この記事では、「胃ろう」のケアや管理について、また栄養注入について、横浜市立大学総合診療医学准教授の日下部明彦先生に引き続きご説明いただきます。
胃ろうは一日に必要な栄養・水分・薬物を確実に摂ることができるルートです。経口摂取量や飲み込みの能力が不安定な方は、胃ろうがあるのとないのでは、在宅生活における安心感が大きく違ってきます。
今まで介護者の方は、なかなか経口摂取(口からものを食べたり飲んだりすること)の進まない患者さんの口元へスプーンを持っていき、かなりの時間を費やしたと思います。「どうして食べてくれないのか!」とイライラした感情を持たれたこともあったかもしれません。夏の暑い日などは、熱中症になったらどうしようと心配されたかもしれません。患者さん自身も長時間の食事は辛かったことでしょう。胃ろう造設をして自宅に帰るときいろいろな心配があることでしょうが、今までよりも患者さんと介護者の方の生活は楽になる可能性が高いです。
胃ろうからの栄養注入についても、あまり厳密に考えすぎないで構いません。
もしかすると、胃ろう造設手術を受けた病院では「200mlを1時間かけて落とすように」といった指導を受けた方もいるかもしれません。これは、一回400mlなら2時間かかるということです。この間、緊張してベッドサイドから離れられないご家族もいるかもしれません。
ただ、400mlはペットボトル1本よりも少ない量です。胃は胃袋というように袋状になっており、400ml程度の液量を貯めておくのは容易なことです。つまり、あくまで、200mlを1時間かけて落とすというのは最初の目安であり、下痢や逆流による嘔吐が無ければ徐々にスピードアップしても大きな問題は起きないということです。
また、注入の時間も必ずしも朝昼夕の3回でなくても構いません。日常生活の都合上、時間も多少ずれることはもちろんあるでしょう。ご家族の様々な都合も加味しながら無理なく続けられる介護のスタイルで行っていけばよいのです。
もちろん、上記のことは、主治医や訪問看護師と相談しながら行ってください。
胃ろうに対する管理ケアには、それほど難しいものはありません。注意点は以下です。
また、お風呂は胃ろうカテーテルを装着した状態で入れます。
もちろん外出も全く問題はありません。
食道通過障害のために、私が胃ろうを造設した食道癌の患者さんがいました。
この方は、ひとりで新幹線に乗って東北地方の温泉に湯治に通っていました。また胃ろうから赤ワインを注入され、「酔っぱらう感じが懐かしいんだ」と楽しまれていました。
胃壁内に胃内バンパーが埋まってしまい、栄養剤が流れない状態。
未だに世間では「胃ろうを造ったから、もう口から食べられない」という誤解があります。しかし、決してそのようなことはありません。
そもそも胃ろうを造設したのは、今現在、口から自力で「十分な」栄養を摂ることができないからです。胃ろうは「二つ目の口」とも言われています。ですから、経口摂取と胃ろうを併用してその状態に合わせた栄養摂取を行えばよいのです。経口摂取と胃ろうの栄養摂取の割合が1対9の人もいれば、5対5の人もいます。もちろん、0対10の人もいますが、それぞれの病状によって異なってくることは確かです。
たとえば、脳卒中後の飲み込みの障害がある患者さんの場合、数口はなんとか食べられますが、大変時間がかかります。食べることに対して徐々に本人も疲れてしまい、誤嚥(食べ物が誤って気管に入り込んでしまうこと)を起こしやすくなります。誤嚥をすると、誤嚥性肺炎という重篤な状態になる可能性があります。
このケースは脳卒中後の嚥下障害ですから、リハビリテーションで今後もっと経口摂取ができるようになるかもしれません。そのような状態ならば、必要な分の栄養は確実に胃ろうから摂取し、口から食べるリハビリテーションを少しずつ進めていくのが理にかなっています。
これは、また再び口からよく食べられるようになるために造った胃ろうということです。ですからリハビリテーションが進めば経口摂取の量が増え、胃ろうから卒業する方もいます。