公益社団法人 北部地区医師会 北部地区医師会病院は沖縄県名護市にある急性期病院です。近隣の沖縄県立北部病院と連携をはかりながら、健康診断や急性期・慢性期疾患の治療を提供することで、同県の北部地区全域の医療をカバーしてきました。
また、医師会によって設立された医療機関として地域診療所の後方支援という役割も担っています。今回は、同院の取り組みや今後の展望について、院長である諸喜田 林先生にお話を伺いました。
当院が設立されたのは1991年のことで、それまで沖縄県の北部地域には沖縄県立北部病院(旧沖縄県立名護病院)しかありませんでした。北部地域の方々は、高度な医療機関を求め中南部の病院へ受診することが多く、患者さんやご家族にとって精神的・経済的に大きな負担がかかっていました。そのような状況を打破するため、北部地区医師会によって開設されたのが「北部地区医師会病院」です。
設立以降の約10年間は苦しい経営状況にありましたが、2006年には近隣に外来での血液透析療法を提供する「ちゅら海クリニック(腎臓病医療センター)」を開設するなど、医療機関としての機能の拡充を図ってきました。
診療科は、消化器内科、消化器外科、呼吸器・感染症科、内分泌内科、整形外科など14の科目(2024年10月時点)があり、2017年に新設された皮膚科は北部地域で唯一の入院治療を提供する皮膚科として、周辺住民の診療にあたっています。
また、健康管理センターを有する当院は、がん検診や生活習慣病健診、人間ドックといった健康診断にも力を入れてきました。同センター内での健診にとどまらず、県北部エリアの各地域に健診(検診)車を派遣し、10市町村にわたり住民健診を行っています。
消化器内科では、在籍する6名の医師(2024年10月時点)が、胃・大腸・肝臓・胆道・膵臓など幅広い消化器系疾患の診療を行っています。検査にも力を入れており、内視鏡検査は年9,000件近く実施し、そのうち胆膵内視鏡検査(内視鏡的逆行性胆管膵管造影・ERCP)は年約150件*と増加傾向にあります。また、内視鏡検査医と常に連携を図りながら診療にあたっており、相互にチェックしながら質の高い医療を提供しているのが当院の特徴です。
*検査実績(2023年度)……上部消化管内視鏡検査/7,584件、下部消化管内視鏡検査/1,267件、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)/158件
一方、消化器外科には9名の医師(2024年10月時点)が在籍しています。同科では、低侵襲(体への負担が少ない)で術後の早期回復が期待できる腹腔鏡下手術を積極的に実施しており、消化管手術における鏡視下手術の割合は年々増加傾向にあります。肝がんや膵臓がんの手術についても同様で、鏡視下手術を積極的に取り入れるなどして手術症例が増加しています。
また、食道と胃を専門とする先生が着任したことから、2024年から食道の手術と肥満の減量手術を開始しています。肥満の減量手術については、2023年の5月より保険適用となり、2024年10月までに6件の手術を実施しました。肥満の減量手術は胃の一部を切除する手術で、沖縄県は肥満の方が多いと言われていますので、受診される方は今後も増えるのではないでしょうか。
がん治療の分野では、消化器がん、乳がんを中心としたがん治療に注力しています。たとえば、大腸がんでは内視鏡による検査はもちろん、ポリープ切除も積極的に行っています。外科的な手術が必要な場合には、患者さんへの負担を考慮して腹腔鏡下手術を積極的に採用し、大腸がん手術の8割強を腹腔鏡下で行っています。
また、乳がんではマンモグラフィ検査と乳腺エコ―検査のいずれも実施しており、治療では外科的手術と抗がん剤やホルモン剤による薬物療法を患者さんの病状や希望に合わせて行います。このように、当院のがん診療は早期発見・早期治療に努めており、化学療法も含めた集学的治療ができる体制を整えているのが特徴です。
呼吸器・感染症科では、4名の医師(2024年10月時点)が肺炎や気管支炎、喘息といった頻度の高い疾患から、間質性肺炎や結核など専門性が求められる疾患まで幅広く診ています。2020年からは同科が中心となって、新型コロナウイルス感染症の診療にあたりました。
また、グラム染色に造詣の深い医師が在籍しており、当院の特色の1つとなっています。グラム染色とは細菌を染色してその種類を特定するための技術で、当院ではグラム染色による喀痰検査(採取した痰の中にある細菌の有無や種類を調べる検査)を実施し、感染症を引き起こしている細菌を調べて治療に役立てています。
私が院長になって最初に着手したのは、事務スタッフがしっかりと病院をマネジメントできる環境を整えることです。具体的には、医師やコメディカルスタッフなどとも職種間を越えて協同し、働いていけるような環境づくりに取り組みました。事務スタッフがしっかり病院をマネジメントすることができれば、院内が一丸となった医療提供が行えるのではないかと考えたからです。
このような環境を実現させるために、経営推進室という部門をつくりました。同部門に所属するスタッフは、院内でうまく機能していない部門の支援を主な仕事とします。たとえば、情報発信ツールとして長年の懸念事項であったホームページ制作は経営推進室が手掛け、患者さんから見やすくなったと好評をいただきました。
また、医療保険診療を行っているなかで、コンプライアンス強化を目的に医療機関の機能や設備、診療体制など、改定毎に変更が生じるさまざまな基準を管理する施設基準管理室も立ち上げました。施設基準管理室が中心となって取り組んだ地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟の開設や運営などは、院内各部署と協働してプロジェクトを成功に導いています。
このように、事務スタッフは病院のマネージャーとしてしっかりと力をつけており、当院の財産になっています。
北部地区によりよい地域包括ケアシステムを構築するため、当院は在宅療養後方支援病院として、入院が必要な在宅療養中の患者さんを24時間体制で受け入れる体制を整えました。在宅療養後方支援病院とは、在宅医療を提供している医療機関の後方支援を担う病院のことで、当院はあらかじめかかりつけ医の先生方と連携協定を締結しています。今後も、こうした医療体制を整備することで、地域の包括ケアシステムの構築に貢献したいと考えています。なお、この仕組みによる入院の受け入れは、連携している医療機関からの依頼によりますので、ご希望の場合はかかりつけ医の先生にご相談ください。
すでにご存じの方は多いかと思いますが、当院は県立北部病院と統合し、2028年度に新しい病院“公立沖縄北部医療センター”に生まれ変わります。これにより沖縄県の北部医療圏で唯一となる、高度急性期・急性期病院が誕生します。病床数は450床で、2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)や3次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を中心に救急医療を提供する、地域救命救急センターの指定を目指す計画です。また、北部医療圏で安心してお子さんを産み育てていくことができるように、24時間体制で周産期医療を提供する地域周産期母子医療センターの指定も目指しています。
北部医療圏では現在、医師の偏在が懸念事項になっており、一部の疾患については中南部の病院に紹介せざるを得ない状況にあります。しかし、新病院の誕生で医療機能が強化され、地域の皆さんが受けられる医療の質はかなり向上するはずです。
当院は設立以来、北部地域の中核的な病院として“地域医療への貢献”を理念に掲げて診療にあたってきました。そのなかで最近感じているのは、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の重要性です。ACPは患者さんが受ける医療やケアについて、患者さん本人の要望を限りなく取り入れるため、ご家族や医療スタッフが一緒になって話し合う取り組みを指します。周辺の地域はお子さんが遠方で暮らしている高齢者世帯が多く、1人暮らしの世帯も少なくありません。そのようななか、できるだけ患者さんの意向に沿った医療を提供するにはACPに取り組む必要があると考えています。我々医療スタッフは、患者さんの要望に可能な限り応えるための努力を惜しみません。ぜひ皆さんには、将来どのような医療やケアを受けたいのか、積極的に意思表示していただけたらと思います。
*写真提供……北部地区医師会病院
*診療科や医師数、提供している医療の内容等についての情報は全て2024年10月時点のものです。
北部地区医師会病院 院長
諸喜田 林 先生の所属医療機関
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まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。