院長インタビュー

災害対策を徹底し、地域医療の基盤を担う和歌山ろうさい病院

災害対策を徹底し、地域医療の基盤を担う和歌山ろうさい病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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和歌山県和歌山市にある独立行政法人 労働者健康安全機構 和歌山ろうさい病院(以下、和歌山ろうさい病院)は、平常時のみならず、災害時にも地域の医療拠点となれるよう、幅広い取り組みを行っています。また、医療連携を強化し、地域の皆さまが求める医療の提供に努めています。そんな同院の特長について、院長の南條 輝志男(なんじょう きしお)先生にお話を伺いました。

当院は1966年に開院後、1979年の病棟増改築を経て、2009年に現在の和歌山市木ノ本へと移転して再スタートを切りました。現在は、ICU(集中治療室)6床を含む303床の総合病院として、地域医療ネットワークの中心的な役割を担っています。

近年は大規模災害に強い病院作りに努めるとともに、医療機器の充実を図り、よりいっそう質の高い医療を提供できる体制を整えております。

先方提供
病院外観(和歌山ろうさい病院ご提供)

当院は、2022年度に画像診断センターを新設しました。同センターは、放射線による治療や画像診断を専門とする6名の医師(2024年時点)が在籍しており、和歌山県内では和歌山県立医科大学附属病院、日本赤十字社和歌山医療センターに次ぐ規模を誇ります。

画像診断においては、“SOMATOM go. Open Pro”を2023年に導入しました。これによって従来に比べて呼吸のブレを抑えた画像を撮影できるようになったほか、肺がんの病変部が呼吸で移動する様子が詳細に分かるため、より精度が高い治療計画を作成できるようになっています。またMRIにおいては、人工知能を搭載した“Ingenia Elition 3.0T”も2023年に導入しました。従来よりも精度が高く、短時間で検査を行えるのが特徴です。この装置を用い、当院ではMRIを用いたがん検診である、DWIBS(ドゥイブス)検査*を行っています。DWIBS検査は、従来のPET-CT検査と比べて検査時間が短く、検査前の絶食が不要で、放射線被ばくを回避できることなど、患者さんにとって多くのメリットがあります。また、これまでは難しかった脳や肝臓などの血流が多い場所が詳細に検査できるようになったことも利点の1つです。

*DWIBS(ドゥイブス)検査 MRIによる全身のがん検査。レントゲン検査やCT検査のような被ばくがなく、マンモグラフィー検査が困難な豊胸バッグを入れた人でも検査が可能。ただし全てのがんに対応できるわけではないため、検査時に要相談を。

MN

放射線治療はがん治療における標準治療の1つで、当院ではがんの種類、患者さんの病状や体の状態に応じて、根治を目指す治療やがんによる痛みを緩和させる目的などで用いています。しかし、従来の放射線治療はがんの周囲にある正常組織へも照射してしまうことより副作用が出現することなどが課題となっていました。

そこで当院では2023年に放射線治療器を更新し、がんに対してよりピンポイントで照射ができる“TrueBeam”を導入しています。TrueBeamは患者さんの位置や動きを追跡しながら誤差補正ができるので、がんに対する放射線照射をより正確かつ高精度に行えるようになり、治療効果の向上や副作用を減らすことが期待できるようになりました。

先方提供
放射線治療装置
(TrueBeam)
当院は“断らない救急”をモットーに掲げ、救急科を中心に救急医療に力を入れています。2023年度には3,928件の救急車を受け入れており、和歌山市の救急搬送のうち15%以上を当院でカバーしました。

より迅速な救急医療を目指すため、脳神経外科は“STROKE HOT LINE”、循環器内科では“HEART CALL”というように、救急隊からの直通電話(ホットライン)を設けているほか、近隣の病院と連携し、当院で急性期の治療が終わった患者さんがスムーズに回復期移行の医療を受けられるよう協力体制を敷いています。また、6床のICUをフル稼働させ、脳卒中心筋梗塞の患者さん、輸血や人工呼吸管理が必要な患者さんなどがいつ来院されても幅広く対応することができます。ICUには専属の看護師を配置し脳卒中、急性心筋梗塞、呼吸不全、感染症によるショック症状などの重症な急性疾患の集中管理や、手術侵襲の高い術後管理を行い、苦痛が少ないケアを実践し24時間体制の手厚い看護で患者さんに寄り添っています。

和歌山市は紀ノ川など山間を流れる河川が多いため、当院の立地上、有事の際に孤立化しないような対策をとる必要があり、近い将来発生すると予想される南海トラフ巨大地震に備え着々と準備を行ってきました。2009年の病院新築移転時には免震工事に踏み切り、当院は2012年3月に市北部唯一の和歌山県災害拠点病院の指定を受けました。災害拠点病院は、災害時に24時間体制で医療提供が行える環境を整備し、より災害に強く安心の地域医療を守る機能を充実させる必要があり、大災害に備えるために下記の3つの大きな取り組みを実施しました。

まず2015年7月に「災害医療研修棟」を造設しました。この研修棟は災害時に必要となる機能を集約しており、屋上にはヘリポートを設置しています。物資の備蓄倉庫や災害派遣医療チームの待機スペースだけでなく、災害時に地域住民の一時的避難所として機能する多目的ホールをつくりました。平常時には、年4回の市民公開講座の開催や災害医療の実践トレーニングを積むスキルスラボとして活用しています。

次に2018年9月に発生した台風21号は、近畿地方に大きな被害をもたらし、和歌山市では広範囲な停電が生じました。そこで2022年3月に「災害医療対応棟」を新たに造設し、BCPの一環として災害時にも通常の医療が提供できるように、大容量の自家発電装置を追加したことで、発電能力は倍増され停電時でも大型の医療機器を稼働するのに十分な病院機能を発揮できるようになりました。この災害医療対応棟ができたことで、自家発電量や負傷者受け入れスペースが倍増、備蓄倉庫の拡充などに加え新型コロナウイルス感染症パンデミックにもより安全に対応可能となりました。

さらに2021年に発生した六十谷水管橋破損による長期的な断水の経験から、従来の貯水タンクに加えて、2024年には「地下水汲み上げ浄化センター」を設置し、井戸から汲み上げた地下水を濾過し、隣接の貯水槽に貯め、災害時には同病院の各部署に提供することで、従来の4倍以上の給水能力が保持でき、大量の飲料水が確保できる体制を整備しました。

当院はこれらのような平時からの備えを通じて、多様な災害時においても高度で良質な医療が提供できる病院づくりを今後も進めてまいります。

写真左より災害医療研修棟、災害医療対応棟、地下水汲み上げ浄化センター(わかやま新報2024年5月3日発行紙面より転載)

世界的に見ても日本の医療は質が高いため、多くの患者さんが日本を訪れています。その状況にあわせて、当院は地域医療に障害を及ぼさない範囲内で外国人患者さんの積極的な受け入れを開始しました。このことによって当院にいらっしゃった外国の方々に和歌山市・県の魅力を発信し、地域の活性化に貢献できればと考えています。また、この取り組みで高額機器の利用頻度を高めることにより減価償却期間の短縮を図りたいと考えています。

地域の皆さまの日常の平穏が続くことを願ってやみません。しかし、災害は突然起き、生活を一変させる脅威です。それゆえ、日頃からの備えが重要であると考えています。

当院は、どのようなときも、地域の皆さまを支えることができるよう、医療体制の整備、備蓄品の拡充などの災害対策に努めてまいります。また、平常時も地域の皆さまに寄り添う医療を提供できるよう、職員一同、励んでまいります。

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