心不全とは、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」であり、病気の進行度に応じてAからDまでの4ステージに分類されます。心不全が進行すると、動悸、むくみ、息切れなどの症状が現れますが、ステージAやBではまだ「心不全リスクを持っている」段階であり、自覚症状はほとんどみられません。心不全の進行を防ぐには、症状が現れないステージAやBの段階から対策を行うことが重要です。では、どのような工夫をすればよいのでしょうか。「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」のワーキングサブリーダーであり、国際医療福祉大学大学院医学研究科(循環器内科学)・福岡保健医療学部 教授の岸 拓弥先生に、自分でできる心不全対策についてお話しいただきました。
心不全は、その進行度に応じてステージA~Dの4段階に分類されます。
各ステージの状態を簡単に説明すると、以下のようになります。
ステージA:危険因子である生活習慣病などを有している段階
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ステージB:心不全の要因となる何らかの心疾患をきたしているが、症状(心不全症候)が現れていない段階
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ステージC:心不全の症状が現れた段階
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ステージD:心不全発作を繰り返し、治療が難しい段階
「心不全」を自覚するタイミングは、急性心不全として症状が現れるステージCの段階であることが多いでしょう。ところが、ステージCまで心不全が進行してしまうと、ステージAやBの状態に戻ることはまずありません。また、ステージC以上の段階にある方は、1年以内に16%が死亡し、35%は再入院しているという報告もあります1)。
1)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」
ステージA・Bの期間をできる限り延長し、ステージC・Dの期間を短くできれば、心不全患者さんの生涯における生活の質(Quality of Life:QOL)を向上させることができると考えられます。
急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年度改定版によると、心不全の発症予防および進行抑制のために、以下のような対策が推奨されています。
高血圧治療は心不全の発症を抑制することが明らかにされています。具体的な治療法としては、減塩を中心とした食生活の改善を中心に、必要に応じて降圧薬を投与します。
高血圧は、心不全を含めた循環器疾患全般の要因として深く関与していることが知られています。そのため、高血圧を治療することは、あらゆる循環器疾患を予防するために非常に大切なことです。
冠動脈の病気を持つ方には、薬物治療で病気をコントロールすることで、心不全の進行を抑えることが大切です。高血圧治療と同様、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬などを用いた治療を行います。また、心筋梗塞を発症した患者さんには、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を用いた治療が推奨されています。
肥満、喫煙、糖尿病は脳卒中や心疾患を発症するリスクを増大することで知られています。過去の研究2)によると、糖尿病は循環器疾患への影響が極めて高く、なおかつ患者さんの数も増加傾向にあるため、糖尿病の治療は心疾患の予防のためにも重要です。禁煙、節酒、運動などによって生活習慣を改善し、減量や血糖コントロールを目指します。
2)NIPPON DATA80、久山町研究
心不全症候(心不全によって生じる身体的変化および症状)が現れる前段階の心不全を診断するために、一般的には以下の項目について検査します。
とはいえ、診断の基本は問診と診察です。私の場合は、患者さんが待合室の椅子から立ち上がって歩き、診察室の椅子に座るところまでを、特に意識的に観察します。その患者さんがまっすぐ歩けているか、座ったときに心拍数を測って脈が上昇していないか、息切れをしていないか、肩で息をしていないか、頻脈になっていないかなどを注意深く診ることで、心臓の異常を発見できることがあるからです。
心不全特有の初期症状は、むくみや息切れ、急激な体重の増加などです。こうした異変に自ら気付くことができれば、心不全が重症化する前に治療を開始できる可能性があります。
以下の10項目のうちいくつか当てはまる場合は、かかりつけ医の受診を推奨します。
日本循環器学会では、これらのチェック項目をまとめた「心不全セルフチェックシート」の活用を推進しています。
日本循環器学会における広報活動への取り組みについては、記事3『日本人の健康寿命を延ばすための「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」』で詳細にお話しします。
繰り返しになりますが、心不全のステージAまたはBである方は、自分の血糖、血圧、コレステロール、リスク因子などについて正しく知り、自分が心不全のどの段階にいるのかを把握することが、進行を防ぐうえで非常に大切になります。心不全などの循環器疾患は、治療法がガイドラインで定められているものも多く、心不全の発症リスクを保持している段階で対策を行えば、治療が困難なほど重症化するリスクを抑えることが期待できるでしょう。ステージC以上の段階に進まないように対策を行い、心不全の発症を食い止めましょう。
また、ステージC以上に進行している方は、自分が心不全であるという現状を正しく認識し、しっかりと治療に向き合っていただきたいです。適切な治療を受ければ、心不全の進行を可能な限り遅くすることができます。
どの段階においても、自分の体としっかり向き合って自分自身のことを知り、適切な治療を継続して受けることが何よりも大切です。ぜひ、主治医と一緒に、前向きに予防や治療に取り組んでいただきたいと考えます。
国際医療福祉大学 大学院医学研究科(循環器内科学)教授、国際医療福祉大学 福岡薬学部 教授、医療法人社団 高邦会 高木病院 院長補佐、高血圧・心不全センター外来担当
心不全・高血圧治療におけるオピニオンリーダー
九州大学医学部を卒業後、同大学循環器内科学に入局。九州大学循環器病未来医療研究センター部門長を経て、現在は国際医療福祉大学大学院医学研究科(循環器内科学)および福岡薬学部にて教授を務める。循環器内科、特に高血圧や心不全を専門とし、国内ならびに国際学会で評議員やフェローを務め、ガイドライン作成や委員会活動に携わっている。多臓器連関循環動態恒常性維持システムを脳機能から紐解く研究も行っている。
岸 拓弥 先生の所属医療機関
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