立ち上がりにくい:医師が考える原因と対処法|症状辞典

立ち上がりにくい

河北総合病院 神経内科 副部長

荒木 学 先生【監修】

立ち上がりにくさは、足や腰の不調、疲れなどさまざまな原因によって引き起こされます。比較的頻度が高い症状であるため軽く考えられがちですが、なかには注意が必要なケースもあります。

  • 突然片脚に力が入らなくなり、自力で立ち上がりにくくなった
  • 数か月前から過度な食事制限をしているが、最近になって力が入りにくくなり、立ち上がるのが困難になってきた
  • 原因不明の筋肉痛とだるさ、疲れが生じ、立ち上がりにくくなった

これらの症状が現れた場合、原因としてどのようなことが考えられるのでしょうか?

立ち上がりにくさは、次のような好ましくない日常生活上の習慣によって引き起こされることがあります。

長時間同じ姿勢で座ったりしていると下肢の血行が悪くなり、立ち上がろうとした瞬間にうまく力が入らなくなることがあります。

下肢の血行を維持するためには

長時間のデスクワークなどは避け、小まめに立ち上がって適度なストレッチや歩行をすることが大切です。また、立ち上がることができないときは、かかとの上げ下げなど座ったまま実施できるエクササイズをするとよいでしょう。

過度な食事制限や水分不足は体を動かすのに必要なエネルギーが不足する原因になります。特に夏場など汗をかきやすいときは、思いのほか水分不足に陥りやすいため注意が必要です。

エネルギーや水分不足を予防するには

減量を目指している最中でも過度な食事制限は避け、必要最低限のカロリーはしっかり摂取するようにしましょう。また、小まめに水分を摂取する習慣を身につけ、運動したときなどはいつもより多くの水分を取ることが大切です。

日常生活上の対策を行っても立ち上がりにくさが改善しない場合には、思いもよらない病気などが背景にある可能性があります。軽く考えず、一度医師の診察を受けるようにしましょう。

立ち上がりにくさは、病気によって引き起こされることがあります。立ち上がりにくさを引き起こす代表的な病気は次のとおりです。

立ち上がりにくさを引き起こす神経の病気には次のようなものがあります。

脳梗塞、脳出血など

脳の血管が詰まったり、破れたりする病気です。脳には下肢の運動をつかさどる部位があり、脳梗塞脳出血によるダメージを受けると下肢の運動がスムーズにできなくなることがあります。

これらが原因の立ち上がりにくさは突然片脚の力が入らなくなる、頭痛や吐き気・嘔吐、めまいなどの症状を伴います。

腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなど

腰を走行する脊髄やそこから分岐する太い神経にダメージが加わる病気です。腰部脊柱管狭窄症は脊髄が存在する脊柱管が加齢などによって狭くなることで、腰椎椎間板ヘルニアは腰椎同士の間に存在してクッションのような役割を果たす椎間板が変性し、脊髄や神経を圧迫することによって発症します。

腰や太ももの裏、ふくらはぎ、足の指にかけて電撃のような痛みやだるさが生じるのが特徴ですが、進行すると筋力が低下して立ち上がりにくさを自覚することがあります。

パーキンソン病

脳内のドーパミン神経が減少することで、筋肉の運動に異常が生じる病気です。主な症状はふるえ・筋固縮・動作緩慢・姿勢保持障害ですが、バランスが保ちにくくなるため椅子から立ち上がる際などに転倒するリスクが高くなります。

主に高齢者が発症する病気ですが、運動障害のほかにも便秘や頻尿、立ちくらみ、抑うつ気分、意欲低下などの症状を伴うこともあります。

立ち上がりにくさを引き起こす筋肉や骨の病気には主に次のようなものがあります。

変形性膝関節症、変形性股関節症

膝関節や股関節に過度な負担がかかることにより、関節内部の軟骨などに変性が生じる病気です。関節の痛みや腫れなどの症状が引き起こされますが、進行すると関節自体が変形し、立ち上がったり歩いたりする動作に支障をきたすことがあります。

立ち上がりにくさは、全身の病気によって引き起こされることも少なくありません。

廃用症候群

高齢者など体力の低下や病気・けがなどによって運動量が減少することが原因で、筋力低下と関節拘縮(関節が硬くなって動きが悪くなる)を引き起こす病気です。

特に横になっている時間が長くなると下肢の筋力が低下するため、自力で立ち上がるのが困難になっていきます。確立した治療法はなく、筋肉や関節を効率的に鍛えるリハビリが行われます。

栄養障害

末期がんにかかっている人などは、食事量の著しい減少や体力の過大な消耗などによって体を動かすためのエネルギー不足や筋力低下を引き起こします。その結果、自力で立ち上がるのが困難になるケースも少なくありません。

立ち上がりにくさは疲れやだるさなどによって引き起こされうる症状であるため、軽く考えられがちです。しかし、上で述べたような病気以外にも皮膚筋炎、多発筋炎(多発性筋炎)、脊髄性筋萎縮症SMA)などさまざまな病気が原因で立ち上がりにくいといった症状が引き起こされることがあります。

症状に気づいてから多くの人は最初にかかりつけ医や整形外科を受診します。頻度のあまり高くない病気のために早い段階ではほかの病気との区別が難しく、診断までに時間がかかってしまうことも少なくありません。下肢に力が入りにくくなった場合、下肢に痛みを伴う場合、立ち上がりにくさの程度が進行している場合などはできるだけ早く医療機関で検査・治療を受けることが望まれます。

初診に適した診療科は立ち上がりにくさの原因によって異なりますが、痛みを伴う場合は骨や筋肉の異常が考えられるため整形外科、片脚の麻痺やめまいが突然発症した場合は脳の病気の可能性が考えられるため脳神経外科、全身の状態が悪い場合は内科などを受診するのがよいでしょう。また、どの診療科を受診すればよいか分からない場合は、かかりつけの内科などに相談するのも1つの方法です。

受診した際には、いつから立ち上がりにくさを自覚したのか、腰や下肢の痛み・しびれの有無、その他の症状、これまでかかった病気、日常生活での運動量などを詳しく医師に伝えるようにしましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。