公益財団法人 綾部市医療公社 綾部市立病院(以下、綾部市立病院)は、京都府綾部市で唯一の公立病院として、急性期を中心に地域の医療を支え続けています。
綾部市の人口が減少する中、医療ニーズは縮小しつつあるものの、診療の質を落とさずにどう地域の方々に貢献していくのか、2024年4月より院長に就任した志賀 浩治先生に、同院の取り組みや今後についてお話を伺いました。
当院のルーツは、1927年に開設されたグンゼの企業内病院です。1958年には一般開放され、綾部市で唯一の総合病院として地域医療を担っていましたが、1990年に閉院し、同年これを引き継ぐ形で公的総合病院として綾部市立病院が開設されました。
当院のある綾部市は京都府北部に位置し、絹織物などの繊維産業で発展した山間の静かな町です。JR山陰本線と舞鶴線が通っており、また、高速道路の舞鶴若狭自動車道と京都縦貫自動車道が交わる交通の要衝であることから、多くの一部上場企業が操業しています。その一方、綾部市の高齢化率は2020年時点で39.0%まで進んできており、少子高齢化という大きな問題を抱えています。
当院は、地域の基幹病院として急性期から慢性期にいたるまで幅広く患者さんを受け入れています。こうした地域のニーズに応えるため、急性期病床のみならず地域包括ケア病床も有しており、1次2次救急や、1日に500人以上が通院される外来診療にも対応しています。
高齢者が多いと必然的に整形外科患者さんが増えてきますが、当院の整形外科には日本整形外科学会認定専門医が3名在籍(2024年現在)しており、例えば椎間板ヘルニアに対する手術として経皮的内視鏡下椎間板手術などを実施できることが強みです。経内視鏡的手術は傷あとが小さいため、患者さんへの体の負担が少なく、術後の回復が早いことが特徴の1つです。
この他に腰部脊柱管狭窄症や圧迫骨折などの脊椎・脊髄疾患、手根管症候群やばね指といった手の外科疾患は京都府北部の中でも多くの診療実績を持っています。
さらに当院では骨粗しょう症外来を設けており、医師を中心に薬剤師、看護師、放射線技師、リハビリスタッフ、管理栄養士などが連携し、チーム医療で患者さんをサポートしています。
当院では、地域の方々とのコミュニケーションを重視し、さまざまな方法で医療情報を発信しています。
例えば、地域内の全戸に広報誌を配布したり、最近ではLINEで病院の最新情報を配信するようにもなりました。毎年夏には当院の開院記念日に併せて“市民のための学術講演会”と題した市民向け講座を開催し、生活習慣病などをテーマに講演を行っています。さらに2023年からはYouTubeで、市民講演会の動画や、職員の業務風景なども公開しています。(一部限定公開)
また、糖尿病内科医とリハビリスタッフがコラボして、運動療法を実演する動画を配信しており、再生回数が300万回を越えているコンテンツもあります。(Youtube 「くろまめチャンネル」)
その他にも地域の皆さんが参加できる糖尿病教室、生活習慣病予防教室、腎臓病教室などを定期的に開催しており、好評をいただいています。
当院としてはこれらの広報活動により、地域の皆さんに健康への理解を深めて頂き、早期受診や予防医療に貢献できるよう努めています。
当院は、地方小都市の自治体病院でありながら、開院2年後の1992年から2013年までの22年間も連続して黒字経営を続けることができました。このことにより、自治体立優良病院表彰を2度、総務大臣表彰を1度受賞しています。ところがそれ以降は徐々に病床利用率などが低下し、赤字経営に転じてしまいました。この原因としては、診療報酬改定や人口減少が大きく関わっていると考えています。
綾部市の人口は、2024年9月現在 約3万人であり、当院が開院した1990年の人口約4万人に比べて約25%も人口が減少しています。当然、このような地域の医療ニーズの変化に合わせて、病院も変化していく必要があります。このため当院では、2024年度からの4カ年計画として働き方改革や人材の確保、感染症への取り組み、施設や設備の最適化などを盛り込んだ“綾部市立病院経営強化プラン”を策定し、経営体制の抜本的な改革を進めています。
人材を確保できず、現在医師が不足している診療科については、近隣の病院と連携を取り、患者さんが不利益を被られることがないように努めています。
地方では多くの公的病院で経営状況の悪化が見られる中で、当院が今後も長期的に医療の質を維持していくためには、各科の専門医が十分に力を発揮できるような環境づくりや医療機器の整備が重要です。優秀な医師を確保できるよう、当院独自の取り組みを広く発信していきたいとも考えています。
これからも当院は、地域医療の担い手として患者さんに寄り添い、全力で日々の医療活動に取り組んで参ります。