禁煙外来に力を入れる中央内科クリニックの村松弘康先生は、多くの方が喫煙の害を過小評価しているため、なかなか禁煙に踏み切らない現実があるとおっしゃいます。今回も前回の記事「禁煙外来の専門家に聞く。タバコの煙に含まれる様々な毒素とは?」に引き続き、タバコの害についてご紹介します。
タバコを吸えば吸うほど肺がんになる危険性が高まるのは当たり前ですが、実は心筋梗塞や脳梗塞も増えることが分かっています。
私の禁煙外来では、患者さんに喫煙の有害性をしっかり実感して頂くために、いろいろな動画をみていただいておりますが、ウサギにタバコの煙を吹きかけて受動喫煙させた時の血管をみる実験動画があります。ウサギの耳は血管が浮き出て見えるので、光を当てて下から透かして顕微鏡で拡大すると、あまり難しい実験をやらなくても生きた動物の血管を目で見ることができます。
この実験でみていただきたいのは、タバコの煙を吸うとどのくらい血管が縮んでしまうか、ということです。タバコを久しぶりに吸うと「くらっ」とくることがあるかと思いますが、あれは脳貧血を起こしている状態です。血管が収縮して脳の血流が悪くなるため、くらくらするのです。驚くべきことにこのウサギの耳の血管も、一度吹きかけただけで血管が収縮し、血が流れなくなっていることがわかります。
喫煙は人間の脳でも血流障害を引き起こします。
この画像では、赤いところほど血がたくさんあることを示しています。同じ方の写真ですが、喫煙後には赤みが全くなくなっているのがわかります。
これが動脈硬化を起こしている方であれば、細くなった血管がふさがり脳梗塞になる危険性があります。また、血圧の高い方が吸うと血管が収縮するため、血管内の圧力が上がり過ぎて血管が切れ、脳出血、くも膜下出血、脳卒中になる可能性が非常に高くなります。アメリカ心臓学会・脳卒中学会の共同ガイドラインには、脳卒中を起こす一番の危険因子のひとつが喫煙だと明記されています。くも膜下出血は、吸わない方に比べて3倍起こしやすいとされているのです。
さらに、これだけ血流が悪くなると脳細胞は早く死んでゆきます。実は、喫煙により認知症になるリスクも増えることがわかっています。一昔前は、喫煙には交感神経を刺激する作用があり、意識がシャキッとするため、アルツハイマーが減るのではないか、という説もありました。しかしこの説は、今では完全に否定されています。逆に、上に述べたような血流障害が原因で認知症が進むことがわかっており、そのリスクは受動喫煙でも増えると言われています。
喫煙による血流障害は、肌の健康・美容にも悪影響を及ぼします。下のような画像をご覧になったことのある方はいらっしゃるでしょうか。これは50歳くらいの一卵性双生児で、タバコを吸い続けた人と吸わなかった人の写真です。一卵性なのでDNAの差はまったくないのですが、これだけの差がでてきます。
喫煙が肌に悪影響を及ぼすことは明らかで、いくつもの機序(しくみ、メカニズム)が解明されています。ひとつめはニコチンの影響です。先ほどのウサギの耳のように、ニコチン等の血管収縮作用によってお肌の血行が悪くなります。またニコチンは皮膚の下にあるメラノサイトを刺激し、メラニン色素の産生を促進するため、お肌のしみ・黒ずみ・くすみの原因となります。
次に活性酸素の影響です。活性酸素は不完全燃焼でも発生するためタバコの煙自体にも入っていますし、有害成分で炎症を起こした体内でも発生します。まず活性酸素自体が肌の細胞にくっつき、酸化・老化を来たします。また活性酸素は酸化防止に役立つビタミンCを破壊するため、肌の酸化が進みます。
さらに活性酸素は、皮膚のしわも増やします。女性の皆さんが飲んだり、肌に塗ったりしているコラーゲンは、コラーゲン・ファイバー(膠原繊維)という線維です。この繊維が皮膚の下でネットのような構造を作り、皮膚のはりを保っているのですが、活性酸素はコラーゲン・ファイバーを断裂させてしまうため、皮膚にしわが刻み込まれるのです。
禁煙外来では、女性の方には、こういった美容に関する資料もお見せすることで禁煙意欲を高めていただいています。ご自身に身近なところから危機感を持っていただくことが、禁煙の成功率を高めるカギとなるからです。
次回ももう少し、喫煙の害についてお伝えしていきたいと思います。
中央内科クリニック 院長
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