院長インタビュー

充実した総合診療とシームレスな医療を実践するJCHO東京新宿メディカルセンター

充実した総合診療とシームレスな医療を実践するJCHO東京新宿メディカルセンター
関根 信夫 先生

独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京新宿メディカルセンター 院長

関根 信夫 先生

この記事の最終更新は2018年05月10日です。

独立行政法人 地域医療機能推進機構 (通称:JCHO) 東京新宿メディカルセンターは、急性期医療から生活習慣病までの慢性疾患、がん治療、リハビリテーション、そして緩和ケアなど、さまざまな局面におけるチーム医療を中心に高度な医療を提供しています。

多様なニーズに応える病棟を有し、東京都がん診療連携拠点病院としてがん医療水準の向上に努める同院では、どのような取り組みを行っているのでしょうか。同院の院長である関根 信夫先生にお話を伺いました。

病院外観(画像提供:東京新宿メディカルセンター)

当院は1952年の開設以来、「東京厚生年金病院」として長らく、地域の方々をはじめ、広く国民のみなさまの病気の治療と健康維持に力を尽くしてまいりました。開設当初は、整形外科・外科・内科の3科のみを構える病院でしたが、その後、職員数・病床数ともに拡大し、1965年に526床の大規模総合病院となりました。現在地域のニーズに応じて、集中治療室や一般病床(7:1看護体制)、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、緩和ケア病棟など計520床を有し、さまざまな疾患・病状の患者さんのケアを行っております。

2014年4月からは「独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO) 東京新宿メディカルセンター」と名称を変更し、新たにスタートすることとなりました。現在は、より一層地域医療に貢献すべく基幹病院としての責務を果たせるよう努力しております。

当院はJR総武線や都営大江戸線、東京メトロと複数の路線が乗り入れる飯田橋駅のすぐ近くに位置しています。そのため、新宿区・文京区・江戸川区をはじめ沿線各地か患者さんが受診されます。また都心のビジネス街でもありますので勤務先から受診される方も多くいます。近隣地域は高齢化が進んでいるため、高齢者に多い疾患の治療に特に力を入れています。

新宿区は独居の高齢者が多いことが特徴で、当院では2016年より訪問看護ステーション「なないろ」を開設し、退院後の療養生活を支える体制を整えました。また、在宅診療医の要請に応じて神経内科専門医が往診するシステムや行政と協力して認知症訪問に取り組むなど、病院から地域に出て、より住民のみなさまの暮らしに寄り添い、安心して暮らせる地域づくりをめざしています。

当院の救急総合診療部では、365日24時間体制で内科・外科に加え、脳神経外科・整形外科当直医も常駐し、2次救急としての初期診断と治療にあたっています。年間約4,000台の救急車を受け入れるほか、近隣医師会からは在宅医が緊急入院の必要ありと判断した患者さんを無条件に受け入れる“緊急一時入院”体制も備えています。脳神経外科救急は血管内治療も行える脳神経血管内治療科の医師も対応し、脳卒中急性期やくも膜下出血に対応できることや、整形外科とともに外傷にも24時間体制で対応できることが強みです。

当院で行っているリハビリテーションは、脳卒中や脊椎疾患、骨折などで生じた運動障害に対するリハビリテーションをはじめ、嚥下障害高次脳機能障害、安静状態が長期間続いたことによって起こる心身の機能低下や、がん患者さんに対するリハビリテーションなど、多岐にわたります。365日のリハビリテーションを実施し、急性期から回復期まで切れ目なく、患者さんが円滑に社会復帰できるようサポートしています。余談ですが、当院のリハビリテーション科の田中尚喜技師長が書いた「百歳まで歩く―正しく歩けば寿命は延びる!」という本がベストセラーになっています。元気な高齢者をサポートすることも病院の大切な使命と考えます。

高齢化とともに、さまざまな合併疾患をもつ患者さんが増え、もはや一つの診療科だけでは医療が成り立たなくなってきています。そこで当院では、専門医・認定看護師・管理栄養士や薬剤師など多職種が協力し、密度の高いチーム医療を提供しています。現在、感染制御(ICT)・褥瘡対策・緩和ケア・栄養サポート(NST)・摂食嚥下・糖尿病診療の6つのチームが常時活動しています。

そのうち、糖尿病診断チームは院内の全病棟を回診して、血糖管理を必要とするすべての入院患者に専門チームが対応するという他病院にはない活動を展開しています。糖尿病はさまざまな病気の原因になるほか、そのコントロール状況が病気の治療や治癒と大きく関連します。当院では糖尿病以外の目的で入院された場合でも、糖尿病専門チームが血糖管理に関わり、入院治療がスムーズに行われるようにサポートしています。また、入院中に糖尿病の治療法の見直しや、合併症の評価などにも、必要に応じて対応しています。

糖尿病ラウンド
糖尿病診断チーム(画像提供:東京新宿メディカルセンター)

そのほか、“Emergency Board”という救急のカンファレンスを実施し、救急疾患に関して多職種間で意見交換する機会を設けています。医師だけではなく、検査技師、看護師、職員が数多く参加しており、実際に経験した様々な分野の症例や、救急における稀少な症例などへの対応について共有しています。各診療科専門医の話を聞いたり、他職種からの意見を取り入れたりすることで、職員全体に救急医療に対する意識が強まるようになりました。

当院は、東京都がん診療連携拠点病院として認定を受けており、地域のがん診療拠点病院と連携し、がん医療水準の向上に協力しています。

当院はがん治療のどのような局面にでも柔軟に対応できる総合病院として、診断・手術・化学療法・放射線治療、そして退院後の定期検診から、再発した場合の対策、痛みを抑える治療や緩和ケアなど、多岐にわたり、かつシームレスながん治療を提供することができます。

日本人は現在、一生のうちに2人に1人は何らかのがんに罹るとされており、がんはとても身近な病気となっています。とりわけ高齢者では心臓、肺、脳梗塞の合併症をもつことが多く、それらの病気をコントロールしながらがんの治療を行わなければなりません。当院では各部門がよく連携し、ご高齢の患者さんや、さまざまな合併症をお持ちの患者さんにもチーム医療で対応しています。

外科においては5大がんをはじめ、幅広くがんの治療を行っています。腹腔鏡(腹部手術)や胸腔鏡(胸部手術)を使った小さな創による手術も積極的に取り入れ、患者さんの早期退院と社会復帰をめざしています。

手術風景
手術風景(画像提供:東京新宿メディカルセンター)

放射線治療においては、2016年に高精度放射線治療センターを開設し、従来のリニアックによる放射線治療に加え、最新鋭のトモセラピー(強度変調放射線治療装置)を導入しました。トモセラピーは、CTで用いるドーナツ型の輪(ガントリー)のなかに、小型のリニアックと、画像を撮影する装置を一体として組み込んでいます。これにより、従来のリニアックでは難しかった広い範囲に対してメリハリをつけた放射線照射ができるようになりました。前立腺がんの治療の場合、前立腺により多くの放射線を当て、隣接する直腸にはできるだけ当てないような治療を行えます。頭蓋骨に転移した場合では、脳や目にはできるだけ当てないように頭の周囲に沿って放射線を当てることもできます。このように「よりがんに厳しく、より体に優しい」放射線治療を実施しています。

他院への転院が必要なときは、がん相談支援室と連携して適切な病院・施設をご紹介しています。在宅療養をご希望の患者さんには、当院の訪問看護ステーション「なないろ」の看護師が、定期的にご自宅に伺う訪問看護サービスを提供しています。

病状や体調の観察、医療処置を行うほか、患者さんやご家族のご要望を伺い、必要に応じてケアマネージャーやデイサービスなど地域の医療機関との連携を図り、対応いたします。そして、2017年11月から、24時間対応できる体制となりましたので、今まで以上に安心してご利用いただいております。

初診から一貫して、責任をもって診療することが当院の義務であり、誇りでもあります。これからも患者さんに信頼していただけるがん治療を行っていきたいと考えています。

トモセラピー
トモセラピー(画像提供:東京新宿メディカルセンター)

脳神経血管内治療科は、新しい治療用の透視装置の導入と麻酔科医の協力を得て、2011年から診療を開始しました。担当部長はパリに留学して技術を学び、帰国後、日本国内においても数多くの脳神経血管内治療を経験しています。当科では、脳動脈瘤や、くも膜下出血、内頚動脈の狭窄などに対して、脳神経外科と連携した治療を行っています。

脳神経血管内治療は、一言でいうと「開頭することなく脳の病気を治せる」治療方法です。1980年代以降の技術革新により、カテーテルという直径1mm程度の細い管を使って頭蓋骨のなかにある血管に到達することができるようになりました。このカテーテルという治療方法が誕生したことで、開頭手術で治すことが困難であった病気の治療成績が飛躍的に向上しました。

実際の医療現場では、開頭による治療とカテーテルによる治療のどちらが安全に行えるか、患者さんの負担はどちらが少ないか、治療後の経過がよいのはどちらかなどを、患者さんの病態をみながら総合的に検討します。

病気自体の治療もさることながら、患者さんの生活の質の維持・向上を最大限考慮し、最善の全人的医療の実践に努めます。

現代は専門医の時代ともいえるほど医療の専門化・細分化が進んでいますが、患者さん一人ひとりの症状をみると、複数の疾患や、容易に診断のつかない、つまり専門分野が特定されない疾患をかかえていらっしゃることがよくあります。特に高齢化の進んだ我が国においては、このような身体的な問題点を解決するとともに、家庭環境や地域の特色など患者さんの背景にある状況もふまえた、心身両面からの全人的医療が求められています。そして、その役目を担うのが、「総合診療医」です。総合診療医は“ドクターG”などとメディアでも紹介され、一般の方々にも広く知られるようになってきました。

当院では総合診療をひとりの担当医ではなく、チームで診ようということで、総合診療チーム(通称“チームG”)がその役割を担っています。「チームG」のGはGeneral(全般、全身、全体)という英単語の頭文字です。さまざまな問題が絡むケースを一人の医師の力で解決するのは困難です。そこで当院では消化器内科・呼吸器内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科・救急総合診療科の各医師が指導医として参加し、初期・後期研修医を加えて組織された「チームG」で診療を行う体制をつくったのです。

毎朝、チーム全員で入院患者さんの話を伺い、診察を行い、身体的状況や治療経過を把握します。それに加え、夕方にもミーティングを行い、患者さんの病状の変化や治療の効果を共有し、以後の治療方針などを検討しています。必要とあれば、院内のあらゆる職種や、患者さんのご家族、院外の医療・介護職の方とも連携をとりながら問題の解決にあたっています。

総合診療体制「チームG」
総合診療体制「チームG」(画像提供:東京新宿メディカルセンター)

総合診療を実施する「チームG」の構想は、私が院長になる以前から考えていました。当院が属するJCHOグループが掲げるミッションのひとつとして、総合医の育成があります。総合医を育成するためには、研修病院が実際に総合診療を行っていることは勿論のこと、たとえ「専門医」であっても総合診療の重要性を十分に認識すること、つまり総合医マインドをもつことが重要だと考えていました。どのような体制で若手医師を受け入れたらよいかと考えたとき、指導者としての資質を持った専門医を集め、「総合診療科」を立ち上げることなく、あくまで既存の組織の中で「チーム」をつくる、という答えにたどり着きました。

実際に、当院のチームGはさまざまな場面で活躍しています。

たとえば、救急患者の初期診療は、総合診療部としてチームGが担当し、どの診療科で診るのが適切か判断します。必ずしも専門診療科に割り振らなくても、チーム内に各分野の専門医がいるので、十分対応が可能です。診断が困難な場合や多彩な合併症をお持ちの患者さんはそのままチームGが受け持ちます。

さらに、各診療科からのコンサルテーションにも対応しています。たとえば、整形外科の患者さんが突然発熱した場合に、どの科に相談すればよいか判断できないこともあります。そういったときに、まずチームGに相談すればよい、という院内の体制ができています。

プロフェッショナルが集まるチームGの指導のもと、豊富な症例に対して総合的視点の診療を学べる環境で、一人でも多くの優秀な総合診療医を育成してまいります。

当院は、2016年2月に、厚生労働省より看護師の特定行為研修指定研修機関として指定されました。ここでいう「特定行為」とは、医師が行う診療の補助行為であり、これを看護師が行う場合には、実践的な理解力や思考力、判断力に加え、高度で専門的な知識及び技能が特に必要とされています。2017年8月現在、看護師の特定行為研修を実施できる指定研修機関は全国に54機関しかなく、幅広い分野の知識と実習が必要なため、研修を修了することはとても難しいのです。当院では病院をあげて看護師の教育に力を入れ、56名の医師の協力のもと、初年度2名が特定行為研修を修了しました。さらに2017年(平成29年)度では、JCHO本部のプログラムに6名の看護師がエントリーし特定行為研修を受けています。医師の指示がなくても、自ら判断して医療行為を行える看護師が増えていくことで、むしろ医療の質が上がり、当院のチーム医療のさらなる促進につながる可能性に期待しています。

また、2017年12月現在当院には専門看護師が2名、認定看護師が16名おり、各分野での専門的な看護を行うとともに、患者さんとご家族の相談に応じ、よりよい医療・看護の提供に力を注いでいます。当院の専門看護師および認定看護師が地域の訪問看護師に同行し、在宅で療養している患者さんに対して看護ケアを提供する取り組みも行っています。地域で暮らす患者さんの「その人らしい生活」を、地域の医療機関のみなさまと一緒に支えていきたいと思っております。

医療の進歩はめざましく、現在標準的に行っている医療も、すぐに過去の医療になってしまうことでしょう。AIやロボット手術、IPS細胞を使った治療など、将来の医療は大きく変わると思います。しかし、医療において人と人とのコミュニケーションが無くなることはありません。人間の倫理的な考え方や、感情的なつながりは、コンピューターに任せることはできません。これから医療の道を志す方は、人間性の充実、人間的な能力のいかし方を考えてほしいと思います。

現在、高齢者は増え続けており、2025年問題への対策が急務になっています。ですが、その後の社会はどうなっているか、2025年以後の来るべき社会も想定し、さまざまなことにチャレンジしていくことも大切だと考えています。

これまでの医療は、医療従事者側が治療方針を決めて、患者さんに提示するという一方的な流れがありました。しかし、現在は医療が発達し、次々と新たな治療方法が生み出され、患者さんに対してさまざまなアプローチが可能になりました。患者さんの人生・ご家族・生活・仕事など、患者さんが大切にしているものを守るために、いかに医療がサポートできるか考えていく必要があると思っています。

患者さんとともに歩み、患者さんのために私たちができる最善の医療のご提供をめざしていきたいと思っております。

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