2017年5月31日、名古屋第二赤十字病院にて、第41回 八事(やごと)整形医療連携会が開催されました。本記事は、理事長を務める名古屋第二赤十字病院副院長の佐藤公治先生、スーパーバイザーの黒木信之様、名古屋市南区北部いきいき支援センター所長の菊池智子様のお話をもとに作成したレポートです。
・八事整形医療連携会とは
・骨粗鬆症リエゾンサービスとOLS-7について
:名古屋第二赤十字病院副院長 佐藤公治先生
・名古屋市医師会の活動と役割—メディカルエンディングプランとは
:一般社団法人名古屋市医師会在宅医療・介護連携室スーパーバイザー 黒木信之様
・名古屋市南区北部いきいき支援センターの取り組みと今後の課題について
:名古屋市南区北部いきいき支援センター主任介護支援専門員 菊池智子様
八事整形医療連会は、名古屋市八事エリアを中心に整形外科疾患を扱う医療者のグループです。同会は2003年から活動を始め、NPO法人名古屋整形外科地域医療連携支援センターを母体として、地域医療のスムーズな連携、医療者のモチベーションアップ、そして社会貢献を目的として、医療従事者の活動支援を行っています。
骨粗しょう症 とは、おもに加齢が原因で骨がもろくなり、骨折を引き起こしやすい状態をさします。高齢者が骨折すると寝たきりになることも多く、患者さんのQOL(生活の質)の低下につながります。
日本骨粗鬆症学会では、超高齢社会(総人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合が21%以上の社会)において健康格差の縮小と健康寿命の延伸を目標とし、新たに「骨粗鬆症マネージャー」と言う資格を設定しました。骨粗鬆症マネージャーは、骨粗しょう症の予防、診断、治療を通して、広く社会啓発活動を行う専門職です。国家資格ではなく骨粗鬆症学会による認定資格で、医療従事者は誰でも申請を行うことが可能です。
骨粗しょう症の専門スタッフである骨粗鬆症マネージャーの活動指針を「骨粗鬆症リエゾンサービス:OLS(Osteoporosis Liaison Service)」といいます。リエゾンとは連絡係を意味し、骨粗しょう症診療におけるコーディネーターの役割を担います。
骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)には、骨粗しょう症の予防を目的として、医療従事者および施設ごとに患者さんをスクリーニング(抽出)するツール「OLS-7」があります。OLS-7で、あらゆる分野の視点から患者さんをスクリーニングすることが可能です。
※略語説明 ・FRAX:WHO(世界保健機構)骨折リスク評価ツール ・FOSTA:アジア人閉経後女性のための骨折評価ツール=(体重−年齢)×0.2 ・TUG:Time Up & Go test ・JOQOL:骨粗鬆症患者を対象とするQOL評価質問表 ・SF36:健康関連QOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)を測定する評価尺度
骨粗鬆症マネージャーはOLS-7の評価項目を網羅し、継続的に管理していく必要があります。7つの評価項目に対して、それぞれ詳細版、簡易版、ミニマム版の具体的な方法があります。
まずは施設ごとに各項目の段階を設定し、可能な方法から実行していくことが重要です。たとえば項目1は詳細版、項目3は簡易版といったようにそれぞれ設定し、現状で簡易版を採用するものについては、より詳細な方法を計画します。
骨粗しょう症は、前述の通り患者さんのQOLを急激に低下させます。今後ますます高齢化が進むなかで、いかに骨粗しょう症を予防するかという視点は非常に重要な課題です。各施設が、現状どのように骨粗しょう症について意識し行動しているのかを明示化しましょう。それを実現するツールとして骨粗鬆症マネージャー、そしてOLS-7を活用していただきたいと考えています。
2017年度の消費税引き上げ延期で、以下のように国民の負担が増加します。
消費税を10%に引き上げる計画が延期したことにより、国の経済的な問題が懸念されています。予定されていた消費税10%と現状の8%との差は、年間約5兆円にものぼります。消費税収入の減少により国債の返済が叶わず、社会保障給付費が不足している一方、高齢化社会の進行によって年金、医療費、福祉、介護に使うべき社会保障給付費は増加し続けています。
国家の収入が減って支出が増えれば、財政が破綻します。そのような事態を回避するため、国は改善策として、診療報酬のマイナス改定・地域包括ケアシステムの推進・地域医療構想の再編などを打ち出しました。
消費税引き上げ延期による問題に加え、2025年頃には団塊の世代(1947〜1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者に達することで、医療・介護を中心とした社会保障費の急増が予測されています。(2025年問題)このような状況を懸念して、社会保障予算を削減するためのいくつかの方針が示されました。そのなかに、地域包括ケアシステムと地域医療構想の推進があります。
地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムです。
地域医療構想では、2025年問題を受けて医療・介護提供体制の再編を行います。地域内の病床の機能分化、医療機関の連携を強化することにより、病床不足を回避します。
この2つのシステムを推進するには、地域の医師会と介護保険業事業の両輪が不可欠で、入院から在宅医療へ、施設から地域へと医療から介護への移行を目指し、地域内の各施設が協力する必要があるのです。ただ、退院までの時間が短縮されることで患者さんの反発・不満が発生するケースもみられ、医療現場ではシステムの浸透までに課題があると認識されています。
2011年に、厚生労働省は在宅医療連携拠点推進事業を開始しました。これは住み慣れた地域での国民の生活をサポートし、医療・保健・福祉のあらゆる支援提供によって、国民が自宅で最期を迎えることを理想に掲げた事業です。在宅医療を提供する機関を拠点とし、地域の医師、歯科医師、看護師、薬剤師、社会福祉士など多職種の協働によってサポート体制を構築します。
2014年には在宅医療連携拠点推進事業モデル事業の一環として、名古屋市を4区にわけ、各区に在宅医療・介護連携支援センターを設置しました。中核センターのみ3名体制、ほかは2名体制で、各センターは区役所や保健所、いきいき支援センターと連携しながら運営を行っています。2015年には名古屋市で8区事業へ、2016年には16区事業へと細分化され、名古屋市すべての区域への支援センター設置が実現しました。現在では計36名の支援相談員(看護師・医療ソーシャルワーカーなど)が配置されています。
<住民からの相談>
<ケアマネージャーからの相談>
<いきいき支援センターからの相談>
<病院からの相談>
<訪問看護ステーションからの相談>
現在、在宅医療・介護連携支援センターには以上のようにあらゆる相談が寄せられています。これらの相談に対応しながら、医療者・介護者向けの研修会に加えて、住民向けの研修会なども開催しています。なかでも、これから在宅医療を含めて高齢者の終末期についてその意思決定を促す「リビングウィル(living will)」の研修は、特に存在意義が大きいと考えています。リビングウィルについては次章で詳しくご説明していきます。
これまでご説明したように、国が示す医療政策はトップダウンで行政や医療機関に伝わり、システムを推進することで、地域へ徐々に浸透する形となっています。国がイメージする世界を実現するためには、現場の医療従事者や各施設の協力体制が不可欠です。
2017年には、先述した地域包括ケアシステムの対象に精神障害の方、難病患者さん、小児重度障害児が追加されました。この変化に対応するには、拡大された対象者に対応可能な相談員の人員を増やし、資質を向上させる必要があります。このように今後も、国の医療政策に沿う形でシステムを推進していくことが重要です。
現在の医療では、救急患者さんが病院に搬送されてきた際に、徹底して延命処置を施します。しかし先述のように2025年問題に対応するため、病院の役割が徐々に変化しつつあります。そのような流れのなかで、患者さんがどのように病院を活用するか、そして高齢者を含めて私たちがどのように人生の最期を過ごすのかを、改めて考え直す必要が出てきました。
このように終末期の医療行為について決定することを「メディカルエンディングプラン」と呼びます。
上記のような理由から、名古屋市の在宅医療・介護連携支援センターでは、医療制度の変化(地域医療構想、病院の機能分化など)について理解を深める機会として、地域住民に向けて研修会を行っています。特に今後、リビングウィルの考え方は非常に重要になっていくと予測されます。リビングウィルとは「尊厳死」、つまり本人が延命処置を断り自然に死を迎えることです。医師などの第三者が薬物などを用いて患者さんの命を積極的に経つ「安楽死」とは異なります。
1・ 医学的に回復不能な状態
2・ 意思能力のあるときに尊厳死の希望がある、意思確認のできない場合は近親者証言に基づく
3・ 延命医療中止は担当医が行う
1・ 告知について
2・ 延命について
3・ 医療・看護・介護について
4・ キーパーソンについて
5・ 財産管理について
6・ 費用について
7・ エンディングの医療について
8・ 署名について
人生の最期は、いつどこで訪れるかわかりません。ですから私たちの誰もが、生前に意思表示をしておく必要があるのではないでしょうか。特に高齢者の場合は、病気や認知症で延命治療の判断が不可能になる確率が上がります。医療技術の発展により、以前よりも高度な延命治療が可能になりました。救急医療の現場では、本人の意思が確認できない場合、家族や担当医が治療内容を決定しています。自分自身で判断が困難な状態に陥ったとき、どのような意思決定をするのかを健康なうちに示しておくことで、その意思は守られるのです。
2005年、介護保険法に地域包括ケアシステムが追加されました。2006年には、システムの推進を目的として全国各地で地域包括支援センターが開設されました。
高齢化が進行するなかで、医療と介護・福祉の協力は最大の課題です。しかし現状では、医療と介護・福祉はうまく情報共有ができておらず、より協力体制を強化していく必要があります。名古屋市南区北部いきいき支援センターでは、2025年問題を見据えてあらゆる取り組みを行っています。
地域内には、あらゆる医療機関と医療従事者が存在しています。いきいき支援センターの役割は、それらのあいだをつなぐコーディネーターとして地域ネットワークを構築することです。地域包括システムという仕組みがあるだけでは、うまく機能しません。そのシステムを上手く地域の施設や人々につなげ、実際に機能するよう働きかけることが重要なのです。
名古屋市南区北部いきいき支援センターでは、上記のようにあらゆる機関との連携を進めています。行政や保健所、警察署といったフォーマルなサービスを担う機関から、大学や弁護士などのインフォーマルなサービスを担う機関までを対象に、ネットワークへの参加促進、研修や交流会の企画、個別支援、地域ケア会議の開催などを通して地域ネットワークを構築しています。
なかでも特に力を入れている取り組みが、個別支援と地域ケア会議です。
個別支援では、おもに高齢の患者さんと地域のあらゆる機関(病院、ケアマネージャー、行政、地域住民、ボランティアなど)とつなぎ、最終的に地域全体のネットワークのなかに患者さんを入れ込み、スムーズな連携体制を作ります。最近では、Dネット(認知症カフェネット)や、チーム8050というネットワークを構築した実績があります。
Dネット
Dネットとは、dimentia(認知症)ネットワークの略語です。認知症カフェの関係者から、「認知症の患者さんと病院をつなげたい」と相談を受けたことをきっかけに、精神科医療機関や在宅医療介護連携支援センターなどとのネットワークを構築しました。
チーム8050
1980年代に引きこもりが社会現象になりました。それから30年余り経過し、当時10〜20代だった引きこもりが歳を重ねて40〜50代になり、その親世代が70〜80代の高齢者になりました。親世代のなかには、認知症や要介護の状態になる方も出てきます。そのような家族に対して、生活・医療のみならず、経済的な面からもサポートできるよう、障害者基幹相談支援センター、行政などと連携を取り合う仕組みを構築しました。
地域内の多職種のメンバーが集まり、個別支援を経て抽出された地域課題を解決に導くための取り組みを進めます。現在、名古屋市南区北部いきいき支援センターでは年に6回定期的に場を設けています。会議のメンバーには保健師、看護師、社会福祉士、主任ケアマネージャーなど専門職がそろい、個別支援での経験を基軸に地域内の課題を解決に導きます。
現在、私たちはインフォーマルな地域資源、なかでも特に地域住民との連携を最大の課題と捉えています。
地域住民から「医療機関は住民との距離が遠いと感じる」と指摘されたこともありました。名古屋市南区北部いきいき支援センターは2006年の発足から10年余りが経過しましたが、地域住民にとっては新参者であることに変わりありません。地域の課題を解決するために行政システムを構築していきなり導入しようとすると、住民から強い反発が起こることがあります。そこで私たちは、先導してシステムを導入するのではなく、実情を伝えたうえで住民自ら行動できるような形を取り入れています。
これまでの努力が実り、徐々に地域内の連携がスムーズになってきたように思います。まだまだインフォーマルな活動をフォーマルな仕組みに導入する難しさはありますが、私たちはこれからも地域内のネットワーク構築を続け、「向こう三軒両隣の組織化」を目指します。