院長インタビュー

「世田谷区唯一の地域医療支援病院・関東中央病院の取り組み」

「世田谷区唯一の地域医療支援病院・関東中央病院の取り組み」
新家 眞  先生

地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 非常勤、神奈川歯科大学附属横浜クリニック 客員教授

新家 眞  先生

この記事の最終更新は2017年06月09日です。

公立学校共済組合 関東中央病院は田園都市線・用賀駅から徒歩25分、自然の豊かな広い敷地に建つ総合病院です。古くは公立学校の教職員の健康管理を目的に建てられた病院でしたが、近年は世田谷区民の健康・安全を守る、地域の中核病院として周辺住民から信頼されています。

今回は、関東中央病院の沿革や診療科の特徴、病院の取り組みについて、院長の新家眞先生にお話しを伺いました。

関東中央病院は1953年、前身である「世田谷三楽病院」が開院したことにより歴史が始まります。元々公立学校の教職員の健康管理、特に結核を治療するために作られた結核病棟という背景もあり、ゆっくりと静養できるような、桜並木のある自然豊かな環境に位置しています。

そして当院は1956年より公務員対象の共済組合の中では最大規模である「公立学校共済組合」の病院としての運営をスタートしました。当時から今日に至るまで、全国の公立の小・中学校、高等学校、そして大学に勤める教職員、またはそのご家族の健康と福利厚生を担ってまいりました。

総合病院として現在の関東中央病院に名称を変え、地域の患者さんにも本格的に医療を提供するようになったのは1956年からです。このころにはすでに結核が治療で治るようになっており、当院もさまざまな診療科を増設し始め、幅広い医療を提供できる中核病院に変化していきました。

現在は診療科が全32科、病床数403床の地域に愛される総合病院として世田谷区民の健康を守っています。

新家眞先生

関東中央病院は上記のように公立学校の教職員の健康を維持する目的で開設された歴史があるため、現在でも全患者さんのうちの約10%は公立学校の教職員です。特に「昔結核、今メンタル」といって、近年学校の教職員の健康で最も問題になっているのは「メンタルヘルス」の問題です。

そこで公立学校共済組合は2015年より学校教育に携わる教職員を対象にメンタルヘルス事業を開始しました。これに応じて当院は「メンタルヘルスセンター」という専門医師、臨床心理士、スタッフからなるチームを作り、東日本の教職員のメンタルヘルスを統括しています。2018年にはメンタルヘルスセンターとしての新たな建物も完成する予定です。

<メンタルヘルスセンターの主な取り組み>

・ストレスチェック

・メンタルヘルス講習会

・カウンセリング

・休職中の教職員に対するコンサルテーション、リワークプログラム、復職審査

・復職した教職員のフォローアップ など

現在は上記のような内容で公立学校の教職員を対象としたメンタルケアが主な取り組みとなっていますが、今後は学校の教職員以外の患者さんにも広く門戸を開いていく予定です。2015年には厚生労働省により50名以上の社員を持つ一般企業でも、メンタルヘルスチェックが義務化される法律ができました。この法律を踏まえ、今後は一般企業を対象にしたメンタルケアにも従事していきたいと考えています。

医師

関東中央病院は開院当初、主に東京大学医学部の第二内科から多くの医師を迎えた経緯があり、歴史的に内科系の診療科が強い背景があります。しかし近年は、外科系の診療科も大変活躍しており、全32の診療科で力を合わせて診療を行っています。ここでは中でも特徴的な取り組みを行なっている診療科を7つご紹介します。

神経内科では、急性期の脳梗塞パーキンソン病、アルツハイマー病などの認知症頭痛てんかん、筋疾患、末梢神経障害などの幅広い疾患を扱っています。特にパーキンソン病の診療・研究では世界的にも高く評価されています。

消化器内科は消化管領域、肝胆膵領域の専門医が治療に取り組んでいます。胃がん大腸がん・閉塞性黄疸の内視鏡治療には定評があり、肝臓がんのラジオ波焼灼療法は都内でもトップ5に入る症例数を誇っています。

循環器内科・心臓血管内科が協力し、ハートセンターとして心臓血管のステント治療、カテーテル治療及び心臓大血管手術に従事しています。また2015年には心臓リハビリテーションも開始し、患者さんの機能回復・社会復帰にも貢献しています。

糖尿病、内分泌疾患(甲状腺、下垂体、副腎など)、骨粗鬆症等の内分泌代謝疾患を診療しています。世田谷区有数の規模を誇る糖尿病外来は、他の診療科と綿密に協力し合併症の治療にも対応しています。創立42年の歴史ある当院糖尿病患者会のけやき会は、会員相互の親睦と知識の向上を目的としており、優秀患者会として多くの受賞歴が有ります。

児童思春期の治療や精神療法を専門とする精神科医師が診察を行っています。都内でも数少ない児童思春期専門病棟を持っており、20歳未満の方の、不登校、ひきこもり、対人恐怖症、家庭内暴力、摂食障害強迫性障害適応障害、身体表現性障害、不安障害、うつ状態などの治療にあたっています。外来でも成人期から老年期の方まで幅広い診療を行っています。

昨今は外科医の減少が医療界の課題になっていますが、当院では副院長の河原正樹先生が尽力し、優秀な外科医師が多数在籍しています。特にがんの外科治療を精力的に行なっています。また女性外科医師が担当するレディスケア外来も特徴的で、女性のデリケートな疾患を安心して治療できる環境を整えています。

 世田谷区及び沿線地域に根ざしたブレストセンターの役割を目指して設立されました。検診、低侵襲・縮小手術、薬物療法、放射線治療、核医学などあらゆる診療を行っています。形成外科チームと協力し、乳癌手術と同時再建も可能です。ただし現在、終末期・緩和医療には対応できていません。

健康管理科は2017年より「健康管理センター」と名を新たにしました。従来は公立学校の教職員を対象とした人間ドックが主な役割でしたが、今では教職員以外の受診者が半数近くとなり、生活習慣病の早期発見、健康管理に役立てていただいています。「専門ドック」といって日本人が罹患しやすい白内障緑内障などの検査を目的とした「眼のドック」や高齢化で需要が高まっている物忘れの検査に特化した「物忘れドック」など心配でありながら他では見受けられないドックも受診者の方に人気です。

関東中央病院が位置する世田谷区は人口90万人と23区中最大の区です。しかし、実は地域の患者さんを総合的に診療できるような大きな病院があまり多くはありません。そのため当院は世田谷区で唯一の地域医療支援病院として、地域の医療の中核を担っています。

近年地域の方が病気になった場合は、まず地域のクリニックで診療を受け、必要であればその地域の地域医療支援病院を受診し、そこで治療し、退院後は地域のクリニック、在宅医療の先生が引き続き見守るという地域完結型の医療が推進されています。

このような医療を実現するためには私たちのような地域医療支援病院が、地域のクリニックや在宅医療の先生と強い信頼関係を築かなければなりません。

そのため当院では世田谷区の地域の患者さんを守る2つの医師会「世田谷区医師会」「玉川医師会」の先生方と、年に2回ほどの全体懇談会・勉強会を行っています。

また当院は地域医療支援病院としての歴史がまだ浅く、2012年に認定されたばかりです。そのため、理想的な地域完結型の医療を実現するには、まだまだ課題もあります。

当院で急性期の治療を受けた患者さんがスムーズに社会復帰やご自宅・施設での生活を再開できるように、2017年5月より、新たに地域包括ケア病棟を本格稼働させました。地域包括ケア病棟は急性期の治療が終わった患者さんの中で、まだご自宅や施設に帰って自活的に生活を送るのが難しい患者さんを対象に、長期的に入院していただき、リハビリなどを受けていただく病棟です。

この病棟を機能させるため、当院はリハビリを指導する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の充実を図っています。すでに15名の職員が活躍していますが、患者さんの数に合わせさらなる動員を検討しています。

救急車

関東中央病院は地域医療支援病院として、もちろん救急医療にもとても力を入れています。断らない救急を目指し、80%以上の受託率を誇っています。当院は二次救急ですが、高度救急救命センターや大学病院など三次救急の医療施設と同じくらいの救急車を受け入れており、その数は年間およそ5,000件ほどです。

これだけ多くの患者さんを受け入れるための工夫としては、巧みなベッドコントロールが必要です。当院では夜間の救急専用ベッドという枠を作り、救急患者さんを一時的に確実に受け入れられる環境を作っています。

この枠を作ることにより、確実な受け入れができることはもちろん、1か所のベッドで診療科をまたいで検査や処置を行うことができます。救急患者さんのほとんどは、必要な診療科がその場ですぐわかるとも限りません。そのため、一時的にすぐ受け入れられるベッドを確保し、そこで治療や応急処置を行うことで、患者さんに多方へ移動していただくことなく、効率よく診療を行うことができます。

これだけ多くの救急患者さんに安心・安全の救急医療を提供するには、地域の救急隊員とのチームプレイが不可欠です。そこで当院では病院スタッフと救急隊員との懇親会を年に2回開催しています。

医師と救急隊との間で必要な共有事項はさまざまなものがありますが、例を挙げるならばその日の当直でどんな診療科の医師が待機しているのかを救急隊が知っていると受け入れがスムーズになります。私たちのような地域の総合病院では、夜間救急といっても毎晩全診療科の医師が駐在できるわけではありません。今日どんな診療科の医師が駐在しているかを救急隊員が把握して入れば、患者さんを速やかに受け入れることもできます。

また関東中央病院は世田谷区の3つの災害拠点病院のうちの1つという側面も持っています。そのため自家発電や貯水の整備も2017年3月には全て最新のものに更新し終わっており、災害時には3日間十分な医療行為が行えるだけの蓄えがあります。

いざという時に備え、当院では年に2回の災害時予行練習を行っています。この予行練習は当院のスタッフを中心に、地域の医師会の先生、警察、消防、町内会の方など毎回数多くの方にご参加いただきます。

災害はいつやってくるかわかりません。夜間など医師の少ないタイミングで起こった際には地域のクリニックの先生方の協力が非常に重要です。また、患者さんにも救急車で運ばれてくる方もいれば、徒歩でいらっしゃる方もいます。そのような混乱状態で、適切な医療を提供できるよう、日頃からきちんと訓練をしておくことは非常に重要です。

当院では患者さんに親身で安心できる医療を提供するため、医師・看護師・研修医への教育体制にも力を入れています。そのため、医学生の方からの人気も高く、定員8名のところ毎年40〜50名の方が応募します。看護教育にも力を入れており、認定看護師の在籍数が多いことも特徴です。

また2018年度より始まる新専門医制度に向けて、当院に勤める医師の専門医取得をサポートするべく、麻酔科はすでに基幹施設の認定を受けており、内科についても基幹施設の申請を行なっております。

世田谷区は土地柄として、環境がよく穏やかなためか、地域の患者さんも暖かく、共に医療を行う地域のクリニックの先生方も真面目で雰囲気のよい方が多い等、全体として暖かい雰囲気が漂っています。

そのため当院で働くスタッフも、この環境に調和した真面目で思いやりがあり医療人としての意識がきちんと備わった方が多いように思います。これからも口先だけではなく、心から患者さんのことを考え、診療や看護、ケアに当たれる方に多く集まって欲しいと思います。

新家眞先生

当院は地域医療支援病院として、地域の患者さんに対し、高度かつ安全な医療を提供している自負があります。また、スタッフの人柄が穏やかで患者さんに対し非常に良心的なスタッフが多いことは、この病院の1つの大きな魅力です。

これからも疾患や怪我、災害など困ったことがあった時、地域の方に「何かあった時は関東中央病院にみてもらおう」と真っ先に思っていただけるような病院として、活躍していきたいと思います。

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  • 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 非常勤、神奈川歯科大学附属横浜クリニック 客員教授

    新家 眞  先生

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