院長インタビュー

“全人医療”を掲げて地域の信頼に応える人吉医療センター

“全人医療”を掲げて地域の信頼に応える人吉医療センター
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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熊本県人吉市にある人吉医療センターは、「地域完結型医療」を目指し、地域の急性期医療を支える中核的な病院です。災害拠点病院としての役割を担い、人吉市と合同の災害訓練を毎年行っている同院の役割や今後ついて、病院長である薬師寺 俊剛(やくしじ としたけ)先生に伺いました。

先方提供
病院外観(人吉医療センターご提供)

人吉医療センターは、2024年で設立146年を迎えました。開院のきっかけは、1877年(明治10年)に起こった西南戦争にさかのぼります。西南戦争では人吉も戦場となり、荒廃した町にコレラが蔓延しました。コレラ撲滅のため県病院人吉支病院が設立され、この地で開業していた医師・西 道庵(にし どうあん)も診療に尽力しました。

コレラの治療が一段落したことで同院は閉鎖となりましたが、地域の方々から存続を望む声が上がり、1878年(明治11年)、人吉・球磨地域の各村からの寄附によって公立人吉病院が開院し、初代院長に西 道庵が就任しました。このときにご寄附いただいた方の名簿は現在も大切に保管されており、1922年(大正11年)の増築に際して寄附をしてくださった方のお名前を刻んだ碑は今も敷地の一角に残されています。

現在の地域医療機能推進機構(JCHO)人吉医療センターとして新たなスタートを切ったのは2014年(平成26年)でした。名称や運営組織の変更を重ねても、“病気だけを診るのではなく、患者さん自身と真摯に向き合ってベストな治療を提供する”という全人医療の理念は、設立当初から変わることはありません。

人吉市は、東洋経済新報社が毎年発表している“住みよさランキング2024”で総合第1位を獲得したことからも分かるとおり、文化財や豊かな自然、温泉などの観光資源に恵まれた穏やかな町です。この地域は鹿児島県や宮崎県との県境も近く交通渋滞も少ないため、熊本市、鹿児島市、宮崎市までいずれも車で1時間程度です。人吉市内、熊本県内、場合によっては隣県とも連携協力して、地域の方々によりよい医療サービスを提供できるよう尽力いたします。当院は地域の方々の善意によって誕生した病院ですから、地域のリーディングホスピタルにならなければという使命を感じています。

当院の整形外科には5名の常勤医師が在籍し、そのうち4名は日本整形外科学会認定整形外科専門医です。得意とする分野は、骨折など外傷に対する手術、変形性関節症やリウマチ性関節症に対する人工関節置換術発育性股関節形成不全(はついくせいこかんせつけいせいふぜん)の骨切り術、脊椎疾患、スポーツ障害に対する治療です。

先方提供
整形外科手術(人吉医療センターご提供)

近年の高齢化によって、変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)のために人工関節への置換手術が必要な患者さんが増えてきました。当院では精度の高い人工関節置換術を実現するため、膝関節・股関節ともにCT-based手術支援ナビゲーションシステムを導入しています。これは熊本県内でもまだ数施設しか設置していない新鋭のシステムです。

一方で高齢者の骨折も非常に多く、年間200例以上の手術を行っています。高齢患者さんの中には循環器などに持病をもつ方も少なくないため、循環器内科をはじめとする他診療科の医師とチームを組んで、より安全な医療を提供できるよう努めています。

当院の年間手術数は約2,200例ですが、そのうちの約950例は整形外科となっています(2023年度実績)。人吉・球磨地域だけではなく、近隣のえびの市、伊佐市、西米良村の医療機関から手術依頼を受けることもあります。当院では対応できないまれな病気に関しては、熊本大学病院整形外科と密に連携して治療にあたっています。

当院の循環器内科に在籍する医師は、全員が日本循環器学会認定 循環器専門医を取得しています。県南中部地域における循環器診療の中心的な役割を担っており、日本循環器学会や日本心血管インターベンション治療学会の研修施設にも指定されています。

循環器内科では狭心症心筋梗塞(しんきんこうそく)などの冠動脈疾患、不整脈心不全、心筋疾患、肺塞栓(はいそくせん)閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)などさまざまな循環器疾患に対して、24時間365日体制で診療を行っています。カテーテル治療室は2室あり、緊急の症例が重なっても対応できる体制を整えています。

2024年4月からは新たに、狭心症に対する衝撃波血管内砕石術(IVL)を開始しました。これは2022年12月に保険適用となった新しい治療方法です。高齢の狭心症患者さんは、血管内にカルシウムが付着して石灰化しているケースがみられます。血管が硬くなっていると、冠動脈の内部にステントを入れて血管を広げる治療では十分な効果を上げることができません。IVLはカテーテルから衝撃波を照射し、石灰化した部分に亀裂を入れて血管を柔らかくするため、ステントによる治療効果を高めることが期待できます。

総合診療科とは、すぐに診断がつかない病変、適切な診療科が分からない病気、複数の診療科にまたがる病気を抱える患者さんに対応する診療科です。患者さんの身体的な問題だけでなく、精神的なサポートも含めてパートナーシップを築き、複数の診療科の医師やスタッフと協力して問題の解決を目指します。総合診療医はまさに、当院の理念である“全人医療”を体現する存在であり、幅広い知識と人間性が求められます。

当院では、日本専門医機構認定 総合診療専門医を育成するための研修プログラムを実施しています。地域のニーズに合った医療を提供する総合診療医を育てるために熊本県全体で取り組み、ほかの地域とも連携してつくり上げた研修プログラムです。今後も地域の方々に安心して暮らしていただけるよう、患者さんに寄り添える医師を1人でも増やすべく取り組んでまいります。

2020年、豪雨によって球磨川が氾濫したことで、人吉・球磨地域は甚大な被害を受けました。当院も献身的に災害診療にあたりましたが、“もっとできることがあったのではないか”という後悔の念があります。この経験から、清水建設が着手している災害時の医療救護活動の効率化を目指す“MCP(Medical Continuity Plan)支援システム”の開発に当院も協力しています。

MCP支援システムとは、現地の医療スタッフからタブレット経由で報告を受け、防災・救護活動の進捗状況、スタッフの安否確認、使用可能な医療機器の台数、医療資材の充足度などを防災本部のボードやタブレットに表示し、医療に必要な情報を可視化するシステムです。

どのエリアにどのような支援が必要か、稼働できるスタッフや使用可能な医療機器・薬剤など、刻一刻と変わる状況が一目で分かるので、災害時においても効率的に医療活動を行えるようになると期待されています。治療を受けた患者さんがどの病院に入院したか、あるいは自宅や避難所に戻ったかなどの個々の情報も追えるので、その後のフォローがしやすいという利点もあります。

2022年には当院の災害訓練にこのシステムを導入して、有用性を検証しました。その結果を受けて、現在もよりよいシステムにするための開発に協力しています。災害は決して起こってほしくありませんが、万が一の事態に備えることで、地域の方々が安心して日々の生活を送れるよう尽力しています。

私が院長に就任したのは2024年4月のことです。院長として、まずは地域の方々から信頼を寄せていただけるような病院づくりに努めたいと思っています。

当院は地域の方々からの切実な願いと善意の寄附によって誕生し、現在までたくさんの支援をいただいております。病院にある花壇がいつも美しいのは、地域ボランティアの方がお世話をしてくださるからであり、災害訓練の折には患者役を担うなどさまざまなご協力をいただいています。そんな地域の方々の期待に応えるため、私たちができることには全て挑戦していきたいと思います。

当院のスタッフの多くはこの地域で暮らしておりますので、スタッフたちが働きやすい環境を整えることも地域貢献につながるものと考えています。医師の育成もその1つで、後進を育てることで将来的にも充実した医療サービスを提供し続けられるようにしたいと考えています。一方で地域医療を支えるためには、当院だけではカバーできない部分があります。今後も地域の方々と協力して、共に人吉をより住みやすい町にしていきたいと考えています。

※診療科や医師、提供している医療の内容および医師数など本文中の数字は全て2024年11月時点のものです。

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