京都府北部、海軍ゆかりの街として知られる舞鶴市。海軍工廠の組合員や家族を診療することを目的に設立された舞鶴共済病院は“患者さんに良質で安心していただける医療を提供する”との理念のもとに地域医療を支え続けています。
そんな同院が担う役割や今後の展望について、院長である沖原 宏治先生にお話を伺いました。
当院は1907(明治40)年に舞鶴海軍工廠職工共済会病院として設立されました。当初は海軍工廠の組合員や家族の診療を主としていましたが、1945(昭和20)年に財団法人共済協会舞鶴共済病院となり、広く地域の方々を診療するようになりました。その後、法改正によって運営母体や名称が変わり、現在の舞鶴共済病院となったのは1958(昭和33)年です。
人口約8万人(2024年時点)が暮らす舞鶴市において当院は急性期医療を担っており、病床数300床(ICU・CCU10床を含む)と17の診療科を備えて日々の診療にあたっています。内科・外科に加えて歯科口腔外科も開設しており、口腔を含めさまざまな病気やけがに対応できることが特徴です。また中丹・北部地域では初となる透析センターを開設し、健康医学センターにて人間ドックや健康診断を実施するなど、地域の方々の暮らしと健康を支えています。今後も医療の質を保ちつつ、地域のニーズにマッチした医療の提供を目指してまいります。
心筋梗塞や心不全をはじめとした心臓・血管の病気に対応する“循環器センター”は、当院の強みといえる領域です。当院に信頼を寄せて遠方から足を運んでくださる患者さんも多く、冠動脈バイパス術や弁置換術などの手術件数は年間200例*を超えます。
2019年4月には手術支援ロボット・ダヴィンチを導入し、患者さんへの負担が少ない低侵襲手術にいっそう力を入れるようになりました。当初は主に泌尿器科領域の前立腺がん手術に使用しておりましたが、最近は大腸がんなど消化器外科領域の手術などにも適応範囲を広げました。
*年間手術実績……2022年度:215件、2023年度:249件
1901(明治 34)年に海軍鎮守府が設置されたことに伴い、舞鶴市には当院を含めて海軍関連の病院が3つ(現:舞鶴共済病院/舞鶴医療センター/市立舞鶴市民)設立されることになりました。その後1953(昭和 28)年には舞鶴赤十字病院が開院し、人口約10万人に対して4つの総合病院が医療を提供してまいりました。
一方で舞鶴市の人口は約10万3千人だった1959(昭和34)年をピークに右肩下がりを続け、最近は8万人を割り込む状態が続いています。人口減少はそのまま患者数の減少につながり、当院も300床ある病床のうち一部を休床としているものの病床稼働率は80%に満たないのが現状です。少子高齢化や人口減少などの時代の変化や地域の医療ニーズに照らし合わせて地域の医療機関がどのように連携していくのか、当院がどのような役割を果たすべきなのか……、そういったことを考える時期にきているように感じます。
当院はこれまで急性期医療をメインにしておりましたが、急速に高齢化が進む現代においては急性期を脱した患者さんが1日も早く元の生活に戻れるよう、地域の中でサポートする仕組みが大切になってきます。また、病気とは言えないものの明らかにADL(日常生活動作)の低下がみられる患者さんに適切な検査や治療を行い、外来リハビリテーションにつなげるなどの取り組みも必要になってくるでしょう。
舞鶴市の医療の未来について話し合う“持続可能な地域医療を考える会”には当院を代表して私も参加しており、地域における私たちの役割を模索しているところです。最近、在宅復帰を支援するための地域包括医療病棟を開設いたしました。急性期から慢性期への切れ目のない医療を提供できるケアミックス病院への転換も視野に入れ、地域医療に貢献したいと考えております。
良質な医療を安定的に提供するためには医師はもとより看護師の力が欠かせません。地域包括ケア病棟も開設しておりますが、長期にわたる療養が必要な患者さんを受け入れることを考えれば看護師不足は明らかです。当院では医師の代わりに特定行為を行う認定看護師が活躍してくれていますが、今後も引き続き人材の確保・育成に力を入れたいと考えています。
舞鶴市では医療職を目指していたり、医療の世界に興味を持っていたりする中学生・ 高校生を対象にした体験型イベント“ミッション・イン・ホスピタル”を開催しており、当院におきましても昨年100人ほどの学生さんにご参加いただきました。看護師はもちろん医師も常時募集しており、特に消化器内科の先生は大歓迎です。
私は京都府立医科大学を卒業して泌尿器科を専門に経験を積み、当院の院長を拝命したのは2023年4月のことでした。私が院長に就任する以前、当院は長らく金沢大学出身の先生が院長を務めていたと聞きます。そうした歴史のなかで私に白羽の矢が立ったのは、トップとして新しい風を吹き込むことを期待されているのだろうと感じています。
私がいま果たすべき役割は、他の病院といかに連携して“市民ファースト”の医療を展開していくか、その道筋をつけることだと考えています。何よりも舞鶴市民の皆さまのことを第一に考え、救急車のたらい回しをなくし、寝たきりになる高齢患者さんを減らすことにより、“舞鶴の医療がよくなった”と言っていただくことが目標です。当院の持てる力を存分に発揮し、急性期から慢性期への一貫した医療の提供を目指してまいりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
*病床数や診療科、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年9月時点のものです。