骨髄中の幹細胞が肝臓の細胞に分化することが発見された後(アメリカで発表された)、寺井 崇二先生が当時所属していた山口大学医学部附属病院では研究を進め、その作用を利用して、2003年11月より自己骨髄細胞投与療法を開始しました。最初は肝硬変患者さん自身の骨髄液から骨髄細胞を投与するというものでしたが、2020年現在、ほかの方からの(他家)脂肪由来の間葉系幹細胞を患者さんに投与するという研究が進められています。
今回は、寺井先生に自己骨髄細胞投与療法の方法や効果、治験が行われている他家の間葉系幹細胞の移植についてお話を伺いました。
私が2015年まで勤務していた山口大学医学部附属病院では、2003年11月に自己骨髄細胞投与療法を実施しました。
自己骨髄細胞投与療法では、まず患者さんに全身麻酔をかけます。その後、腰から400mlの骨髄液を採取します。そして、必要な細胞だけが含まれる骨髄液にするため洗浄を行い、患者さんの体内へ戻すという流れです。この治療法は1日かけて行われます。当時、肝硬変の患者さんから骨髄液を採取するというのは世界初の試みでした。
自己骨髄細胞投与療法の結果、患者さんのアルブミン値は上昇しました。アルブミンは肝臓で作られるたんぱく質のため、アルブミン値が上昇したということは肝機能が改善されているということです。また、黄疸や脳症といった症状も改善傾向にあり、線維化により表面がでこぼこしていた肝臓も滑らかになりました。
2003年から、私は山口県のほか、山形県、沖縄県、国外では韓国などのあらゆる土地で自己骨髄細胞投与療法を行いました。そして、数々の患者さんの臨床研究をもとに分かったことは、肝硬変の治療において線維化を改善させることは、肝臓の再生力向上につながるということです。また、長期的に結果を見てもさまざまな値が改善していることが分かりました。
肝硬変に対する自己骨髄細胞投与療法は効果が認められている治療法です。しかし、患者さんから約400mlの骨髄液を採取するには、全身麻酔をかける必要があります。全身麻酔は患者さんへの負担が大きいため、肝硬変の患者さんの中でもビリルビン*値が低く全身麻酔に耐えられる方だけが対象でした。そのため、多くの患者さんに対して治療を断らざるをえないような状況でした。
*ビリルビン:ヘモグロビンから作られる、血中の黄色い色素。
そこで山口大学医学部附属病院では、より多くの患者さんに自己骨髄細胞投与療法を行うために、培養自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法を研究し開発しました。これは採取する骨髄液を減らし、培養して骨髄間葉系幹細胞を増加させてから患者さんに戻す治療法です。
骨髄液の採取量を以前までの約400mlから、約30mlまで減らすことで、全身麻酔ではなく局所麻酔で対応できるようになります。局所麻酔により患者さんへの負担を軽減させることで、今までは治療対象外になってしまっていたビリルビン値の高い患者さんでも培養自己骨髄細胞投与療法を受けることができるようになりました。
培養自己骨髄細胞を用いた肝臓再生療法では、患者さんから採取した骨髄液を約3週間培養して、肝線維化改善作用を持つ間葉系幹細胞を増加させます。そして、培養された細胞の品質や安全性をしっかりと評価したうえで、患者さんの末梢静脈より点滴で投与します。
培養して間葉系幹細胞の数を増やすことで、骨髄液の量が少なくても治療効果が期待できます。
私は、山口大学から現在所属している新潟大学に2015年に赴任してきた際、自己骨髄細胞投与療法の治療メカニズムを探る研究を始めました。現在は、間葉系幹細胞が指揮細胞としてエクソソームの分泌を介して実働細胞としてのマクロファージ*を抗炎症型にし、肝線維化改善、肝再生を誘導し肝機能回復効果を発揮するということなど、さまざまなメカニズムが解明されつつあります(2020年11月時点)。
今後は新しい技術を採用しながら、さらに間葉系幹細胞が肝機能を改善させるメカニズムについて研究を進めていきます。
*マクロファージ:体内に侵入した細菌、死んだ細胞などを消化する作用を持っている白血球の中の単球から分化した細胞。
今までは自己の細胞由来の再生治療でしたが、より多くの患者さんの救命には、自己ではない細胞を使用した肝臓再生療法の開発が必要です。新潟大学でも、2017年から企業と共同し、患者さん自身の細胞ではなく、ほかの方の細胞を使用した肝臓の再生治療の臨床治験をスタートしました。私は、新潟大学に赴任してきてから約2年半、ほとんどこの治験の準備に力を注いでいました。
私たちは美容整形などで余った脂肪組織から、脂肪組織由来の間葉系幹細胞を大学などで採取し、製剤化するという治験実施に向けた研究を進めています。
脂肪組織由来の間葉系幹細胞は、骨髄の間葉系幹細胞と多少作用が異なります。しかし、研究の結果、肝臓の線維化が改善されるということが分かっています。また、今後患者数が増加することが予想される脂肪肝炎由来の肝硬変の治療にも効果があります。(肝硬変の種類や症状は、前ページをご参照ください。)
この研究の治験は日本初のもので、新潟大学医歯学総合病院で2017年7月から行われました。
私たちが2017年より企業と共同で行っている肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤の臨床治験は、第1相臨床試験における安全性の評価が終わりました。第1相臨床試験で明らかになったのは、肝硬変の患者さんに対して免疫抑制剤を使用することなく細胞の全身投与が可能であるということです。これは日本で初めての全身投与の症例だったので、極めて重要なことが明らかになったといえるでしょう。この結果を経て、無事に第2相臨床試験に進むことができました。これまでは1回の投与だったのですが、2020年からは頻回投与することで、より効果が期待できるかどうか検証していきたいと考えています。
新潟大学 大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野 教授
新潟大学 大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野 教授
日本消化器病学会 財団評議員・消化器病専門医・消化器病指導医日本消化器内視鏡学会 社団評議員・消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本肝臓学会 理事・評議員(代議員)・肝臓専門医・肝臓指導医日本内科学会 評議員・認定医日本肥満学会 評議員・肥満症専門医・肥満症指導医日本再生医療学会 常務理事・代議員・再生医療認定医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本消化管学会 胃腸科専門医・胃腸科指導医International Society for Cell & Gene Therapy(ISCT) International Exosome committee・Gastrointestinal committee日本高齢消化器病学会 理事日本肝癌研究会 幹事日本肝がん分子標的治療研究会 世話人
2003年11月非代償性肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法を世界で初めて実施(臨床研究 PhaseI)。
2015年新潟大学赴任後は、肝硬変症に対する他家脂肪組織由来間葉系幹細胞投与の企業治験(PhaseI,II)、医師主導治験(PhaseII)、再生誘導医薬品レダセムチドの医師主導治験(PhaseII)を実施、現在解析中。
また、細胞外小胞(エクソソーム)を用いた診断や治療法についての実用化に向けた開発のほか、現状治療法が確定していない病気や診断のつきにくい病気に取り組んでいる。
2024年4月には日本再生医療学会”細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス”を座長として作成し、公開された。
寺井 崇二 先生の所属医療機関
関連の医療相談が22件あります
肝硬変の非代償期について
約2年前にアルコール性肝硬変と診断され投薬治療していましたが、食道静脈瘤、胃静脈瘤、門脈亢進症の合併症が出て、5月にそれぞれ硬化療法と脾動脈塞栓術を受けました。 この状態は非代償期に入っているのでしょうか? チャイルドピュースコアは中期に差し掛かっているくらいのスコアでした。
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余命1年か、アルコールをやめても2年くらいと診断されました。大学病院の肝臓専門医ですが、診察態度がとても悪い!本当に余命1年なのか、どうしたらはっきりするでしょうか。
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