どくじゃこうしょう

毒蛇咬傷

目次

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概要

毒蛇咬傷(どくじゃこうしょう)とは、毒を持つヘビに咬まれることで起こる、局所的な腫れや全身症状などを指します。重症の場合、急性腎不全やDIC※などを起こし、死亡することもあります。
※DICとは:血管内で無秩序に血液が固まる凝固反応が起こる病態

ヘビには有毒のものと無毒のものがおり、ヘビの毒性によって咬まれたヒトに現れる症状や重症度は異なります。

日本国内では、琉球列島以外の全土に生息するマムシによる受傷(マムシ咬傷)が、代表的な毒蛇咬傷として知られています。日本におけるマムシ咬傷の年間発生件数は、1,000~3,000件ともいわれており、年間死亡者数は毎年10人ほどと考えられています。

日本に生息する有毒ヘビとしては、マムシのほか、ヤマカガシやハブが挙げられます。生息地域では、これらのヘビに咬まれる事故も報告されています。有毒ヘビに咬まれたときには、毒が全身へと回らないよう、走らずに安静を保ったうえで、迅速に医療機関を受診することが大切です。
 

原因

毒液や毒性の唾液分泌物を持つヘビに咬まれることにより、さまざまな症状が生じます。以下は、日本に生息する代表的な毒ヘビとその毒性です。

マムシ

マムシは琉球列島を除く日本全土に生息しており、春から秋に多くみられます。上顎の先端に2本の長い毒牙を持っており、この牙で咬まれることによりマムシ毒が注入されます。マムシ毒の出血作用には、2種類の出血因子(HR-1、HR-2)が関与していると考えられています。

また、マムシ毒に含まれるプロテアーゼなど、多数の酵素が血管透過性の亢進や、局所の壊死、出血やDICの原因になっていると考えられています。なお、マムシ咬傷により腎不全に至ることがある理由は、マムシ毒に含まれる酵素による直接的なものなのか、あるいは血管透過性亢進やDICの結果として生じるものなのか、2017年時点ではわかっていません。

ヤマカガシ

ヤマカガシは、本州、九州、四国に分布します。平地から山地まで広く生息しており、特に水田の周辺にみられます。ヤマカガシの攻撃性は少なく、ヒトが近づくだけで咬むことはほとんどありません。そのため、多くのヤマカガシ咬傷は、捕獲しようとしたときに起こっているといわれています。

ヤマカガシはマムシのような毒牙を持っておらず、上顎奥に位置する牙の根部にある毒腺(ドゥベルノイ腺)の開口部から毒を分泌します。そのため、ヤマカガシに深く咬まれて皮膚を傷つけられた際に、中毒症状が生じます。前歯で軽く咬まれた場合は、無症状か軽症で終わるため、過去には無毒ヘビだと考えられていた時代もありました。

ヤマカガシは、ドゥベルノイ腺のほか、後頸部にも毒腺を持っており(頸腺)、攻撃されると頸腺から毒液を飛ばすことがあります。ヤマカガシを棒で叩くなどし、飛んだ毒液が目に入ったという例も報告されています。ヤマカガシの毒性は、ハブやマムシの毒性よりも数倍強いことが知られています。

ハブ

ハブは、奄美諸島と沖縄諸島の島々のうち22島に生息しており、主に4~11月に活動します。マムシと同じように、上顎の先端に2本の長い毒牙を持ち、この牙で咬むことにより毒液を注入します。

ハブ毒は、筋組織を融解・壊死させる作用や、出血作用を持っています。ハブは攻撃性が強く、屋内に侵入することや、木の上にいることもあるため、注意が必要です。
 

症状

マムシ咬傷の症状

マムシに咬まれた部分は腫れ、次に挙げる症状を呈します。

  • 発赤や紅斑(赤くなること)
  • 焼けるような激しい痛み など

注入されたマムシ毒の量によっては、浮腫(ふしゅ)(むくみ)や出血性の水疱が形成されることがあります。

全身症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 異常精神状態:恐怖のため興奮状態となり、見当識障害(自分が今どこにいるのかわからなくなること)などが起こることがある
  • 脱力感
  • 悪心(おしん)や嘔吐
  • 低血圧
  • 味覚異常 など
  • 重症例では、以下の症状がみられることがあります。
  • ショック
  • 呼吸困難
  • DIC(播種性血管内凝固症候群):本来出血した部分で起こる血液の凝固が、血管内で無秩序に起こる病態です。全身のさまざまな血管内で血栓が形成されることがあります。
  • 急性腎不全
  • 筋壊死
  • 多臓器不全
  • 横紋筋融解症:骨格筋細胞から、ミオグロビンなどが細胞外へと流出してしまうことです。
  • 神経障害 など

血液の凝固異常により、出血や吐血、下血や血尿が認められることもあります。また、視力低下や霧視、複視が起こることもあります。

ヤマカガシ咬傷の症状

以下のような初期症状がみられます。

  • 出血
  • 頭痛:必発する症状ではありません。
  • 軽度の腫脹(腫れ)
  • 軽度の痛み など

咬まれてからある程度の時間が経過すると、以下のような出血傾向がみられます。

  • 歯肉出血
  • 鼻出血
  • 眼底出血
  • 吐血
  • 血尿
  • 皮下出血
  • 血小板減少
  • 脳内出血 など

このほか、悪心(おしん)や嘔吐、血便、発熱や手足の痛みがみられることがあります。ヘビに咬まれた恐怖により、興奮状態となり、めまいや過呼吸、見当識障害などを起こすこともあります。また、DICや急性腎不全に移行することもあります。

ヤマカガシの毒が目に入った場合は、刺激や結膜浮腫、充血や視力障害といった症状が現れることもあります。なお、ヤマカガシの毒は、マムシ毒やハブ毒のように、局所的な筋組織の壊死は起こさないことが知られています。

ハブ咬傷

  • 咬まれた直後から、激しい痛みや牙痕からの出血、腫脹が現れます。このほか、以下のような症状がみられます。
  • 皮下出血
  • 水疱が形成される
  • リンパ節が腫れる
  • 頻脈:脈拍数が早くなること
  • チアノーゼ:皮膚や粘膜が青紫色になること
  • 血圧低下
  • (重症例)体液が減少することによるショック
  • 発熱
  • 胸内苦悶(きょうないくもん):胸部の圧迫感や窒息感などの違和感
  • 手や足が冷たくなる
  • 発汗
  • 脱力感
  • 意識の混濁 など

このほか、腫れた部分の筋組織が壊死することがあります。毒液が目に入った場合、強い刺激を感じることや、結膜炎・角膜炎が引き起こされることがあります。なお、過去にハブ咬傷の既往(ハブに咬まれた経験)がある場合、アナフィラキシーショックを起こすリスクがあります。
 

検査・診断

有毒ヘビに咬まれた場合、全身に毒が回らないよう、走ることなくできるだけ安静を保ちながら、迅速に医療機関を受診することが大切です。問診時には、咬まれた時間や状況を具体的に説明することが、適切な診断と治療の補助になります。

医療機関では、ヘビを特定し、重症度を判定するために、以下の所見(牙痕(がこん)の数)などを確認します。

マムシ咬傷の場合

牙の痕の数が重要な所見となります。マムシ咬傷の牙痕は1~4か所、通常は2か所です。これ以上の場合は、一般的にはマムシに咬まれた痕ではないと考えられます。

ヤマカガシ咬傷の場合

上顎の奥に位置する牙で咬まれた場合、ナイフで切り裂かれたような傷ができます。

ハブ咬傷の場合

通常、牙痕は2か所ですが、数回咬まれ、牙痕が3か所以上となることもあります。腫脹(腫れ)や痛みの有無を確認します。マムシ咬傷やハブ咬傷が疑われ、咬まれてから一定の時間以上経っても痛みや腫れが現れない場合は、無毒ヘビに咬まれた可能性や、毒液が注入されなかった可能性が考えられます。

このほか、尿検査や血液検査などを行い、ヘビの毒による腫脹の有無や程度、筋組織の壊死が起こっていないかどうかを確認します。
 

治療

ヘビに咬まれたときには、患部の腕や足をなるべく動かさないようして、すみやかに医療機関を受診しましょう。水がある場合は、咬まれた部分を流水で洗浄します。また腫れている場合は、その範囲にマーキングをして腫れの進行がわかるようにします。
毒を出す目的でご自身で患部を切開することは、感染症などを引き起こす危険性があるため避けたほうがよいとされます。

咬んだヘビが既に死んでいる場合には、写真などを撮影しておくと、医療機関でヘビの種類を見極めるために役立ちます。特にヘビの目のかたちなどがわかるものが有用です。ただし、危険をおかしてまでヘビの外見がわかる写真などを用意する必要はありません。

医療機関における治療は下記になります。

  • 駆血や消毒液を使った洗浄、切開や吸引などにより、毒が吸収されることを阻止します。
  • 輸液療法:浮腫により脱水が起こることがあるため、重要な治療とされます。
  • 抗毒素血清の投与:咬まれたヘビの種類に対応した抗毒素血清(抗マムシ血清やハブ抗毒血清など)を投与します。血清投与によるアレルギー反応を予防する目的で、ステロイドや抗ヒスタミン剤が用いられることもあります。

また、状況に応じて、このほかの薬剤投与を選択することもあります。

  • 感染予防:抗菌薬や破傷風を予防する薬を投与します。など

顕著な腫脹が起こっており、知覚障害や運動障害、末梢循環障害が現れているときには、筋組織の壊死を防ぐために減張切開※を行なうことがあります。
※圧を下げることを目的とした、皮膚や皮下組織などの切開

このほか、呼吸循環の管理や、生じている症状に応じた対症療法が行われます。