インタビュー

胃ろうの手術は大きな負担にはならない

胃ろうの手術は大きな負担にはならない
日下部 明彦 先生

横浜市立大学 総合診療医学 准教授

日下部 明彦 先生

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この記事の最終更新は2015年08月24日です。

胃ろうへの抵抗感としてあげられる原因のひとつとして、「手術を受けなくてはいけないこと」があります。「こんな高齢になって、手術は可哀想だ」というご家族の声もありますし、主治医や病棟スタッフからの「手術してまで胃ろうを造らなくても……」という意見もあります。

胃ろうの手術とは、実際のところどのようなものなのでしょうか?

胃ろうの手術は、多くは上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いて行われます。手術は「経皮内視鏡的胃瘻造設術」、英語では“Percutaneous Endoscopic gastrostomy”(PEG)といいます。胃ろうのことをPEGと略して呼ぶことも多いですが、PEGとは本来この手術のことです。つまり、PEGは胃ろうのあだ名だと思って頂ければよいと思います。

手術の多くは消化器内視鏡医によって、内視鏡室で行われます。まずは鎮静剤を点滴で用いて、患者さんの意識を落とします。お腹側には局所麻酔の注射を打ち、全身麻酔は不要です。手術中は一人の医師が内視鏡を挿入し、もう一人の医師がお腹側での処置を担当します。術式はいくつかありますが、今回は現在最も行われているIntroducer変法を紹介します。

Introducer法では、全ての過程において内視鏡で胃の中を観察しながら行います。具体的な手順は、まず一人の医師が内視鏡を胃の内部に挿入し、もう一人の医師が内部の様子を見つつ体の表面から指で場所を確認後(図①)、局所麻酔を打ちます。続けて胃壁固定のための針を挿入します(図②)。

胃壁固定は腹壁と胃壁を密着させるための処置です。

本来、胃壁と腹壁はくっついておらず、その間のスペースのことを腹腔と言います。腹腔は無菌のスペースであり、腹腔に細菌が繁殖しますと腹膜炎という状態を引き起こします。前項で、胃ろうとは体表と胃内腔をつなぐトンネルと言いましたが、さらに詳しく言いますと、胃ろうは「腹壁と胃壁をぴったり密着させた状態で、体表と胃内腔をつなぐトンネル」です。

胃壁固定を行った後に、いよいよメインのトンネルのための太目の針を刺します(図②)。針のなかにガイドワイヤーという細い針金を通し、体表と胃内腔の道を確保します。

次にガイドワイヤーを文字通りガイドとして、体の表面と胃内腔の道を広げる道具を入れていきます(図③)。十分胃の中の道が広がったら、またガイドワイヤーを沿わせて体内に留置するカテーテルを入れていきます(図④)。全行程は内視鏡で胃内を観察しながら行われます。最後に胃ろうカテーテルの留置された部位からの出血が無いことを確認します(図⑤)。

慣れた術者、内視鏡室スタッフで行えば、手術は15分~30分で終了します。(図⑥)

Direct法
Direct法

この方法は一般的には入院で行う処置ですが、偶発症(検査や治療によって生じてしまう不都合な症状のこと)が無ければ、退院後の指導も含めて術後3日~7日で退院(転院)とする施設が多いです。胃ろう造設術時または早期偶発症として、出血・誤嚥性肺炎・腹膜炎(瘻孔感染)などがあります。偶発症は胃ろう造設の術式や施設によっても違いますので、個々のケースで胃瘻造設担当医に確認するのがよいでしょう。

ただし、Introducer法は基本的に自力で食事を摂取ができない患者さんに行う手術であり、その多くは高齢者や栄養状態の悪い方々です。手術から30日以内に亡くなる患者さんも我が国のこれまでの報告では2~10%となっています。

医療従事者の方にもお伝えしたいことは、私の個人的な感想ですが、消化器内視鏡医にとって胃ろうの手術自体はさほど難しい処置ではないということです。胃ろうの手術は短時間で終了し、本人への負担も少ないです。ですから、胃ろうのデメリットとされる「一度手術を受けなくてはならないこと」はことさらに強調することではないと思います。何らかの栄養療法を行うのであれば、何らかのルートの確保が必要となり、リスクや苦痛を伴わない方法はありません。胃ろう造設術に慣れている内視鏡医の多くは、鎖骨下静脈から確保する中心静脈ルートの方がずっと難しいと感じていると思います。

そして、「胃ろうとはなにか? 水分や栄養を注入するルートのひとつ」での内容を繰り返しますが、胃ろうは造設してしまったら死ぬまで使い続けなくてはいけないものではありません。体調に合わせて必要な分量の栄養や水分を注入するための単なるルートです。胃ろうが不要になったら、カテーテルを抜けば胃ろうは自然に閉じます。

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