慢性腎臓病とは、“腎臓の障害”と“腎臓の機能低下”のいずれか、または両方が3か月以上続いている場合に診断される病気のことです。生活習慣や加齢が関係していることから、治療では生活習慣の改善や食事療法、薬物療法などを総合的に行う必要があります。中でも特に重要といえるのが食事療法です。
本記事では、慢性腎臓病の食事療法の重要性や制限が必要な栄養素などについて解説します。
まず、慢性腎臓病と食事の関係性について理解しましょう。
腎臓には約100万個の糸球体(毛細血管の球形の塊)があり、水分や塩分、老廃物などは糸球体でろ過され、尿として排泄されます。しかし、腎臓の機能が低下するとこのはたらきが弱くなり、健康なときに腎臓によって排出されていた塩分タンパク質から出る老廃物などが処理されにくくなり、食事の内容によっては腎臓に負担をかけてしまうことになるのです。
このため、慢性腎臓病では腎臓に負担をかけるような特定の栄養素を制限し、腎臓に負担をかけない食事を徹底する食事療法を行うことが重要です。これによって、ある程度は腎機能低下の進行を抑えることができるといわれています。
慢性腎臓病の人が食事の際に気を付けるべき主な栄養素が、タンパク質、塩分、カリウムです。これらの摂取量が多いと腎臓に負担がかかるため、摂取量を制限する必要があります。
必要以上にタンパク質を摂取することが腎臓の機能を悪化させると考えられています。これはタンパク質を摂取することで老廃物が作り出され、それを処理する腎臓に負担がかかるためです。したがって、基本的に慢性腎臓病ではタンパク質を制限することが望ましいとされています。
一方で、高齢者、特にサルコペニアやフレイルを合併している場合は、過度なタンパク質制限を行うことがサルコペニアやフレイルの悪化につながることもあるため、個々の状態やリスクなどに応じた食事管理を行う必要があると考えられています。また、植物性タンパク質は腎臓機能の低下を抑えるという新しい研究報告もあり、いまだ慢性腎臓病の食事などに関するさまざまな研究が行われています。
一般的に、慢性腎臓病の人では標準体重あたり0.6~0.7g/日にすることが推奨されています。標準体重が60kgの場合には36~42gとなり、普段の生活では80gほど摂取していることが多いため、普段の半分程度に抑えるようにします。また、タンパク質は良質なものを取るように心がけましょう。
なお、タンパク質はほとんどの食品に含まれ、ごはんやパン、麺、肉、魚、卵など、主食となる食品に多く含まれています。そのため、主食を少なくしてバランスのよい食事を心がけることが大切です。
塩分を取りすぎると腎臓に大きな負担がかかるほか、機能が低下している状態ではうまく塩分を排泄できず体内にたまってしまい、高血圧をもたらします。心不全や肺水腫などの原因にもなるため、慢性腎臓病の人は塩分制限が必要となります。
塩分の摂取量は1日6g以下にすることが推奨されています。食塩は調味料としてだけでなく、さまざまな食品に含まれているため、食品に表示されている栄養成分表示から食塩量を調べる習慣をつけることが大切です。ナトリウム表記のものもあるため、食塩量に換算する方法を覚え、減塩に努めるようにしましょう。
カリウムは電解質の1つで、腎機能が低下するとカリウムの排泄も減少し、体の中にたまって高カリウム血症という状態になってしまいます。そのため、カリウムの制限も必要です。
血清カリウム値が5.5mEq/L以下になるよう、カリウム摂取量を1,500mg/日以下に制限します。カリウムが多い食品として、果物ではバナナ、野菜類ではイモ類、肉・魚全般、麺、牛乳、トマトジュース、野菜ジュースなどが挙げられます。
このようなカリウムの多い食品を控えつつ、野菜やイモ類などは調理のときに水にさらしたり、大量の水でゆでたりしましょう。こうすることで食品中に含まれるカリウム量を約2割減らすことができるといわれています。
このように慢性腎臓病の人はさまざまな栄養素の摂取量を制限する必要がありますが、量を減らすことだけを考えて食事を取るのはよくありません。
たとえば、タンパク質を制限するとその分の摂取カロリーが減少します。筋肉はタンパク質であるため、カロリー不足になると自分自身の筋肉を壊してエネルギーを作り出し、摂取量を制限しているにもかかわらず、むしろ窒素代謝物が増加して腎臓に大きな負担をかけます。これを回避するために、カロリーは糖質と脂質で補います。したがって、タンパク質の摂取量は徐々に減らしていくとともに、バランスのよい食事を心がけることが大切なのです。水分においては、尿の排泄障害がなければ健康な人と同様に自然の渇感(喉が渇いている感じ)にまかせて摂取します。
なお、食事内容は病気の進行度や性別、年齢、生活状況などによって異なるため、医師や栄養士のアドバイスのもと、自分にあった食事をするようにしましょう。
腎機能低下の進行を抑えるためには、生活習慣の改善や食事療法、薬物療法などを総合的に行う必要がありますが、中でも食事療法は重要で、患者さん自身が食事制限をしっかりと守ることが治療につながります。
制限が必要な主な栄養素として、タンパク質、塩分、カリウムが挙げられますが、人によってはそのほかの栄養素の制限が必要になる場合があります。また、人によって制限量が異なるほか、間違った食事制限は病状の悪化につながる場合があるため、食事療法について不明なことがあれば医師や栄養士に相談するようにしましょう。
イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
日本内科学会 認定内科医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本医師会 認定産業医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
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