院長インタビュー

熊本赤十字病院の担う役割――地域における高度急性期医療の提供

熊本赤十字病院の担う役割――地域における高度急性期医療の提供
平田 稔彦 先生

熊本赤十字病院 院長

平田 稔彦 先生

目次
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熊本赤十字病院は、熊本市東区で救急医療や高度急性期医療を提供し、若手医療従事者の育成にも力を入れています。院長の平田 稔彦(ひらた としひこ)先生は“地域に必要とされる医療を提供していきたい”という思いを胸に、地域で完結できる医療提供を目指しています。

同院の特徴や今後の展望について平田先生に詳しく伺いました。

熊本赤十字病院外観
熊本赤十字病院外観(熊本赤十字病院よりご提供)

熊本赤十字病院は、日本赤十字社の前身にあたる博愛社の設立に大きく関わった熊本の地で日々の診療を行っています。病院開設以降、“苦しんでいる人を救いたい”という思いを結集し、いかなる状況下でも人のいのちと健康、尊厳を守るという赤十字の使命のもと救急医療や災害救護活動に力を入れてきました。

人道・博愛・奉仕の実践という基本理念のもとに、救急医療、高度医療、教育研修、地域連携、医療救援の5つの基本方針を掲げて診療にあたっています。私たちは、高度急性期を担う総合病院として、地域住民が安心して暮らせる社会に貢献して行きたいと考えています。

屋上ヘリポートに待機しているドクターヘリ
屋上ヘリポートに待機しているドクターヘリ(熊本赤十字病院よりご提供)

当院は、1980年に県内最初の救命救急センターに指定されて以来、救急告示病院、小児救急医療拠点病院として、総合救命救急センターとこども医療センターを設置しています。徒歩や自家用車などで来院される一次救急の患者さんをはじめ、救急車やドクターカーなどで搬送されてくる二次救急、三次救急の患者さんがいらっしゃいます。また熊本県におけるドクターヘリ基地病院として、より早い治療が求められる患者さんの受け入れや、近隣の病院への搬送など病院前救護と救命率の向上に取り組んでいます。

ドクターヘリ運用から10周年を迎える

ドクターヘリは大きな事故にも見舞われず、運用から10周年を迎えました。熊本県では現在、ドクターヘリと防災消防ヘリの二機体制で運用を行っており、4つの基幹病院が連携して救急医療を支えています。こうした体制は“熊本型”と呼ばれており、独自の救急搬送体制を構築しています。

小児救急の診療の様子
小児救急の診療の様子(熊本赤十字病院よりご提供)

こども医療センターでは、2012年に小児集中治療室(PICU)を整備し、小児救急医療機能の集約化による機能向上を図っています。また、2013年に全国で5か所目、西日本では初となる“小児救命救急センター”の指定を受けるとともに、ドクターヘリの基地を兼ね備えた全国初の施設として、県内のみならず南九州地区の対応困難な小児重症疾患にも対応できる体制を整備しています。小児救急医療拠点病院として、熊本県における小児救急医療の充実を図るために、当院が率先して動いていかなくてはと強く感じています。

重症外傷センター

より専門的な医療提供のため、総合救命救急センターの中に重症外傷センターを立ち上げました。文字どおり重症外傷に集中的に対応するセンターであり、特に複数の科による横断的な対応が必要な多発外傷などを中心に、外傷蘇生・集中治療を行っています。

重症外傷は時間との戦いとなるため、院内でのスムーズな連携が必須となります。当院ではこの連携をいかにスムーズに行い、適切な治療へとつなげられるかを重視し、重症外傷診療のレベルアップのため日々努力を重ねています。

脳卒中センター・脳血管内治療センター

日本人の死因の中でも上位を占め、5大疾病とされている脳卒中に対応するため、新たに脳卒中センターの立ち上げも行いました。脳神経外科、脳神経内科、コメディカルが1つのチームを組んで、一体となって脳卒中治療を提供するセンターです。当院ではさらに、この脳卒中センターを発展させた“脳血管内治療センター”も設置しています。脳神経内科が中心となって血栓回収療法を行っており、治療からリハビリテーションまで集中的に行うセンターとなっています。今後は、包括的脳卒中センターの取得を目指しているところです。

・脳卒中地域連携のDX

脳卒中の治療において現在、試験的に取り組んでいることの1つに“病院前脳卒中病型予測ツール”の活用があります。このツールにより重症と判断される場合には、クリニックなどを経由せずダイレクトに当院へ搬送されるという仕組みです。脳卒中の治療は時間との勝負となるため、適切な病院へ迅速に搬送することはとても重要です。このツールの活用により、今後さらに脳卒中の治療をスムーズに行える体制が築ければと考えています。

このように当院では、専門性の高いさまざまなセンターを備え、お年寄りから子どもまで、24時間365日体制であらゆる救急疾患に対応できるように日夜努力しています。

我が国ではすでに超高齢社会に突入しており、医療の分野でも、それぞれの病院の機能に応じた役割分担が求められるようになってきました。当院は、救急告示病院や小児救急医療拠点病院、基幹災害拠点病院、地域周産期母子医療センター、地域がん診療連携拠点病院、心筋梗塞等の心血管疾患 急性期拠点病院など、多くの医療機関指定を受けており、こらからも地域において高度急性期医療を提供する役割を果たしていきたいと考えています。

そのためには、地域の医療機関との連携が欠かせません。急性期の治療が終わったあとには速やかに次の医療を受けられるように、地域全体でシームレスな連携体制を構築することが大切です。

当院では、この連携をよりスムーズに行えるよう“地域医療連携ネットワーク・くまもとクロスネット”を立ち上げました。これは、患者さんの同意を得たうえで、このネットワークシステムに参加する医療機関の医師たちが、当院での検査データや治療の履歴を閲覧できるシステムです。当院に紹介された患者さんや、自院に転院される患者さんの診療情報を事前に把握することができ、今後の治療方針を決定するうえで役立っています。

多くのスタッフが連携して医療提供に尽力する(熊本赤十字病院よりご提供)
多くのスタッフが連携して医療提供に尽力する(熊本赤十字病院よりご提供)

治療から支援まで、がん治療を包括的に支える2つのセンター

国民の2人に1人が罹患するといわれているがん診療に関しては、“がん集学的治療センター”や“がん相談支援センター”を設置しています。がん集学的治療センターは2022年11月に設置され、専門の医師やコメディカルがチームとなり、治療から緩和ケアまで集学的な診療を行っています。

がん相談支援センターでは、地域におけるがん診療の連携・支援を推進し、がん診療の向上を目指すとともに、緩和ケア支援チームによるカウンセリングなど、がんに関する相談支援や情報提供などにも取り組んでいます。

総合血管センターによる血管病の診療

メタボリックシンドローム生活習慣病などが引き起こす全身の“血管病”に対しては、放射線科、循環器内科、心臓血管外科など診療科の枠を超えて総合的、包括的に診断、治療を行うために“総合血管センター”を開設しています。脳卒中・心筋梗塞、閉塞性動脈硬化(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)などの心血管疾患に対する脳血管内治療・PCI(冠動脈インターベンション)も積極的に行い、治療件数も増加傾向にあります。このように、頭から足の先までの血管の病気に対する治療も積極的に行っています。

2018年12月に手術支援ロボット“ダヴィンチ”を導入しました。現在、外科、呼吸器外科、産婦人科で使用しています。手術支援ロボットのメリットは、精密な手術が可能となり安全性が高く、患者さんの体への負担が少ない低侵襲(ていしんしゅう)な治療を目指せることです。また、術後の疼痛(とうつう)も減らせることから回復も早い傾向にあります。

2019年12月にハイブリッド手術室を整備しました。手術台と血管造影装置を組み合わせた機能性の高い手術室です。これまで血管造影室で行っていた冠動脈治療や血管内治療についてもハイブリッド手術室で行うことができ、さらに大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)に対するTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)も実施可能となりました。TAVIも低侵襲で、早期の回復が期待できる治療法です。

1988年から開始した腎移植は415例(2023年12月末時点)に達し、2010年以降は腎移植チームがより密接な連携を取ることはもちろん、免疫抑制剤や移植後の治療が発展したことで、生着率が向上し、良好な成績を収めています。腎移植チームは、外科などの複数の診療科と移植コーディネーターを中心に、薬剤師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師、臨床工学技士、事務職員などで構成され、チーム間で密接に情報共有を行いながら、毎月2~3例の腎移植を実施しています。

我が国の全臓器移植症例は徐々に増え、日本臓器移植ネットワーク(JOT)が発表している臓器別提供数・移植数の累計は7,000例を超えています(1995年度~2022年度)。その一方で、臓器移植を希望される方は14,000名以上(2024年4月時点)と、臓器提供者数を大きく上回っています。

また、移植を待っている間にお亡くなりになる方も少なからずいらっしゃいます。移植医療に携わるものとしては、臓器移植によって救える命を救うことは“使命”であると考えています。

熊本赤十字病院 腎移植件数推移(熊本赤十字病院よりご提供
熊本赤十字病院 腎移植件数推移(熊本赤十字病院よりご提供)
屋根瓦方式の研修風景(
屋根瓦方式の研修風景(熊本赤十字病院よりご提供)

当院は臨床研修指定病院に指定されており、救急医療と総合診療を基軸に、幅広い疾患に対応できる医師を養成すべく、研修医の育成に取り組んでいます。またNPO法人卒後臨床研修評価機構による臨床研修評価認定(4年)を取得、新専門医制度においても内科、救急科、外科、総合診療科、産婦人科の5領域において基幹施設として専門研修プログラムを持ち、専攻医の育成に力を入れています。

看護師に対しては、日本赤十字社の“キャリア開発ラダー”に基づき、ラダー制を導入しています。各個人が将来の目標を持ってキャリア開発に取り組み、仕事の満足感を得られるような研修内容となっています。
また近年は、看護職の地域連携にも力を入れています。当院では、患者さんやそのご家族はもとより、国外の方のための医療・看護・保健指導のできる看護師の育成を目指しています。

救護班訓練の様子(熊本赤十字病院よりご提供)
救護班訓練の様子(熊本赤十字病院よりご提供)

当院は熊本県の基幹災害拠点病院に指定されています。災害拠点病院は、地域災害における医療救援活動の拠点と考えられます。一方、基幹災害拠点病院は、地域災害のみならず広域災害における実働部隊にして司令塔であり、活動実績を基に培った経験から県下全域の災害拠点病院の機能を強化する訓練などを行い、人材の養成などを行うことが求められます。

さらに赤十字の理念のもとに、国内外を問わず医療救援活動を行っております。国外ではイラクや南スーダンにおいて紛争犠牲者救援に医師を派遣し、紛争で傷ついた方々の治療を行いました。国内では2011年に発生した東日本大震災の被災地にも救護班を派遣し、救護活動に尽力しました。

2016年4月に起こった熊本地震では、より早く災害医療を提供できるように、発災直後に災害対策本部を立ち上げています。職員の半数近くが自ら被災者となりましたが、いち早く病院の機能を回復させて災害医療に十分に対応できるように、職員一同が奮闘しました。

自然災害においては、豪雨災害や直近の能登半島地震などの際にも派遣を行い、救護から心のケア、病院支援まで行ってきました。今後はこうした自然災害時における活動はもちろん、新型コロナウイルスのような新興感染症や、サイバー攻撃に対する対応も必要になると感じています。そのため、2025年度からは災害対策に加えてさまざまな危機管理を行う“危機管理室”の設置を予定しています。

能登半島地震発生時の災害対策本部会議の様子(熊本赤十字病院よりご提供)
能登半島地震発生時の災害対策本部会議の様子(熊本赤十字病院よりご提供)

当院では地域の皆さまと交流する機会を設けています。その中の1つが赤十字フェスタです。ここでは赤十字の活動や医療を体験することができます。

2018年10月に開催した際には、ドクターヘリの見学会や1Day医師体験、採血などメディカルスタッフ仕事体験を実施し、約5,800名の方々にご参加いただきました。コロナ禍を経て2023 年11月にはショッピングモールの一画で開催し、白衣に着替えての写真撮影や聴診器体験などを実施しました。約400 名の方々にご参加いただき、子どもから大人まで楽しんでいただけたと思います。

赤十字フェスタ(2023年開催)での写真撮影(熊本赤十字病院よりご提供)
赤十字フェスタ(2023年開催)での写真撮影(熊本赤十字病院よりご提供)

当院では地域の皆さまに向けて、定期的に市民公開講座を開催しています。2006年10月に第1回を行い、これまでに30回を数えます。テーマは「がんを考える『骨転移』」、「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)の予防と治療法」、「子宮頸(しきゅうけい)がんとその治療法」、「(1)こどもの食物アレルギー (2)スキンケア」、「頭痛」といったさまざまな内容で開催しています。コロナ禍においては、大規模な内容での市民公開講座は開催できませんでしたが、2023年度は、保育園や施設向けに“くまSKIP(小児事故予防)”という出前講座活動を9回実施することができました。

小児事故予防の出前講座活動
小児事故予防の出前講座活動(熊本赤十字病院よりご提供)

熊本赤十字病院は、これからも地域住民の皆さまや県民の皆さまのお役に立てる病院を目指して、スタッフ一同努力を重ねてまいります。

今後ともご指導、ご協力くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

*診療科やスタッフ、提供する医療等に関する情報は全て、2024年5月時点のものです。

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