インタビュー

下肢静脈瘤日帰り手術への挑戦―専門医が語る下肢静脈瘤の治療

下肢静脈瘤日帰り手術への挑戦―専門医が語る下肢静脈瘤の治療
阿保 義久 先生

北青山D.CLINIC 院長

阿保 義久 先生

この記事の最終更新は2015年11月06日です。

日本で最初に下肢静脈瘤日帰り手術の手法を確立した第一人者である北青山Dクリニック院長の阿保義久先生も、最初からその道を志していたわけではありませんでした。患者さんが求める生活の質の改善と、実際に行われている治療とのギャップを解消したいという思いが、あるひとりの患者さんの要望を叶えるために結実するまでの道のりをお話しいただきました。

私はもともと一般外科―消化器外科や血管外科という領域で研鑽を積んできました。その経験から言えば、血管外科の中でも下肢静脈瘤の手術はそれなりに件数が多いのですが、医師の側ではそれほど深刻視されていない疾患でした。

手術そのものはもちろん技術的な難しさはあるにせよ、表層の手術なのでそこまで大きなリスクがあるわけではありません。研修医が修練を積むために行なうことが多い手術です。逆に言えば、そういったベーシックな手術には技量の差が大きく出る面もあります。

外科全般に言えることとして、大きな手術ほどレベルが上がるにつれて医師の得手・不得手というものが如実に現れてくるものですが、反面、手術の基本原則や技術の差はそこまで露呈しないというユニークなところがあります。

たとえば、比較的簡単な皮下の腫瘤の摘出においては、医師の技量による差が大きく出ることがあります。これが大きな手術になると、そういった個々の手技が連続的に積み重なっていくことになるのですが、技量の差が前面に出るわけではありません。そういった背景もあって、静脈瘤の手術というのは身体の表層に近い比較的簡単な手術でありながら、技術面では奥深い部分もあるのです。

これまで医療従事者の側からは、下肢静脈瘤の患者さんに対して手術という選択肢を提示することがあまり行われず、患者さんの側もまた手術に踏み切ることがなかなかできない状況が続いていました。これには大きく2つの理由があります。ひとつには下肢静脈瘤が命に関わる病気ではないため、放置してもさして支障がないという判断があったこと。もうひとつは従来の手術方法の問題です。

下肢静脈瘤の手術では、悪くなっている静脈の血管をすべて切除してしまうという方法が標準的に100年来行われてきましたが、これには患者さんへのダメージも相応に大きなものがありました。患者さんが求める生活の質の改善と、それに対して提供できる手術の結果があまりにも乖離(かいり)しているという現実があったのです。

また、罹患(りかん・病気にかかること)された患者さんご本人でなければ、どれほど悩み苦しんでいるのかが分かりにくい疾患であるということもいえます。私自身、がんや命に関わる疾患の手術を中心に研鑽を積んできたのですが、その中で下肢静脈瘤の患者さんの深い苦しみや悩みに直面する機会が何度かあり、頭の片隅にはそのことが常に引っかかっていました。患者さんが満足し得る、バランスのよい治療が結実できていない疾患である、という思いがあったのです。

当時、重症の患者の手術は入院した上で行なっており、麻酔も全身麻酔の大掛かりなものでした。手術を終えた日はベッドの上で安静にしていただき、翌日からリハビリを開始するのですが、手術が順調に終わって麻酔の醒め方もいい患者さんの場合には、手術のダメージもさほど大きくなく、翌日にはもう元気そうにしておられる方が多いということに気が付きました。このことから、麻酔を工夫すれば手術のダメージは外来の治療で対応できるレベルなのではないかというイメージを持つようになりました。

その後、私が勤務先とは別に非常勤で血管外科外来として診療を行っていたときに、ある患者さんから、一週間も入院することが困難なので何とか日帰りで手術ができないかという相談を受けました。その患者さんは80歳代の男性で、脚の痛みや歩行障害もある重症の方でした。

そのお話を聞いたとき、先にあったイメージがちょうど重なりあって、日帰りで手術を行なうことにしたのです。もちろん初めてのケースであり、場合によっては手術後に提携先の病院に入院していただく可能性があるということを事前にご了解いただいた上で、手術を行いました。

こうして麻酔を工夫することによって、それまで入院が必要とされていた下肢静脈瘤の根治的な治療を日帰り手術で行なった結果、経過が非常に良好で、患者さんにも大変喜んでいただくことができました。また、そのことによって自分自身の感覚が間違っていなかったという手応えを得ることもできたのです。

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