香川県高松市にある香川県立中央病院は、高松市を中心に香川県の医療を支える、地域の基幹的な病院です。香川県立中央病院の果たすべき最大の使命は、香川県における高度急性期医療(重症の患者の治療や高難度の手術や手技による治療)を担っていくことです。救急医療をはじめ、がん診療や脳卒中・循環器医療など専門性の高い医療を提供している同院の役割や今後について、院長の髙口 浩一先生にお話を伺いました。
当院の歴史は古く、1945年(昭和20年)に開設された日本医療団高松病院が始まりです。2014年には高松市朝日町に新築移転し、現在は病床数533床・診療科目数33科を有する基幹的な病院として高松市を中心にした香川県の地域医療を支えています。がん診療や循環器医療といった専門性の高い医療を提供しており、地域の救急医療・災害医療の提供、香川県のがん拠点病院など多くの役割を担っています。また、へき地医療支援病院にも指定されており、へき地診療所への医療従事者の派遣を行い地域医療に貢献しています。
また当院は香川県より救命救急センターの指定を受けており、医療圏における3次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を担っています。他の病院で断られた患者さんは最終的に当院に搬送されることが多く最後の砦としての救急を担っており、年間の救急車搬入数は約4,000台に達します。また、救急車で受診した患者さんの約6割はそのまま入院となり、重症度の高い患者さんが多いのが当院の特徴です。この状況に対応するため、当院では新しい医療設備を積極的に導入したり、救急科の医師を増員したりして救急の診療体制の強化を続けています。
若手医師の育成にも積極的に取り組んでいます。初期臨床研修では、1年目の医師を2年目の医師が指導する屋根瓦方式を採用しています。教える医師の立場が近いことで連携が深まり、教わる側だけでなく教える側も学びを深めることができるというメリットもあります。このように当院の教育体制が整っていることや、救急医療体制が充実し、さまざまな症例を体験できることから、研修を希望する医師が多いのも当院の特徴です。今年(2025年)も1年目と2年目の研修医が、合わせて25人ほど在籍しています。
当院では新しい治療法を積極的に取り入れ、患者さんの治療効果の改善に取り組んでいます。以前から導入しているロボット支援手術についても、最新の“ダヴィンチXi”を2024年度に導入いたしました。ダヴィンチは患者さんの体に開けた小さな穴から内視鏡カメラとアームを挿入し、3Dモニターを見ながら装置を動かして手術を行います。一般的な開腹手術より傷口が小さく、術後の回復が早いなどの効果が期待できることから、当院では前立腺がん、胃がん、肺がん、大腸がんなどの手術で用いています。
治療薬についても、たとえば認知症の薬では、早期の認知症の進行を遅らせることができる点滴の薬が登場したのに合わせ、当院ではこの薬を使った治療を開始しています。現時点でこの薬を県内で使っているところも増えてきていますが、当院では治療開始時は入院にて治療を導入し安全性に配慮しながら症例数を増やして行っています。抗がん剤治療においても、患者さんの免疫力を高めてがんの細胞を殺す免疫チェックポイント阻害剤がたくさん登場しており、効果が期待できる薬を中心に積極的に入院や外来化学療法室で安全に治療が行えるようにしております。
最近増えているのが不整脈の患者さんです。不整脈の症状は動悸や息切れ、胸痛、息切れ、失神などさまざまで、放置すると命に関わるケースもあります。特に注意しているのが心房細動(心房がけいれんして細かく動いている状態)で、放置すると症状が悪化しかねません。そこでカテーテルアブレーション(カテーテルを心臓内に入れて不整脈の原因となっている部分に通電を加えて焼灼する治療法)を積極的に実施し、年間で400人を超える方が治療を受けています。心房細動を止めることができれば薬を飲む必要がなくなりますので、そうした患者さんの負担を軽減するためにも、カテーテルアブレーションは早めに実施するようにしています。
また、脳梗塞を発症する患者さんは心房細動を多くの場合合併しており、心房細動の患者さんは脳梗塞を起こしやすいという傾向があります。そこで当院では、脳外科と循環器内科が連携して診療にあたる“脳心連携”を強化いたしました。特に脳梗塞で受診された患者さんに不整脈が見つかった場合にはカテーテルアブレーションを積極的に実施し、多くの患者さんの脳梗塞の再発を防ぐことができています。
患者さんに安心して医療を受けていただくため、3年ほど前に患者サポートセンターを開設しました。同センターには受診支援室、入院前支援室、退院支援室、相談支援室があり、入院前から退院後を想定したさまざまなサポートを行っています。たとえば、入院をする患者さんに対しては事前に服用されている薬などを伺い、手術に影響がある薬については「入院の●日前までにやめてください」などアドバイスをしています。また、施設から直接入院された患者さんについては、手術が終わっても元の施設に戻れないケースもあることから、転院の手配や福祉サービスの紹介などを行います。高齢の患者さんで入院が初めての方などは、入院時に介護認定を受けていないケースがあります。そのような方がスムーズに在宅医療を受けることができるように、入院中に介護認定を受けるためのお手伝いをするのも同センターの重要な仕事です。
2022年4月に香川県にドクターヘリが導入されたのに合わせて、当院と香川大学附属病院は1週間ごとの交代制で、基地病院として稼働を始めました。年間で300回ほど出動要請があり、当院が担当するのはその半分の約150件程度です。患者さんは小豆島をはじめとした島しょ部の方が多く、心筋梗塞や外傷など、緊急性を要する重篤な患者さんを中心に搬送しています。当院で受け入れているのはそのうちの約7割程度の患者さんで、そのほかでは香川大学附属病院や高松赤十字病院などに搬送されます。現在のスタッフはフライトドクター8名とフライトナース6名です。屋上にはヘリポートを備えており、患者さんを万全の体制で受け入れています。
近年は高齢化が進んだことで患者さんの病態が複雑になり、総合的かつ専門性が求められるケースが増えてきました。また、当院に受診した段階で複数の疾患を患っている患者さんや、当院で治療を終えてもすぐに自宅復帰できない患者さんも増えています。そのような中、当院は高度急性期の患者さんを中心に診療を行っていますので、すべての患者さんを退院するまでじっくりと診ることができません。そこで当院では、周辺の診療所やリハビリが得意な病院などとの地域医療連携を強化して、病院完結型ではなく地域完結型の医療を提供できるよう取り組んでおり、現在(2024年8月)40を超える施設と連携のお約束をしました。今後も、当院が地域の中で果たすべき役割をしっかりと果たし、地域の皆さんに信頼され、愛される病院を目指して努力してまいります。