1985年に開設された社会医療法人名古屋記念財団 名古屋記念病院は、日本でも高齢化の進みが比較的緩やかな名古屋市東部に位置し、分娩や小児医療、そして高度ながん治療まで幅広く診療を行う総合病院です。この地域の中核的な病院として、同院が行っている取り組みに関し、病院長である長谷川 真司先生にお話を伺いました。
当院はがんと免疫を中心とした総合病院として、1985年に開院しました。以来、人口の増加と地域経済の発展が見込まれるこの地域にとって欠かすことのできない医療機関を目指して、地域の医療ニーズに合わせて病院機能を充実させてきました。
救急病院の指定を取得したのが1993年で、2007年に災害拠点病院、2009年に地域医療支援病院に、それぞれ指定・認定を受けています。2011年には社会医療法人となり、公益性の高い医療機関として、救急医療・小児医療などにも注力しています。
当院は、2001年に愛知県ではじめて“開放型病床”を設置しました。開放型病床とは、かかりつけ医の先生と当院の医師とが、入院中に主治医・副主治医として協力して診療するための専用の病床です。患者さんは退院後も引き続きかかりつけ医の先生が診療するため、安心して継続性のある治療を受けることができます。
過去には、子どもの目の病気を得意とする開業医の先生からの依頼があり、手術を当院医師と一緒に行い、術後の管理は当院眼科医と小児科医で行った事例もありました。当院は入院を要する小児患者さんのケアをもともと多く実施していますので、安心して任せていただきました。
当院は地下鉄・市営バスの最寄り駅から徒歩1分と交通のアクセスがとてもよく、子どもから高齢者の方まで、幅広く、たくさんの患者さんがいらっしゃいます。
当院がある名古屋市天白区平針は、名古屋の中心部である伏見と、日本の工業(経済)をけん引している豊田市とを結ぶ地下鉄鶴舞線の中央に位置します。そのため、転勤などで名古屋以外から移り住む方や、環境のよさから子育てのために移り住む若い世代の方も多く、人口は増え続けてきました。また、15歳未満人口がほかの地域より多く、少子高齢化は全国平均と比べて10年くらい進行が遅れています。
当院は地域の二次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担う救急病院として、365日24時間体制で救急医療に積極的に取り組んでいます。病床数は416床で、集中治療室(ICU)を備え、さまざまな急性期症状に対応し、患者さんを救うための努力は惜しみません。
2023年度の救急車受け入れ台数は年間6,500台*を超えました。コロナ前は年間約4,000台で推移していましたが、2022年度、2023年度には年間6,000台を超え、2024年度は昨年を上回ると予想しています。実は、名古屋市全体で救急搬送が増えており、それに伴い当院での受け入れ台数は年々増加しています。当院では内科系・外科系どちらにも救急対応していますが、症例数では内科系疾患の方が多く、年齢的にはご高齢の方が多数を占めています。
*救急車受入件数……2022年度:6,312件/2023年度:6,514件
循環器内科では、2023年度から不整脈治療の1つとして、カテーテルアブレーション治療を再開しました。心房細動を根治できる可能性がある治療法ですので、効果が期待できる患者さんには積極的に実施していきたいと考えています。
また、2021年から当院オリジナルの心不全手帳“まいにち は~とダイアリー”という手帳を運用しています。この手帳は、普段はかかりつけ医の先生の診療内容などを書き込んでいただき、当院を受診する際には手帳を持参していただくことで、心不全の患者さんの指導・管理に活用するものです。心不全の患者さんを地域全体で診ていこうと考えて始めた取り組みですが、名古屋市医師会全体で使っていこうという話が進んでいます。
そのほかにも、小児科では食物アレルギーをはじめアレルギーの専門医(日本アレルギー学会認定)がいることから、保健センター(保健所)と合同でホットラインを構築し、保育所や幼稚園、学校などの給食でアレルギー症状が発生した場合の窓口になっています。このように当院では、地域の皆さんの医療ニーズに応えるため、診療体制の強化を続けています。
1985年の開院当初から、がんを重点的に治療する腫瘍科を診察科目に取り入れ、がん医療に積極的に取り組んできました。当院には、約40年間蓄積された臨床データと臨床経験を積んだ優秀ながん治療医がおり、エビデンス(証拠)に基づいたがん治療を適切に行う医療体制があります。中でも内科、小児科、外科、整形外科、産婦人科などにはその分野におけるがんの診断・治療を専門とする医師が在籍しており、多職種で協力して診療にあたっているのが特徴であり強みです。
たとえば、大腸がんなど消化器のがんにおいては、消化器内科、消化器外科、血液・化学療法内科(抗がん剤治療の専門)が連携し、診断や治療方針を決定します。また、栄養サポート、口腔ケア、疼痛対策などはがん治療専門の医師に加え、認定看護師、薬剤師、管理栄養士、提携歯科医師など多職種でチームを組んで取り組んでいます。さらにがん相談支援センターでは医療ソーシャルワーカー、臨床心理士なども含め、みんなで患者さんやご家族のさまざまな課題の解決に取り組んでいます。
近年は体への負担が少ない低侵襲な手術を希望する患者さんが増えています。そこで2023年4月に手術支援ロボット“ダヴィンチ”を導入し、同年5月30日から運用を開始しました。
ダヴィンチは先端にカメラや手術器具が取り付けられた内視鏡を体内に挿入し、映像を見ながら手術などを行う内視鏡手術を支援するロボットで、開腹による手術より傷口が小さく、術後の回復が早いなどといった特徴があります。2023年度だけで症例が100例を超え、そのうち大腸・結腸の症例数が59件に達するなど着実に実績を積んでいます。現在、消化器系では大腸がん・直腸がん・結腸がん、泌尿器系では前立腺がん、婦人科系では子宮筋腫などで実施しており、今後もロボット支援下手術をさらに強化していく予定です。
2001年には地域のみなさんからの要望もあり、現在の産科病棟を開設しました。当院がある天白区には、分娩ができる施設が当院と他のクリニックの2つしかなく、出産ができる総合病院としての自負を強くしています。
現在は自然分娩を基本に、分娩時の立ち会い出産や、母乳哺育、母児同室などを推進していますが、今後は無痛分娩にも取り組む予定です。高齢出産や内科疾患を持つ方に対しては、総合病院であることをいかし、妊娠中から分娩まで、産婦人科だけではなく、内科医や小児科がチームを組んで見守っています。妊娠中に悪性腫瘍の初期病変が発見され、経過観察を経て、出産後に手術をして完治するケースも年に数件あります。妊娠をきっかけにがんを早期に発見できたと考えられるでしょう。
また近年は、若年層における婦人科検診も盛んになってきました。その点において当院では、婦人科での子宮がんと放射線科でのマンモグラフィを同日検診することができます。
小児医療については、地域医療を充実させるため、1996年に小児科を開設しました。そのときに赴任した最初の小児科医が私でした。現在では大勢の小児科医がおり、365日24時間で小児の救急医療に対応できる体制を敷いています。
院長に就任してすぐに、職場環境改善チームを作りました。「職員が自分の仕事に満足していなければ、患者さんにも満足していただけない」と思い、さまざまな職場環境改善に努めてきました。
以前から職員が子育てと仕事を両立できるように、就学前のお子さんを預かる院内託児所を設置したり、食堂を拡充させたりするなどのハード面の拡充の取り組みをしてきましたが、職員用のご意見箱を設置し、相談窓口を設けるなどのソフト面も対応も強化させ、職員全員の満足度を高める努力をしています。
当院は、もともと地域連携に力を入れており、開放型病床や依頼検査システムといった地域の開業医の先生方との連携にいち早く取り組んできました。このような取り組みが認められ、2009年に地域医療支援病院の承認を受けました。地域の開業医の先生方との連携を示す紹介率は75.8%、逆紹介率は78.6%(2023年度)と、非常に高い数を示しています。また地域の歯科医の先生に、当院の入院患者さんの口腔機能を診療してもらう仕組みをつくり、医科歯科連携のネットワークを広げています。
また、当院は、愛知県の民間医療福祉グループ「HOSPY(ホスピー)グループ」の一員です。HOSPYグループは、当院のほかに、腎・透析合併症治療や回復期、慢性期治療を担当する新生会第一病院、維持透析施設である7つのサテライトクリニック、地域介護の中心となる新生楽舎、身体障がい者の方のための施設である「あしたの丘」を有し、医療・介護・福祉の広い領域でサービスの提供をしています。グループ内の連携もいかし、これからも地域に貢献していきたいと思います。
私たちは、“地域医療のために当院はなにをすべきか”と常に問い続け、患者さんの要望や地域のさまざまなニーズなど、社会情勢や医療環境の変化に対応してまいりました。今後もこうした努力を続け、これからの高齢化社会においては“困ったときに頼れる病院、いつもそばにある病院”を目指していきます。
また、子どもたちも街も成長し続けるこの地域唯一の総合病院として、優しさと安らぎを提供し、地域のみなさまからより信頼されるよう全力で取り組んでまいります。
*写真提供:名古屋記念病院
*病床数や医師数、診療科、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年11月時点のものです。
名古屋記念病院 病院長
長谷川 真司 先生の所属医療機関
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