インタビュー

妊娠高血圧症候群の検査と診断とは?

妊娠高血圧症候群の検査と診断とは?
成瀬 勝彦 先生

獨協医科大学 産科婦人科学教室主任教授(産科担当)、獨協医科大学病院 総合周産期母子医療センタ...

成瀬 勝彦 先生

目次
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妊娠高血圧症候群の検査は血圧の測定が第一ですが、病態の進行具合によって治療方法も異なってきます。妊娠高血圧症候群の検査・診断・治療について、獨協医科大学 産科婦人科学教室 主任教授(産科担当)の成瀬 勝彦(なるせ かつひこ)先生に詳しくご解説いただきました。

妊娠高血圧症候群の検査の基本は、血圧測定と尿検査による尿中タンパクの測定です。

約6時間以上の間隔をあけて、2回以上収縮期血圧が140mmHg以上、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上、またはその両方の場合高血圧と診断されます。

一方、通常の妊婦健診での尿タンパク測定はテステープ(尿検査用のリトマス紙のようなもの)で行われることが多いですが誤差が大きく、正確な測定には24時間にどれだけの尿タンパクが排出されているかを知る必要がありますが、近年は随時尿におけるタンパク/クレアチニン比で近似することが許されています(0.3以上で陽性=1日尿タンパク300mg以上と推定)。

重症でない妊娠高血圧症候群では、高血圧合併妊娠を除き原則的に薬物治療はしないことが多いです。安静の指示や外来での食事制限、塩分制限などの治療が中心です。血圧が重症の患者さんには、これらに加え、降圧薬の投与などで治療を行います。また最近の研究で、高血圧合併妊娠や非重症の妊娠高血圧症候群でも血圧を厳格に管理するほうがよいとする結果も発表されており、この方針は変更される可能性があります。

治療の最大の目的は、脳血管障害の予防です。下の図はやや古いものですが現在も大きな変化はなく、妊婦さんが死亡する原因として脳出血脳梗塞(のうこうそく)が上位を占めており、これを引き起こさないために降圧薬の投与などが行われます。もっとも多い母体死亡の原因は産科危機的出血ですが、これは出血が発生した場合の対策が十分考えられており、発生しても適切な対処で危機を脱することのできる可能性があります。しかし、脳出血などの脳血管障害は一度起こしてしまうと止めることが困難です。そのため、脳血管障害をあらかじめ防ぐ降圧治療が必要となります。

先方提供

具体的な治療方針や薬剤の種類は、血圧の重症度(詳細はこちらのページ)や妊娠高血圧腎症の臓器障害(日本妊娠高血圧学会のサイトをご参照ください)、妊娠高血圧症候群と診断された際の妊娠週数、赤ちゃんの状態により異なります。

妊娠を希望する方、または妊婦さんは、血圧を140/90mmHg未満にすることが必要です(診察室での計測時)。妊娠時に使用できる降圧薬は、ヒドララジン、ニフェジピン、ニカルジピン静注、メチルドパ、ラベタロール(α/β阻害薬)、ニトログリセリンがあります。これに加えて、硫酸マグネシウムは子癇(しかん)こちらのページ参照)予防に用いられる唯一の特効薬です。

多くの場合、第一選択薬はメチルドパですが、これだけでは血圧が下がりきらない場合、ヒドララジンやラベタロール、ニフェジピン*を追加することがあります。

それでも症状が改善しないときには入院が必要となることもあります。重症の場合、入院して降圧薬や子癇予防のための点滴を行い、それでも改善がみられないなら、帝王切開あるいは陣痛誘発で赤ちゃんをお腹から出すことを優先し、母児双方の治療を目指すケースもあります。

ただし、早発型(妊娠32週以前発症)の重症妊娠高血圧症候群で赤ちゃんの発育が遅れている場合、赤ちゃんを娩出したところで未熟性による脳性麻痺が残ってしまう確率が高まりますし、かといって分娩時期を逃せばお母さん側が脳血管障害や腎不全を引き起こしてしまう可能性が上昇するだけでなく、産まれてくる前に赤ちゃんが亡くなってしまう危険すら考えられます。私たち周産期専門医(日本周産期・新生児医学会認定)は、この境目をしっかりと見極めていかなければなりません。

*ニフェジピン:現時点では妊娠20週以降の妊婦にのみ使用可ですが、医師からの説明と同意のうえでそれ以前でも使用されることがあります。

家庭で定期的に血圧を測るようにしましょう。また、安静を心がけることも大切です。

なお、妊娠高血圧症候群はその後の生活習慣病に関係が深いと考えられています。通常に分娩をした方と比較しても、数十年後の脳血管疾患や糖尿病脂質異常症、腎疾患などが見つかることが多いという結果が報告されています。そのため、妊娠高血圧症候群と診断されたら、妊娠期はもちろんお産後も食事や生活習慣を十分に管理することが大切です。カロリーや塩分の管理、適度な運動を心がけましょう。

また、ストレスをためすぎないよう、常にリラックスできる方法を1つ持っておくとよいでしょう。音楽なども効果的です。

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  • 獨協医科大学 産科婦人科学教室主任教授(産科担当)、獨協医科大学病院 総合周産期母子医療センター 産科部門長、獨協医科大学病院 臨床遺伝診療室 室長

    成瀬 勝彦 先生

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