DOCTOR’S
STORIES
角膜の再生医療の研究で患者さんに貢献する西田幸二先生のストーリー
私が医学部の学生だった頃、大学医局は2020年1月現在のような臨床研修制度ではなく、卒業後すぐに各診療科に所属する、いわゆる直入局の時代でした。実は、当時の私は研究に対する興味がそれほどなく、どちらかといえば手術を中心とする臨床医になりたいと思っていました。
入局先を探すにあたり、“ポリクリ”といわれる在学中の臨床実習でさまざまな外科手術を見せてもらったのですが、がんなどの“悪い部分を切り取る”手術にはそれほど面白みを感じませんでした。そういった手術よりも、患者さんに本来備わっていた機能を再建する手術に面白さを感じました。なかでも特に興味を持ったのが、目の手術です。目の手術は顕微鏡下で行う術式のmicrosurgeryが美しいと思いましたし、こういった手術を専門にしたいという気持ちが芽生えました。
私はこのようにして、眼科医を志したのです。
眼科医となった後も、手術中心で眼科医療に携わりたいという気持ちに変わりはありませんでした。そんな私が研究に取り組むきっかけとなったのは、当時の国立大阪病院(現・国立病院機構大阪医療センター)の部長であった故・
田野先生は網膜硝子体疾患の手術を専門とした眼科医であり、私自身も非常に尊敬する先生でしたから、「田野先生がそうおっしゃるなら」と、まずは先輩の先生の手伝いという形で研究に携わることになりました。その結果、研究は非常に楽しいということに身をもって気づき、そこから研究にハマっていったのです。
田野先生の一言がなければ私は今でも研究をしていなかったかもしれません。私にとってはまさに恩師と呼べる方です。
1980年代に、角膜上皮の幹細胞が角膜の周辺部に存在していることを示した論文が『Cell』という生命科学分野の学術雑誌で発表されました。この論文により、角膜移植の対象疾患であり原因不明とされていた、角膜上皮幹細胞疲弊症の病態が明らかになりました。そのような学術的な背景から、角膜上皮の研究は当時の眼科領域の医師の中でもホットトピックだったことをよく覚えています。
その当時、私は角膜移植を専門とする眼科医として、角膜疾患の患者さんに対する診療や研究に励んでいました。同時に、角膜移植に伴う拒絶反応といった問題に直面している時期でもあったため、自然と“角膜と幹細胞の研究”に強く惹かれていったのです。
そこで私は、1998年にアメリカのカリフォルニア州にあるソーク研究所へ留学し、フレッド・ゲージ先生のもとで幹細胞の研究に従事しました。現地では、神経幹細胞の研究や遺伝子治療の研究に携わらせてもらったのですが、ソーク研究所で行った幹細胞や再生医療の研究は、自分の想像以上に面白いものでした。この留学が、もともと抱いていた再生医療への興味をより強くする結果となりました。
2000年に日本に帰国した後は、角膜の再生医療に精力的に取り組みました。それから大学でさらなる研究を重ね、2004年に“自己口腔粘膜培養上皮シート移植による角膜の再生医療”を開発し、2016年に“ヒトiPS細胞を用いた角膜再生治療法”(SEAM法)を見いだしました。2020年1月現在は、それらの実用化に向けて臨床研究を行っているところです。
実用化を目指すにあたり、私は以下の2点を意識しています。
1つ目は、角膜の再生医療を世界に広げたいという思いです。
もともと私のなかで、再生医療の実用化を目指すということは、特定の限られた機関や施設にとどまらず、全世界で一般的に用いられることを目標とするという意味です。角膜の病気で困っている患者さんは日本に限らず、世界中にいらっしゃいます。そういった方々の治療に広く役立てる技術にしなければ意味がありません。だからこそ、角膜の再生医療を世界中に広げていけるようにしたいのです。
私は、臨床研究や医療技術を実用化するためには、強固な基礎研究が前提にあると考えています。先に述べた“SEAМ(2次元組織体)”という構造体の研究も、実はオルガノイド研究という基礎研究の一種に該当します。基礎研究を積み重ね、そこから生み出すことができたヒトiPS細胞由来角膜上皮組織という成果物だからこそ、角膜疾患の治療に役立つと自信を持って述べることができます。
基礎研究の成果が強固なものでなければ、患者さんにその治療技術を提供する際に不安が残り、実行することが難しくなってしまいます。強固な基礎研究の重要性はそこにあるのです。
基礎研究は、研究そのものが直接的に社会へ応用できるとは想定されていない場合が多いです。また、実際私もそうだったのですが、基礎研究を行う医師も、最初から社会に応用できるものを開発しようと思って基礎研究をしているわけではありません。ただ、いろいろな基礎研究を行ううちに、さらに疑問が湧いてきて、「この疑問を解明したい」という純粋な思いが芽生えます。その思いが、基礎研究をより強固なものにしていきます。そしてそこから得られる成果が、やがて社会や医療に実装されていくようになるのです。
だからこそ私はこれからも、基礎研究を行う医師として、「医学研究を実用化するためには、基礎研究が非常に重要である」ということを社会に伝えていきたいと思います。
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大阪大学医学部附属病院
大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 未来医療学寄附講座特任教授、大阪警察病院 院長、日本胸部外科学会 理事長、大阪府医師会 副会長
澤 芳樹 先生
大阪大学大学院 医学系研究科 皮膚科学 教授
藤本 学 先生
大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学
柏木 浩和 先生
大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科 教授
宮川 繁 先生
大阪警察病院 血管内治療センター センター長、大阪大学大学院医学系研究科 低侵襲循環器医療学 特任教授
倉谷 徹 先生
大阪大学医学部附属病院 消化器外科 講師
植村 守 先生
大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科 特任准教授
山内 孝 先生
大阪大学医学部附属病院 皮膚科 特任講師(常勤)
植田 郁子 先生
大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科学 准教授
島村 和男 先生
大阪大学医学部附属病院 脳神経外科 特任教授、大阪大学大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座 特任教授
平田 雅之 先生
大阪大学 大学院医学研究科 内科系臨床医学専攻 血液・腫瘍内科学 招聘教授
西村 純一 先生
大阪大学 大学院医学系研究科 感染制御医学講座(感染制御学) 教授
忽那 賢志 先生
大阪大学大学院・医学系研究科 精神医学教室
池田 学 先生
大阪大学 大学院医学系研究科 消化器内科学 教授、医学博士
竹原 徹郎 先生
菅野 伸彦 先生
大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学 教授
猪阪 善隆 先生
大阪大学医学部医学系研究科 外科学講座消化器外科学 教授、病院長
土岐 祐一郎 先生
大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学小児科学講座 教授
大薗 恵一 先生
大阪大学大学院 医学系研究科神経内科学 教授
望月 秀樹 先生
大阪大学医学部附属病院 皮膚科 診療科長、大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学皮膚科教室 教授
片山 一朗 先生
大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 教授、日本産科婦人科学会 理事長
木村 正 先生
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 成育小児科学 特任教授
酒井 規夫 先生
大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 教授、大阪大学医学部附属病院 副病院長
坂田 泰史 先生
大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学 教授
熊ノ郷 淳 先生
大阪大学大学院 医学系研究科 内分泌・代謝内科学 講師
片上 直人 先生
大阪大学医学部附属病院 特任助教
和田 範子 先生
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