東京都立小児総合医療センターは、2010年に東京都府中市に開設された小児専門の病院です。561床の規模と39の診療科を備え、急性期から慢性期まで幅広い病気に対応しています。
少子化という問題も抱えながら、東京都の小児医療の拠点としてどのような取り組みを行っているのか、院長である廣部 誠一先生に今後の課題なども踏まえてお話を伺いました。
当センターは、多摩地区を中心に小児医療を行っている病院です。救急車による搬送数は年間3,000件を超え、小児特定集中治療室への入院も約700名にのぼります(2022年時点)。
小児がんなどの専門の医療も充実しているほか、臨床研究や治験も他院と協力しながら行っています。小児を専門とする病院として地域を支えるだけでなく、小児医療において全国をリードする存在です。
当センターは、さまざまな小児医療の拠点病院として、その機能を発揮しています。
当センターは小児がん拠点病院になっており、血液・腫瘍科や外科、脳神経外科などを中心にがん診療を行っています。行っている治療は、化学療法や造血幹細胞移植がメインです。必要に応じてほかの診療科と密に連携しながら、診療を進めています。
特に小児がんの中で多いのが、白血病です。近年では治療成績が非常によくなり、患者さんの約80%が治療を終えて日常生活に戻っています。
当センターの救命救急科は、小児専門の救急部門として、外傷や緊急を要する病気などに、各診療科と連携しながら対応をしています。
集中治療科と共同でドクターカーも運用しています。これにより、より早期の対応が可能となりました。今後は、災害医療や海外医療協力、蘇生に関する院内教育なども視野に入れて活動しています。
当センターは、「東京都子供の心診療支援拠点病院」となっており、児童・思春期精神科で診療を行っています。対象としている病気・症状は幅広く、発達障害や強迫性障害、引きこもり、うつ病や統合失調症などさまざまです。今後より低年齢化、重症化に対応した入院患者に対応していきます。
治療に関わる職種は、医師や看護師のほか、心理専門職やソーシャルワーカーなど多岐にわたります。医師による診察と薬の処方はもちろん、集団精神療法や作業療法などを行いながら、日常生活へ戻れるようにサポートを行っています。
長い療養期間において、重要なのは療養環境の質であると考えられます。そのため、当センターでは療養環境づくりに非常に配慮しています。たとえば、学業が継続できるように院内に学校を備えています。各病棟には保育士も在籍していますし、入院している子どもたちを笑顔にするため、病院で働くために専門的なトレーニングを受けたファシリティドッグ“アイビー”が活躍しています。
ご家族向けには、いつでも付き添いができるように対応しています。ご家族のためのシャワールームなどを備えたリフレッシュルームや、お子さんと一緒に泊まれるマクドナルドハウスも利用可能です。また、面会をしているあいだに、ごきょうだいをお預かりするキッズルームも備えています。
移行期医療とは、小児期発症の慢性疾患を持つ患者が小児期医療から個々の患者さんに相応しい成人期医療への移り変わりに対して提供されるべき適切で良質な医療のことを指します。
当センターでは、小児期発症の慢性疾患を持つ患者さんが、本来持てる能力や機能を最大限に発揮でき、その人らしい生活を送れるように、移行支援プログラムに沿って成人移行支援(自立支援・転科支援)を行っています。
診療場面では、“家族―医師”の家族中心の医療から“患者―医師”の患者中心の医療に移行し、患者さんが主体となって治療・療養に参加できるように、患者さんとの対話を大切にしています。また、自分の健康を守るために必要な情報を収集し活用する能力を高め、生活上の制限や注意事項を守りながら日常生活を自己管理できるように支援しています。さらに、患者さん・ご家族の心理的サポートや、医療福祉に関する相談、転院時のサポートなども多職種(医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、心理士など)で連携しながら行っています。
現在は、血液・腫瘍科、循環器科、腎臓・リウマチ膠原病科、内分泌・代謝科、消化器科、アレルギー科、神経内科、呼吸器科、外科、臨床遺伝科、脳神経外科、泌尿器科、総合診療科の13診療科で成人移行支援を実施しています。
2021年2月に東京都福祉保健局の委託を受けて、当センター内に東京都移行期医療支援センターを開設しました。患者さん、ご家族、医療機関からの自立支援、転科支援、就労などに関する相談にも対応しています。医療機関向けの研修を開催するなど、東京都の移行期医療の充実に向けて取り組んでいます。
当センターは、臨床研究や先進医療などを進めていくために、2013年に臨床研究支援センターを立ち上げました。2016年には、東京圏国家戦略特区における「保険外併用療養に関する特例対象医療機関」として認定されており、積極的に研究を行っています。
研究を行うための人材も豊富に在籍しており、データマネジャーや生物統計家が在籍しているほか、臨床研究のコーディネートもできるCRCも育成しました。研究を行う専従医師もいます。
新しい医療や、まだ小児患者さんに適応していない医療のエビデンスをつくることを目指し、取り組んでいます。
また当センターは、未診断の難病を遺伝子から診断するIRUDのクリニカルセンターのモデル事業も2015年(平成27年)から行っています。慶應義塾大学病院と協力し、原因の分からない病気の解明にも取り組んでいます。
今後、社会は少子化が進んできます。それにどのように対応するか、というのが当センターの課題といえるでしょう。
対応策の1つとして考えられるのは、患者さんの集約です。
小児患者さんは、療養環境が整っていないと将来に影響します。たとえば、小児がんの患者さんは通常、感染の影響を避けるために個室にこもっていなくてはなりません。しかし、当センターでは病棟全体に陽圧をかけているため、たとえ白血球が減少した状態でも好きな場所で食事をし、ご家族と自由に面会が可能です。また精神科医(リエゾン医)、心理、ソーシャルワーカー、緩和ケアチーム、感染症対策チーム、栄養サポートチーム(NST)、口腔ケアチームなど多職種でチームを組み積極的に関与しています。
患者さんを支えるご家族に対しても、面会時にごきょうだいを預かるなど、さまざまな配慮をしています。そういった療養環境の整っている病院が責任をもって診療を行うよう、患者さんを集約していかなければと考えています。
もう1つは、対象とする年齢の拡大です。小児は15歳以下とされていますが、小児慢性特定疾病は18歳までを対象としています。たとえば高校生であっても、小児科で診察するなど対象とする年齢層を拡大するべきではないか、と考えています。
小児科と成人診療科では何が違うのかといいますと、患者さんをみる視点です。
成人をあつかう診療科では、ご高齢の患者さんが増えていきます。しかし高校生などは、これから大人になる世代です。そういった年齢層の患者さんたちは、小児科で診療し、教育や就労に関しても配慮する視点をもって接するべきだと考えています。
今後は、そういった集約化や小児科の対象年齢の拡大について、地域の医療機関とのバランスを取りながら進めていきたいと考えています。
東京都立小児総合医療センター 院長、日本小児外科学会 小児外科指導医、慶應義塾大学医学部 客員教授
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