肝臓の中にある小さな管、小葉間胆管(しょうようたんかん)が、免疫システムの異常により壊されてしまう自己免疫性肝疾患を「原発性胆汁性肝硬変(PBC)」といいます。中高年以降の女性に好発し、皮膚のかゆみや黄疸を主症状とするPBCには、どのような治療法があるのでしょうか。国際医療福祉大学消化器内科教授の銭谷幹男先生にお伺いしました。
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、小葉間胆管という一部の小さな胆管にだけ免疫応答が起こる疾患です。病名に「肝硬変」とありますが、ほとんどの患者さんは肝硬変になっていないため、欧米では2013年にPrimary Biliary Choangitis(PBC:日本語では原発性胆汁性胆管炎)と病名を改めました。日本では現在も原発性胆汁性肝硬変という名前が使われていますが、略称はいずれもPBCなので本記事では、疾患名をPBCと記します。
PBCも自己免疫性肝炎と同じく女性に多い病気で、男女比は1:7といわれています。自己免疫性肝炎の患者さんの中には小児や若い成人の方も多くみられますが、PBCの患者さんは中年後年以降(50歳以降)の方がほとんどを占めており、小児のPBC患者さんはほとんどみられません。これは、おそらく胆管の免疫寛容が破れるまでに、何十年という年月がかかるからでしょう。病気の原因はわかっておらず、遺伝子解析によるとHLA-DR8陽性の方に共通して起こるといわれていますが、確定的とまではいえません。
PBCとは胆汁を排泄する胆管が壊れる疾患です。そのため、胆管内で胆汁が停滞する「胆汁うっ滞」が起こり、皮膚の激しいかゆみや黄疸が現れます。PBCのかゆみは肝臓が悪くなるよりも先に出ることが多く、一般的なアレルギーによるかゆみと異なり、皮膚は赤くなりません。皮膚が赤くなるタイプのかゆみはヒスタミンによるものですが、最近になり、PBCのかゆみは脳のopioid receptorが関与していることがわかりました。つまり、通常の痒みの原因となる末梢でのヒスタミンには関係しない中枢でのかゆみということになります。最近この中枢の痒みを和らげる薬、Opioid Receptorκに作動する薬が臨床的に使用できるようになりました。この薬により劇的に痒みが消失する患者さんもいらっしゃいます。PBCの痒みは頑固かつ強烈で、不眠など多くの症状を引き起こしますが、この薬によりQOLの改善が得られるようになりました。
PBCの根治療法は、他の自己免疫疾患同様に原因がわかっていないため、今のところ確立されていません。また、自己免疫性肝炎のように免疫抑制薬であるステロイドを使いにくいという難点もあります。ステロイドを使用できない理由は、胆汁うっ滞が起こることで消化液のひとつである胆汁が十分に分泌されなくなり、脂溶性ビタミンの吸収が悪化することにあります。脂溶性ビタミンとはビタミンA・B・Dのことで、このうちビタミンDの吸収が悪いと、骨密度が低下して骨粗しょう症が起こりやすくなります。PBCは中高年の女性に好発するため、多くの患者さんはエストロゲン分泌が低下しており、骨粗しょう症のリスクが非常に高い状況にあります。ステロイドは骨密度低下の副作用がある薬剤ですので、このような状態の患者さんに使用すると、骨粗しょう症による病的骨折などの危険性は更に上がってしまいます。以上の理由から、PBCは自己免疫性疾患ではあるものの、免疫抑制薬のステロイドは使いにくいとされています。
PBCに罹患したあと自己免疫性肝炎を合併してしまった患者さんには、ステロイドを使用することがあります。PBCを発症し、胆管がある門脈で炎症が起こると、これに反応した血中のリンパ球は様々なサイトカインをのせて肝細胞へと流れることとなります。そのため、肝細胞でも免疫失調が起き、自己免疫性肝炎と同じ病態が起こるのだと考えられます。これを「PBC-AIHオーバーラップ症候群」と呼び、治療にステロイドを用いると自己免疫性肝炎と同様に効果が得られます。ただし、前項で述べた通り骨粗しょう症には注意をせねばなりません。
PBCの進行を遅らせるためには、胆汁酸製剤・ウルソデオキシコール酸(UDCA)が有効です。ウルソデオキシコール酸は胆汁の分泌を促す作用があり胆汁の分泌量を増やせるため、胆管の一部が壊れている場合でも流れを改善することができるのです。また、細胞保護作用、免疫調節作用もあります。実際にウルソデオキシコール酸が使用され始めてからは、PBCで肝移植に至る例や肝硬変へと進行する例が全世界で激減しました。病気そのものが治るわけではありませんが、病態は改善するというわけです。ただし、PBCの患者さんのうち約20%の方にはウルソデオキシコール酸がうまく作用しません。このようなケースの方に対する治療法にはどのようなものがあるか、次の記事でご説明します。
国際医療福祉大学大学院 教授、国際医療福祉大学大学院 臨床研究センター 教授、赤坂山王メディカルセンター 院長
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