腰痛:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
熊本回生会病院 院長補佐
中村 英一 先生【監修】
腰は常に重い体を支えており、日常的によく使う場所でもあるため痛みが起こりやすい場所です。
このような場合、原因として考えられることにはどのようなものがあるのでしょうか。
腰痛は何らかの病気やケガが原因となって起こっている場合もあります。
体を動かすときや歩くときに腰痛が現れる場合には、主に以下のような病気が考えられます。
急性腰痛症は、重いものを持ち上げた時などに突然腰が痛くなる状態のことで、ぎっくり腰と呼ばれることもあります。
多くは腰回りの強い痛みだけが続き、徐々に痛みが軽くなっていくものですが、場合によっては痛みが強くなったり、ときには発熱することもあります。
腰椎とは背骨の腰の部分を構成している5つの骨のことで、骨と骨の間に椎間板というクッションの役割を果たす軟骨があります。この椎間板が何らかの原因によって正常の位置から外れて、後方の脊髄や神経根(脊髄からでる神経線維)を圧迫する病気のことを腰椎椎間板ヘルニアといいます。
腰椎椎間板ヘルニアになると、多くの場合、腰痛のほかにおしりから足にかけて痛みやしびれが現れます。まれに尿が出にくくなる排尿障害、便が出にくくなる排便障害が起こることもあります。
腰部脊柱管狭窄症とは、背骨の中にある脊髄が通る空間が狭くなる病気のことです。
腰痛や足の痛み・しびれなどが症状として現れますが、足の痛みやしびれは安静時にはあまり感じず、立ったり歩いたりしたときに痛みが生じ、座って休むと症状が軽快する傾向にあります。
腰椎すべり症とは、腰椎が正常な位置からずれて後方の脊髄や神経根(脊髄からでる神経線維)を圧迫する病気のことを指します。
腰椎すべり症になると、腰痛、足の痛み・しびれ(立ったとき・歩いたとき)などの症状が現れるのが一般的です。腰痛だけの場合や自覚症状が一切現れない場合も珍しくありません。
腰部変形性脊椎症は、主に加齢によって椎間板や腰椎自体が変形した状態をいいます。
変形するだけでは無症状であることが多いのですが、変形が進むと神経が圧迫され、腰痛や背中の痛み、足の痛み・しびれが現れることもあります。
腰痛は腰の病気によるものだけでなく、泌尿器の病気や消化器の病気、婦人科の病気、血管の病気、皮膚の病気などでも起こることがあります。
腰痛が起こりやすい泌尿器の病気には、腎臓や尿管、膀胱、尿道などに石ができる尿路結石、膀胱に細菌が侵入して炎症が起こる膀胱炎、腎臓の中で尿が集まる腎盂に細菌が付着して炎症が起こる腎盂腎炎などがあります。
症状としては腰痛のほかに、尿路結石なら激しい排尿痛や血尿、吐き気、膀胱炎なら排尿痛や血尿、頻尿、腎盂腎炎なら発熱や寒気が生じることもあります。
強い痛みや発熱がみられるときには、早期の治療が必要なこともありますので早めの受診を検討しましょう。
消化器が関係している病気には、胃や十二指腸の粘膜が傷つく胃・十二指腸潰瘍、胆嚢や胆管に石ができる胆石、胆嚢に炎症が起こる胆嚢炎、膵臓に炎症が起こる膵炎などがあります。
程度は異なりますが、いずれもみぞおちなど上腹部の痛みや吐き気・嘔吐などの症状が主として現れます。病気のある場所と痛みの部位は一致しないことも多く、なかには腰が痛むように感じられることもあります。
いずれにせよ痛みが激しいような場合には早めに受診しましょう。
女性で激しい腰痛がある場合、卵巣が腫れる卵巣嚢腫、卵巣が捻じれる卵巣捻転、受精卵が子宮内膜以外の場所に着床する子宮外妊娠などの病気が考えられます。
卵巣捻転は卵巣嚢腫によって起こることが多く、卵巣嚢腫になっただけでは自覚症状はほとんどありませんが、卵巣捻転を起こすと激しい下腹部の痛みや腰痛が現れます。また、痛みによる吐き気・嘔吐がみられることもあります。
子宮外妊娠においては、初期では無症状または下腹部の痛みが現れるのが一般的ですが、胎児(胚)が発育すると周囲の組織を破って出血を起こします。
このような婦人科の病気は急を要することが多く、場合によっては命に関わることもあるため、女性で激しい腰痛があれば早急に救急病院の受診がすすめられます。
腹部大動脈瘤や腹部大動脈解離といった血管に関係する病気でも、腰痛が症状の一つとして現れる場合があります。
腹部大動脈瘤はお腹に流れる大きな動脈に瘤ができる病気で、腹部大動脈解離はその動脈の壁が裂ける病気です。腹部大動脈瘤では自覚症状がないことが多く、瘤の破裂が差し迫ったときに腹痛や腰痛が生じることがあります。また、破裂すると大量出血を伴うこともあります。
腹部大動脈解離では胸や背中、腰を中心とする激しい痛みが現れるのが一般的です。
このような血管の病気は、放置すると命に関わることが少なくありません。そのため、男女を問わず、激しい腰痛があれば早急に救急病院を受診しましょう。
皮膚の病気と腰痛は関係ないと思いがちですが、ウイルスの感染による帯状疱疹でも腰痛が起こることがあります。
初期には皮膚がピリピリと刺すような痛みを感じ、その後に赤い斑点や水疱などの皮膚症状が現れます。
激しい腰痛は早急な治療が必要な病気が関係していることも多く、早急な受診が必要です。また、軽い腰痛でも続いていたり、ほかに症状が伴うような場合には、一度病院へ受診することを考えましょう。
病気によって受診科目は異なりますが、どこに原因があるのか自分で目安をつけることは難しい場合が多いでしょう。腰痛が主な症状である場合にはまず整形外科でよいでしょう。発熱や腹痛など、他の強い症状が伴う場合には内科などへの受診がよいでしょう。
受診の際には、腰痛のほかにどのような症状があるのか、いつ頃症状がでるようになったのかなどを医師に伝えましょう。
日常生活の中での習慣などが原因となって引き起こされる腰痛もあります。
年齢を重ねるごとに骨が弱くなり筋肉量が減少していくため、腰にかかる負担がいっそう大きくなって腰痛を起こしやすくなります。
まずは腰やお腹の筋肉量を増やして背骨を支えることが大切です。有酸素運動やウォーキングといった運動がよいといわれていますが、腰痛がないときに無理のない程度で実施しましょう。治療中の方は主治医の指導を受けることも大切です。
また、丈夫な骨を作るために欠かせないカルシウムやビタミンD、たんぱく質などの栄養素も積極的に摂取しましょう。
座るときによい姿勢を保つこと、無防備に前へかがまないこと、重いものを持たないようにすることも腰痛の予防に大切です。
運動をしないでいると腰の筋力量がどんどん減っていき、腰椎に大きな負担がかかってしまいます。運動不足によって肥満になることが多く、その場合にはさらに腰への負担が大きくなって腰痛が起こりやすくなります。
運動は筋力量の増加や肥満の解消、血流の改善に効果があります。運動不足を感じたら、ウォーキングやストレッチ、ヨガ、筋力トレーニングなど、できることに取り組みましょう。
ただし、腰痛があるときに運動すると悪化してしまう可能性があります。痛みのないときに無理のない程度で行うようにしましょう。
背骨は体を重力から均等に分散するために緩やかなカーブ状を描いています。
しかし、猫背や反り腰など悪い姿勢をとっているときには、重力による影響を強く受けて腰に大きな負担がかかります。大きな負担がかかることで、腰の筋肉が緊張しやすくなって腰痛が起こりやすくなります。
悪い姿勢で過ごし続けるとそれが癖になってしまうものです。日頃から正しい姿勢を心がけましょう。また、姿勢の悪さを感じたら、意識的に胸を張る、腰を伸ばすなどして正しい姿勢をとるようにしましょう。
長時間同じ姿勢を続けることで、腰の筋肉が緊張して血液の流れが悪くなります。また、腰に負担がかかって疲れがたまることで腰痛が発生します。
デスクワークや運転など、同じ姿勢が続く作業を行うときには、作業の合間に腰を左右に動かしたり伸ばしたり、軽いストレッチを行って筋肉をほぐすようにします。また、休憩のときには立って体全体を動かすのがよいでしょう。
柔らかすぎる、または固すぎる布団・ベッドを使用している場合、腰に大きな負担がかかり、筋肉が緊張することで腰痛を引き起こすと指摘されています。枕も同様に、高すぎる・低すぎるなど、体に合っていない場合にも腰痛の原因になるといわれています。
体に合った寝具を選ぶためには、まず体重や背骨の湾曲などから、どの程度の固さ・高さが腰への負担が最も少ないかを知ることが大切です。
多くの寝具メーカーでは、測定器を用いて体に合った寝具をオーダーメイドしてくれます。不安があれば整形外科などで一度医師に相談してみるとよいでしょう。
自分でできる対処法を試しても腰痛がよくならない場合には、思いもよらぬ原因が潜んでいる場合もあります。一度医師に相談してみましょう。