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インタビュー

高齢者に胃ろうは必要か?

高齢者に胃ろうは必要か?
日下部 明彦 先生

横浜市立大学 総合診療医学 准教授

日下部 明彦 先生

本記事を含めて10記事にわたり、「胃ろう」にについて横浜市立大学総合診療医学准教授の日下部明彦先生にご説明いただきました。家族の問題や、ご自身の未来の可能性の問題として、胃ろうについて知識を持っておくことはとても重要です。よく議論される「高齢者に胃ろうは必要か」という問題を含め、この記事では胃ろうについて総合的に考えていきましょう。

胃ろうはこの超高齢社会のなかで社会的な問題となっており、医療者のみならず、多くのマスコミや一般の方々が医療費の高騰に絡めて意見を述べます。そのなかに、ときに「高齢者に胃ろうは必要か?」という議論があります。

高齢者でも胃ろうが必要な方もいるでしょうし、胃ろう造設を行っても本人・家族の幸せには繋がらなかったケースもあるでしょう。高齢者に心臓の手術は必要か? 輸血は必要か? 人工透析は必要か? などの議論と同様に、これはケースバイケースとしかいえません。それなのに何故か胃ろうについては、「高齢者に胃ろうは必要か?」という議論が度々交わされ、「高齢者に胃ろうは不要ではないか」という意見ですら少なからずあります。これは何故でしょうか。

胃ろうの問題を複雑にしていることのひとつに、医療者が胃ろうに対する個人的な考え方を、目の前の患者さんに適応するケースがあるように思います。医療者は、医療者としての立場と自分の個人的な立場や胃ろうに対する考え方を、しっかりと分けて考える必要があります。
この場合、胃ろうはあくまでも「医療処置」であることを前提として考える必要があります。医療処置として適応となる疾患・病状を整理し、個々の患者さんについて必要な医療処置なのかを考える必要があります。

ここまでの連載でお伝えしてきたことに記事3『胃ろうの適応。自発的に栄養を摂取できない方に適応される』という記事があるため、その記事のおさらいをしておきましょう。
胃ろうの適応となる患者さんは以下のような病気、病状の方々です。

  1. 脳卒中脳出血脳梗塞
  2. 筋萎縮性側索硬化症ALS)、パーキンソン病等の神経難病
  3. 老衰

認知症

口の中の癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、胃癌等による通過障害

口の中の癌

クローン病などの長期の経腸栄養が必要となる方

根本的な治療のない腸閉塞で、頻回な嘔吐を回避するために、胃液を体外に排出するルートのための胃ろう

胃ろうの適応患者さんは、大きく2つに分類することができます。それは、「本人に理解能力があり意思表示が可能な方か? 否か?」ということです。

実は、胃ろうの適応の難しさは認知症患者さんのケースにあるのです。認知症の患者さんは意思表示が困難です。それ以外の病状に対する胃ろうの適応はご本人と相談できるため、それほど複雑ではありません。問題は、意思の確認できない患者さんに対する処置の場合なのです。

倫理面を考慮したPEG適応のアルゴリズム
倫理面を考慮したPEG適応のアルゴリズム

図はPDN(PEGドクターズネットワーク)からの引用(一部改変)

認知症は、その原因によっては良くなるものもありますが、脳細胞の変性疾患であるアルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症前頭側頭型認知症については進行性の病気であり、現在の医療では治癒は望めません。

つまり認知症患者さんの胃ろうは、「本人の意思が確認できない、進行性の脳の病気の患者さんに対しての、延命を目的とした栄養方法」ということになります。これが、今、社会的な問題となっている胃ろうの問題の核の部分なのです。

恐らく、すべての方が胃ろうをしたくないと考えているのは、このような認知症の状況下においてなのではないでしょうか。そこで事前指示書(詳しくは記事9『胃ろうを拒否できる? 事前指示書「胃ろうを希望しない」では不十分』)も、この状況を想定して書くのがよいでしょう。ただ漠然とした高齢者への胃ろうの可否という議論ではなく、個々が「私は、認知症で徐々に食事が摂れなくなったら、胃ろう(人工的な栄養療法)造設をしたいか?」ということを考えることが重要です。

また脳卒中の発作により、ある日突然麻痺や嚥下障害とともに理解力・判断力が低下することがあります。この場合には、リハビリテーションにより将来的に嚥下機能が回復する可能性があるわけですから、患者さんは人工的な栄養療法を勧められることになります。繰り返しますが、栄養療法として最も優れ、リハビリテーションも行いやすい栄養ルートは胃ろうです。

なお、この際の胃ろうは延命的な栄養療法ではなく、救命的・一時的な胃ろうと捉えたほうがよいでしょう。(詳細は記事7『胃ろうを卒業できたケースは? 脳卒中後の嚥下障害は回復の可能性がある』)

一方、リハビリテーションがうまく進まずに、胃ろうによる栄養療法が長く続く方がいることも事実です。患者さんのなかには加齢による認知機能の低下が加わってくることもあるでしょう。胃ろう造設を行った際に期待された医療効果、つまり嚥下機能回復までのつなぎとしての栄養ルートという役割が果たせなかったということです。

日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン~人工的水分・栄養補給の導入を中心として~」には


人工的栄養療法導入後も継続的にその効果と本人にとっての益を再評価し、人工的栄養療法の中止ないし減量の可能性を含めて再検討する

と記載されています。本人・家族のよりよき生活を中心に考えるのなら、栄養療法の中止も一つの方法となります。

「全ての医療処置はケースバイケースで行うべきかどうかを考える」というあたりまえのことが、何故か胃ろうにおいては軽視されているように思います。「この超高齢社会の世の中に胃ろうは必要か?」という問いは愚問です。そして今、胃ろうによる栄養療法を行っている方やその家族が肩身の狭い思いをするような世の中のムードはフェアではありません。すでにある他人の胃ろうの批判をしてはいけません。その方の人生の批判をするのと同じことだと思います。これも当たり前のようですが、忘れがちなことです。

繰り返しますが、重要なことは、「自分は胃ろうを望むか?」ということです。特に認知症で徐々に食事が摂れなくなった場合はどうするのか?を家族とともに考えて、書面に残すことです。

これで、私の胃ろうの連載はおしまいです。
この連載を読んで頂いたことで皆さんの胃ろうについての考えが少しでも整理されたのならば、嬉しく思います。医療は私たちそれぞれの理想の生活を実現させるための道具のようなものです。胃ろうもまた然りです。私たちが幸せに過ごすために胃ろうはあるのです。

 

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