鹿児島県鹿児島市にある米盛病院は、1969年に整形外科の専門医療機関として開院しました。2014年の病院移転を機に脳神経外科や循環器内科、心臓血管外科といった診療科を拡充し、高度な救急医療を提供できる体制を整えました。そんな同院の役割や今後について、社会医療法人緑泉会の理事長で同院の院長でもある米盛 公治先生にお話を伺いました。
当院は1969年に、米盛整形外科医院として鹿児島市に開院しました。当初は整形外科の専門医療機関でしたが、2014年の病院移転を機に世界水準の救急医療を提供できる体制を整えました。同時に整形外科に加えて脳神経外科、循環器内科、心臓血管外科といった診療科を拡充しています。
2014年からの10年間で職員数が約2.5倍、病床数が約1.7倍に増加するなど、当院は大きく発展・進化しました。これは当院の成長を見据え、病院の建物や設備の充実、診療科の増加と医療スタッフの増強などを続けてきたのが大きな要因です。そしてその間に鹿児島県災害拠点病院や基幹型臨床研修病院、救命救急センターの指定を受けるなど、地域医療への貢献を拡大させてきました。また、2023年の手術件数は6,015件で10年前の2.9倍、救急搬送受入件数は6,568件で同5.4倍に増えました。数年前までは救急車の搬入件数より手術件数の方が多く推移していました。当院のように救急車の搬入件数と同等の手術件数がある病院は珍しいかもしれません。これは、当院が整形外科領域の変形性関節症や、椎間板ヘルニアをはじめとした脊椎疾患など、慢性疾患の手術を数多く実施していたためです。
当院は整形外科だけではなく、命に直結する救急医療を担う専門性の高い病院を目指してきました。その甲斐もあり、⿅児島市与次郎に移転・開院して10年の節目となる2024年、8⽉1⽇付で鹿児島県より救命救急センターの指定を受けました。指定を受ける前から、24時間・365日体制で1次〜3次救急に対応しており、前述の通り2023年の救急搬送受入件数は年間6,568件で、10年前の約5.4倍に増加しました。搬送されてくる患者さんは、緊急性・専門性の高い脳卒中や急性心筋梗塞、重症外傷などの複数の診療科にまたがる症例が多く、高度な専門医療を提供しています。当院の救急外来(ER:Emergency Roomの略)には、患者さんが搬送されてから治療を始めるまでの時間を短縮するため、CT室と血管造影室、手術室の機能を併せ持ったハイブリッドERを導入しています。設計段階からさまざまなケースをシミュレーションして作り上げており、当院のようなハイブリッドERは世界的にも珍しいと自負しています。また、10床ある集中治療室(ICU)は手術室と隣接しており、術後の患者さんが短い動線で直接入室できるよう配慮もしています。
脳神経外科では、日本でも導入が進み始めている、未破裂脳動脈瘤に対する新しい治療「フローダイバーターステント治療」にも取り組んでいます。大型の未破裂脳動脈瘤は、コイル塞栓術(細いカテーテルを脳動脈瘤の中まで誘導し、コイルを脳動脈瘤の内側に詰めて血液が流入しないようにする手術)では根治が難しいといわれています。一方、フローダイバーターステント治療は脳動脈瘤のある血管に網目の細かいステントを留置して破裂を防ぐ治療法で、コイル塞栓術で難しかった治療が可能になります。2023年に当院で実施した未破裂動脈瘤に対する脳血管内治療の約半数がフローダイバーターステント治療でした。
循環器疾患についてはハートカンファレンスにて、循環器内科医、心臓血管外科医、血管外科医、その他の多職種スタッフが治療方針を協議しています。複数の職種のスタッフがハートチームを組んで診療にあたるため、内科・外科それぞれの視点から、患者さんに合わせた治療法を選択できるのが当院の強みであり特徴です。
また、循環器内科では、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、不整脈、弁膜症、心筋症、心不全、閉塞性動脈硬化症などといった、心臓の血管や他の血管、心臓そのものに生じる疾患の診療を行っています。
心臓血管外科では、2023年1月から新たな診療体制を構築し、あらゆる心臓・大血管疾患に対して、365日体制で手術を行っています。主な症例は狭心症・心筋梗塞に対する心拍動下冠動脈バイパス術や、弁膜症に対する弁形成術や弁置換術、胸部大動脈瘤・急性大動脈解離に対する大動脈置換術などです。透析中の患者さんが上記のような疾患を併発した場合に当院へご紹介いただくことも多く、これらの患者さんの心臓・大血管手術も多く行っています。
当院は2017年から胎児診断外来を開設し、日本産科婦人科学会認定専門医で臨床遺伝専門医制度委員会認定の専門医でもある医師が胎児の情報を可能な限り正確に伝え、適した検査の選択や出生後の治療方針のアドバイスを行ってきました。特に近年は、高齢で出産をされるお母さんが増加傾向にあることから、近くに相談できる場があれば不安の解消にも繋がります。また、南九州地域では同診断を行う医療機関の数が限られていますので、遠く離れた都市にわざわざ赴かなくても、当院で専門的な診療を受けられます。胎児診断そのものは、医療全体のニーズから見るとそれほど多くありません。しかし、地域の皆さんのニーズが少しでもある限り、診療は続けていきたいと考えています。
鹿児島には離島や大きな湾もあり、陸路や海路で患者さんを搬送するとなると非常に時間がかかります。そこで、治療までの時間を限りなく短縮するためにドクターカーと民間救急ヘリを活用し、医師と看護師が現場に赴いて迅速な初期治療にあたるプレホスピタル(病院前救護)活動を展開しています。2014年には鹿児島県と「鹿児島県ドクターヘリ補完ヘリの救急患者搬送に関する協定」を締結し、当院の民間救急ヘリが消防要請により正式なドクターヘリとして活動しています。
また、当院は2016年に鹿児島県災害拠点病院の指定を受けており、災害急性期に活動する専門的なトレーニングを受けた医療チーム「DMAT」も編成しています。新型コロナウイルスの感染症が流行した際には、鹿児島県はDMATが患者さんの搬送や病院の振り分けなどを行い、私はほぼ3年間、鹿児島県庁で患者さん振り分けなどの調整に携わっていました。実は、私は鹿児島県の災害医療コーディネーターという資格を持っており、その経験が大変役立ちました。
総務省は「#7119」という事業をしています。これは、急な怪我や病気で救急車を呼んだ方がよいか、今すぐに病院に行った方がよいかなど、判断に迷った場合の相談窓口です。119番に連絡が集中しすぎるのを防ぐ目的もあるのですが、鹿児島県は導入されていません。そこで当院では独自の救急相談ダイヤル「#7099」を運用していて、地域の皆さんが急な怪我や病気で困ったときの窓口になっています。2023年の相談件数は15,791件に達し、10年前と比較すると10倍を超える伸びになっています。
当院は開院当初から、ホスピタリティを意識した運営をしています。たとえば手術ですと、心配されるご家族の気持ちに配慮して、希望すれば手術の様子をモニターで見ることができるよう全て公開しています。また、ICU(集中治療室)は全室個室としており、お見舞いを希望される方を個別にご案内できるようにしています。その他、従業員満足度調査と顧客満足度調査は毎年実施し、医療スタッフや地域の皆さんが当院に求めることを把握して、日々改善に努めています。
当院は、リスクを恐れず新たな領域に挑んでいく「ファーストペンギン」として、地域医療、または日本の医療への貢献に必要と思われることに果敢に挑戦し続けてきました。それが現在の成長につながっていると自負しています。今後も高度な急性期医療から、回復期医療、そして在宅・介護サービスまで、「一秒を救う。一生につなぐ。」というコンセプトのもと、皆さんに寄り添った医療・介護サービスが提供できるよう努力を続けてまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
社会医療法人緑泉会 理事長、米盛病院 院長
社会医療法人緑泉会 理事長、米盛病院 院長
日本整形外科学会 整形外科専門医・認定脊椎脊髄病医
1991年鹿児島大学医学部卒業。同年、整形外科医師として鹿児島大学医学部附属病院整形外科で勤務開始。複数の医療機関を経て1997年医療法人緑泉会(現社会医療法人緑泉会)に入職。2002年同法人整形外科米盛病院(現米盛病院)院長に就任。2009年からは同法人理事長に就任。
米盛病院は、1969年の開院以来、整形外科単科病院であったが、その専門性をいかしつつ2013年には救急科を追加標榜。2014年に鹿児島市与次郎地区へ新築移転。民間医療用ヘリや1部屋で初療から検査、手術まで行えるハイブリッドER、当院救急救命士が対応する24時間救急相談ダイヤルなどを導入した。2018年には回復期病棟(200床)を増設(計506床)。診療科も拡充し、現在は脳神経外科、心臓血管外科、循環器内科などを加えた18診療科となった。南北600kmに広がる鹿児島の特性に求められる地域医療を展開している。
米盛 公治 先生の所属医療機関
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