熊本県熊本市中央区にある杉村病院は、脳や循環器の疾患を中心とした診療を行う病院です。救急救命から生活習慣病の治療、リハピリテーションまでトータルに診療し、患者の社会復帰を支える同院の地域での役割や今後ついて、理事長である杉村 勇輔先生に伺いました。
杉村病院は1956年(昭和31年)、私の祖父が消化器外科の医院として開設しました。当時は病床も19床しかありませんでしたが、翌1957年(昭和32年)には病床数を30床に増やし、一般病院となりました。
警察医として行政に協力するほか、救急患者の受け入れも積極的に行い、熊本県における民間病院の救急車受け入れ件数第1位を、1987~1994年度の8年連続で獲得。1994年(平成6年)には、救急医療功労として西日本で唯一の厚生大臣表彰を受賞しています。
2代目の理事長として私の父が就任する頃には、すでに高齢化が社会問題となっていました。そういった状況を見据えて、慢性期医療に注力。同時に、介護老人保健施設、居宅介護支援事業所、ヘルパーステーション、グループホームなどを次々と開設していきました。
一方で国の医療政策として、救急救命と在宅復帰のためのリハビリテーションを重視するという方針がありました。当院では、糖尿病や高脂血症などを扱う代謝内科の医局とコネクションがあったことから、心臓血管病の治療に力を入れ始め、2009年(平成21年)には心臓血管センターを開設。2013年(平成25年)には脳神経外科の頭痛専門外来も開設し、循環器と脳神経という現在まで続く当院の2本の柱が揃いました。
2019年に脳血管内治療専門医である私が副理事長に就任してからは、医療機器の刷新などを行い、急性期から回復期まで全身血管病の患者さんを一貫して治療、リハビリができる環境の整備に注力。2023年4月には6階建ての新病棟が完成し、私も理事長に就任することとなりました。
新病棟には、さらに高度な治療を提供するため、脳卒中ケアユニット(SCU)や高度治療室(HCU)を設置しています。同時に従来の本館手術室を拡張し、血管撮影装置を導入したハイブリッド手術室にリニューアルしました。
当院が目指すところは、地域の方々が安心して暮らせる日常を守ること。そのため、大学病院や基幹病院にも匹敵するような医療環境を整えております。
当院は、熊本大学病院脳神経内科の関連病院です。脳卒中については、24時間365日受け入れ体制をとっています。新病棟には、脳卒中の患者さんを専門チームが24時間体制で集中的に治療する脳卒中ケアユニット(SCU)6床を設置しています。これは、熊本県内では大学病院や公的医療機関にしかなかった専門病床です。またSCUと同じフロアには、カテーテル治療後の全身管理などを行う高度治療室(HCU)8床があり、双方が連携することで質の高い医療サービスを提供しています。
神経は全身に張り巡らされているため、脳神経内科では全身を総合的に診る必要もあります。さらに、脳卒中ではリハビリテーションを始める時期によって、予後が大きく左右されることも珍しくありません。そこで当院では、整形外科や代謝内科、循環器科、リハビリテーション科など診療科を超えたチームで患者さんを見る体制を作り、治療にあたっています。
当院は心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、高血圧、不整脈、大動脈瘤や大動脈解離といった血管疾患など、急性期から慢性期まで幅広い循環器疾患に対応しています。救急の要請は満床の時以外は原則としてすべて受け入れており、心筋梗塞など虚血性心疾患には24時間365日、緊急カテーテル治療や造影CTができる体制となっています。
また、当院は心臓カテーテル検査をはじめ、冠動脈CT検査、血管内画像診断(IVUS)、冠血流評価(プレッシャーワイヤー)といった、さまざまな検査機器を揃えました。救急では失神で搬送される症例も多くなっていますが、その原因を突き止めるために自律神経の働きを調べるティルト試験も導入しています。
当院では、より早く正確に診断をして患者さんの負担を減らせるよう、大学病院並みの新しい医療機器を導入しています。MRIは、フィリップス社製のIngenia Elition 3.0Tにすることで診断精度が向上。検査スピードも最大50%短縮できるほか、検査時の音も低減されています。
血管造影装置やCTも、同じくフィリップス社製の機器を導入しました。画像診断に使用するソフトも常にバージョンアップし、検査時間の短縮に努めていいます。
また当院では、脳塞栓の亜急性期などで高気圧酸素治療を行っています。これは、大気圧の2倍の圧力で100%酸素を吸入していただくことで、血流障害によって起こる組織の低酸素状態を改善するものです。こういった高度な治療ができる医療環境を整えています。
当院では臨床研究にも力を入れており、医師だけでなく看護師、検査技師、工学技士、療法士といったコメディカルスタッフも実臨床に沿った研究論文を執筆し、学会などで発表しています。
例えば近年では、脳卒中にかかった患者さんが以前のように自動車を運転できるかどうか、その可否を分ける要素についての研究が注目されました。当院のリハビリテーション部には、本物の自動車とほぼ同じ感覚で操作できるドライブシミュレーターがあり、その環境を生かした研究といえます。
こういった当院ならではの臨床研究を行うことで、医療全体の底上げにもつながっていくことでしょう。これもひとつの社会貢献だと考えています。
質の高い医療サービスを提供するためには、十分な数のスタッフの確保が欠かせません。当院では、スタッフの髪色など診療行為に関係のない部分は、それぞれの自由としています。本業に支障が出ない限り、副業も禁じておりません。
時代は今、さまざまな趣味嗜好を容認する多様性社会となっています。規則で規制することなく、各スタッフの自由な嗜好を受け入れることで、誰もが働きやすい環境が作れると考えています。結果、気概にあふれた若年層や外国人のスタッフも増加。それぞれが信念を持って医療サービスを提供しています。
当院では、循環器と脳神経の疾患をメインとする診療を行っています。中でも私の専門分野である脳血管の疾患は、後遺症が残りやすく、入院が長くなりがちといえるでしょう。そうならないためには、やはり早期発見・早期治療が重要です。
脳血管以外の疾患にもいえることですが、少しでも違和感があったら、とにかく早く受診していただきたいと思っています。早期なら可能な治療でも、時間が経つと不可能になってしまうことがあるからです。
当院が目指すのは、脳や心臓といった重要な器官だけでなく、末梢血管も含めた全身の血管病に対応し、急性期から回復期まで一貫した治療で、地域に貢献することです。そのため、診療科、職域の垣根を越えて全スタッフが一体となったチーム医療を実施しております。
当院が現在の姿にまで発展してきたのは、地域の方々の応援もあってのことです。今後も地域の方々が安心して毎日を過ごせるよう、皆様の健康を支えていきたい、信頼され愛され蹴る病院であり続けたいと願っています。