杉多 良文(すぎた よしふみ)医師は尿道下裂の手術を得意としており、小児がん医療センターでは小阪 嘉之(こさか よしゆき)医師、長谷川 大一郎(はせがわ だいいちろう)医師をはじめとした優秀なスタッフが活躍してくれています。かかりつけ医の先生方とも十分にコミュニケーションを取っており、子どもたちに何かあったときにはスムーズにご紹介いただける体制を整えておりますのでご安心ください。

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感染症内科医師、微生物検査技師、感染管理認定看護師らによるmicrobiologyラウンド

私自身は国立成育医療研究センターで腎臓科医長を務めた経験もあり、小児難治性ネフローゼ症候群の研究をライフワークにしています。最近も新たにネフローゼの原因として非常に有力な抗ネフリン抗体に関する多施設共同研究に参画しておりますが、当院においても診療のみならず研究にも積極的に取り組むことで、新しい治療法の確立を目指してまいります。

*画像提供:兵庫県立こども病院

病床数、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年5月時点のものです。

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