インタビュー

下肢静脈瘤の原因

下肢静脈瘤の原因
阿保 義久 先生

北青山D.CLINIC 院長

阿保 義久 先生

この記事の最終更新は2015年11月01日です。

下肢静脈瘤は脚の静脈で逆流を防ぐ弁が壊れてしまうことによって起こる病気です。高周波やレーザーを使用して患者さんの負担が少ない日帰り手術を行なっている、北青山Dクリニック院長の阿保義久先生に、下肢静脈瘤の原因についてうかがいました。

血管は内膜・中膜・外膜の三層構造となっており、このことは動脈・静脈いずれも同じですが、動脈の中では血液は動的に速く流れており、静脈内ではゆっくりと静的に流れているという違いがあります。このため静脈は内腔に弁があり、ゆっくりとした血液の流れが逆流を起こしにくい構造になっています。静脈はその伸展性の大きさから「容量血管」とも呼ばれ、体内を循環する血液のうち70〜80%を含んでいます。

先に述べたように、基本的に動脈と静脈はほぼ同じような構造をしていますが、静脈は動脈に比べて内腔が大きく中膜が薄いため、拡張しやすいという特徴があります。静脈は血液の流れがゆっくりとしていて、逆流防止弁があるために血管内腔への刺激が動脈に比べて弱いのですが、それでも四肢の筋肉が弱って静脈還流のポンプ力が減少し、重力の影響による逆流圧を長い間受けているうちに、血流圧によって血管内膜や中膜が傷つきます。これが修復されるたびに血管壁が厚くなり、そもそも拡張・伸展しやすい静脈は外側へ拡張していくと考えられます。

このことに加えて、女性ホルモンのひとつである黄体ホルモンは血管壁を柔軟にする性質があるため、妊娠などで黄体ホルモンの分泌が高まると、静脈はさらに伸展しやすくなります。

心臓から下肢(脚や足)へ送り出された血液は、重力に逆らって心臓に戻ってきます。このとき、下肢にたまった血液を心臓に戻すうえでもっとも重要な働きをするのが下腿三頭筋など、いわゆるふくらはぎの筋肉です。ポンプの役割をして血液を心臓へ押し戻すことから、ふくらはぎは第二の心臓とも呼ばれます。

しかし、ふくらはぎの筋肉は常に一定の力で静脈血を押し戻し続けているわけではなく、ポンプのように押す・止まるを繰り返しています。押し戻す力が止まった時、重力によって足先の方へと下がろうとする静脈血が逆流することを防いでいるのが、静脈内部にある逆流防止弁です。

人が立った状態でじっとしているときには、筋肉ポンプはあまり働かず、血液が心臓に戻るスピードは遅くなります。しかし、心臓から送り出される血液は一定であるため、脚に多くの血液がうっ滞します。すると、静脈内の圧が上昇し、逆流防止弁に強い逆流圧がかかります。その負担が度重なると、弁は逆流圧に耐えきれず変形して、隙間から血液の逆流が起こります。これが進行すると弁は完全に壊れてしまい、逆流防止の機能を果たさなくなります。これを弁不全といいます。

弁が壊れてしまうと血液が逆流して脚の下の方にたまり、血管が拡張します。拡張した血管は脚の表面に太く浮き出たり、こぶのように盛り上がります。これが下肢静脈瘤です。

下肢の静脈は、筋膜の奥の筋肉の中にある深部静脈と、皮膚のすぐ下を走っている表在静脈に分けられます。表在静脈は脚のつけ根と膝の裏で深部静脈に合流します。また、表在静脈と深部静脈は穿通枝(せんつうし)と呼ばれる筋肉を貫く短い血管によってもつながっています。

表在静脈には大きく分けて2つの系統があります。ひとつは足首の内側から下腿・膝関節・大腿の内側を通って鼠径部(そけいぶ・太もものつけ根)で深部の大腿静脈に合流する大伏在静脈(だいふくざいどうみゃく)です。もうひとつはかかとの外側からふくらはぎの真ん中を通って膝の裏で深部の膝窩(しつか)静脈に合流する小伏在静脈(しょうふくざいどうみゃく)です。

血液の逆流を防ぐ弁の中で壊れやすいのは表在静脈と深部静脈の合流点で、特に脚のつけ根と膝の裏にある合流点の2か所に弁不全が生じます。このほか、筋肉の中を通って表在静脈と深部静脈をつないでいる穿通枝が機能不全を起こす不全穿通枝という状態があります。また、卵巣周囲の内臓の静脈も逆流を起こしやすいといえます。

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