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国立がん研究センターの医師に聞く胆嚢がんの最新トピックス ~胆嚢ポリープはがんになるのか? 研究中の治療法は~

国立がん研究センターの医師に聞く胆嚢がんの最新トピックス ~胆嚢ポリープはがんになるのか? 研究中の治療法は~
島田 和明 先生

国立がん研究センター中央病院 病院長

島田 和明 先生

江崎 稔 先生

国立がん研究センター中央病院 肝胆膵外科 科長

江崎 稔 先生

目次
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胆嚢(たんのう)がんとは、肝臓のすぐ下に位置する“胆嚢”という臓器に発生するがんのことです。初期症状はほとんどなく、進行すると腹痛や嘔吐、黄疸(おうだん)などの症状を呈します。年間およそ2万3,000人が胆嚢がんと診断されるといわれており、患者数がとりわけ多いがんではありません。ただし、胆嚢ポリープなど胆嚢がんとの鑑別が必要な隆起性病変もあるため注意が必要です。

今回は、胆嚢がんと胆嚢ポリープ、また胆石症との関連性や胆嚢がんの治療についての最新トピックス(2023年4月時点)について、国立がん研究センター中央病院 病院長の島田 和明(しまだ かずあき)先生と、肝胆膵外科 科長の江崎 稔(えさきみのる)先生にお話を伺いました。

胆嚢とは、肝臓で作られた“胆汁(たんじゅう)”と呼ばれる消化液を貯蔵するための臓器です。胆嚢・胆管・乳頭部の3つを併せて胆道と呼ぶこともあります。

以下ではまず、胆嚢がん胆嚢ポリープそれぞれの病気についてご説明します。

胆嚢がんとは

胆嚢がんは胆道がんのうちの1つで、胆嚢や胆嚢管に生じた悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を指します。初期は無症状であることが一般的で、健康診断腹部超音波検査で偶然発見されることもあります。

ピクスタ
画像提供:PIXTA

一方、進行すると腹痛や嘔吐、黄疸*などの症状がみられます。

胆嚢がんの治療方法としては、手術治療や抗がん薬による化学療法が検討されることが一般的です。早期のがんなどで切除が可能な場合には、根治を目指して手術治療が検討されます。

進行していて切除の難しいがんに対しては抗がん薬による化学療法が検討されます。早期に治療できれば根治が期待できるがんですが、進行すると根治が難しく、術後に再発してしまう恐れがあるなど予後はよくありません。

*黄疸:皮膚や白目が黄色く変色すること。皮膚にかゆみが生じたり、褐色〜黒色の尿(ビリルビン尿)が出たりすることがある。

胆嚢ポリープとは

胆嚢ポリープとは、胆嚢の内側に生じる隆起性の病変の1つです。

胆嚢ポリープには、コレステロールポリープ、腺腫性ポリープ、過形成ポリープ、炎症性ポリープ、胆嚢がんなどの種類があります。胆嚢がん以外は全て良性の腫瘍であり、発見される胆嚢ポリープのうち、およそ90%はコレステロールポリープといわれています。ただし、腺腫性ポリープは将来的にがん化する可能性があるため、慎重な経過観察が必要です。

胆嚢ポリープは自覚症状がなく、健診の腹部超音波検査でたまたま発見されることがほとんどです。胆嚢ポリープが生じていても腫瘍が10mm以下で大きくなる様子がなく、がんの疑いがない場合には治療の必要はありません。

ただし、腫瘍が大きくなっている場合や形状によってがんの疑いがある場合には、手術によって胆嚢を摘出することが検討されます。

胆嚢ポリープのごく一部は胆嚢がんの可能性がある

胆嚢ポリープは、10人のうち1人に見つかるようなありふれた病気です。そのうちの90%以上は良性の腫瘍であるため、がんの心配はありません。しかし、まれにがんである、または将来的にがんになる可能性のあるものもあるため、ときに治療が必要になることもあります。

近年、胆嚢がんが見つかるパターンは主に2つあります。1つ目は、健診による腹部超音波検査で見つかるパターンです。胆嚢にできる隆起性病変には、がん以外にも前述の良性ポリープや胆石などがあります。

隆起性病変ががんである確率はかなり低いですが、病変が10mm以上の場合にはがんである可能性も視野に入れてより詳しい検査を行います。腹部超音波検査は症状が現れる前の比較的早期の胆嚢がんを発見できる可能性もあるため、早期発見に役立つ検査といえるでしょう。

2つ目のパターンとして、症状が現れてから病院を受診し、そこで見つかるパターンが挙げられます。胆嚢がんは初期症状がほとんどないほか、進行後に現れる症状も特有のものがなく見過ごされてしまう恐れがあります。症状が現れた後に発見される場合、進行しているために手術をしても根治が難しく、予後が悪くなる傾向にあります。

胆石症とは、胆嚢をはじめとする胆道に結石ができる病気です。とりわけ、胆嚢にできる結石を“胆嚢結石”と呼びます。胆石症にかかっても20〜30%の方では症状がみられません。症状がある方の場合には、肋骨(ろっこつ)の下やみぞおち、右肩などに痛みが生じるほか(胆道痛)、胆嚢がん同様に黄疸の症状がみられることもあります。

胆石と胆嚢がんの関係

胆嚢がんの患者さんに胆石症が合併する頻度は高いといわれていますが、かといって“胆石があるから胆嚢がんにかかりやすい”というわけではないと考えられています。そのため、胆石があるからといってすぐに手術が必要なわけではなく、経過を観察することが大切です。

胆石がある場合の注意点

前述のとおり、“胆石症=胆嚢がんのリスクが高い”ということはありません。

ただし、胆石がある場合には小さいがんが胆石の影に隠れてしまうため、腹部超音波検査などでがんを見つけにくいという注意点があります。胆石の手術が必要となり、手術をして初めてがんが見つかるという場合もあります。そのため、胆石症の患者さんは定期的な検査を受けることが大切です。

胆嚢がん全体の5年生存率は27.8〜30.7%ですが、実際はステージ(病期)によってかなりばらつきがあります。

胆嚢がんは早期に発見できれば予後のよいがんです。たとえば、もっともステージの早いI期では5年生存率は81.2〜87.3%といわれています。前述のとおり、近年は健診で腹部超音波検査が実施されることも増えてきたため、無症状のうちに健診で早期発見できる確率も高まってきています。

一方、進行した胆嚢がんは手術をしても根治が難しく、予後の悪いがんとして知られています。もっともステージが進行したIV期の胆嚢がんでは、5年生存率は0.9〜2.0%です。胆嚢は肝臓・胆管・膵臓(すいぞう)と近く、進行するとリンパ節や周囲の臓器へ転移してしまう可能性も高まります。

進行がんでは手術も複雑になることがある

早期がんの場合には、手術治療で胆嚢を摘出すれば根治できる確率が高いです。しかし進行すると、がんのある位置や転移の状態、あるいはステージによって切除範囲が広がり、より複雑な手術が必要になることもあります。また手術をしても根治が難しく、術後再発してしまうことがあります。

胆嚢がんの化学療法は、手術ができないと判断された患者さんを対象に行われます。標準治療としては、ゲムシタビン塩酸塩とシスプラチンと呼ばれる2種類の抗がん薬を併用することが一般的です。最近、デュルバルマブという免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が保険承認となりました。ゲムシタビン塩酸塩およびシスプラチンとの併用において、通常、成人にはデュルバルマブを1回60分間以上かけて3週間間隔での繰り返し投与後、4週間間隔で投与します。

この抗がん薬治療では強い副作用は出にくいのですが、よく生じる副作用としては吐き気やだるさ、食欲不振などが挙げられます。

現在はさまざまな臓器のがんで、手術前・手術後に化学療法を行う“術前・術後化学療法”が実施されています。胆嚢がんをはじめとする胆道がんの場合には術後の化学療法としてS-1補助療法の効果が立証されました。(JCOG1202:ASCOT試験)

また、胆道がんの術前化学療法の有用性を確かめる臨床試験(JCOG1920:NABICAT試験)が開始されています。

胆嚢がんをはじめとする胆道がんは、進行していると手術をしても根治が難しく、予後の悪いがんと考えられています。治療成績の改善のためには、術前・術後化学療法を組み合わせた集学的治療の開発に期待が高まっています。

国立研究開発法人国立がん研究センターは、大規模な胆道がんのゲノム(DNA)ならびにトランスクリプトーム(RNA)解読を行い、新たな治療標的となり得る新規ゲノム異常や発生部位(肝内および肝外胆管、胆嚢)ごとの特徴を明らかにしました。また、遺伝子発現データから予後不良群を同定し、同群で免疫チェックポイント療法が有効である可能性を報告しました。

免疫チェックポイントは、がんが免疫細胞の機能を抑制し、宿主免疫細胞による攻撃から逃れる機構としても知られ、最近では免疫チェックポイント阻害薬ががんに対する治療として世界的に注目されています。すでに免疫チェックポイント阻害薬は大規模臨床試験においてメラノーマ皮膚がんの一種)や肺がんに対する有効性が示されており、現在はほかのがん種に対しても精力的に開発が進められています。デュルバルマブは、ゲムシタビン塩酸塩とシスプラチンとの併用療法で胆道がんに対する効果が証明され、保険適用となりました。

胆嚢がんの治療成績を高めるために

胆嚢がんは早期に発見できれば、決して予後の悪いがんではありません。しかし、進行すると有効な治療が少なく、予後が悪くなってしまいます。がん治療には手術治療、化学療法のほかにも、放射線治療や抗がん薬以外の薬物療法(免疫チェックポイント阻害薬など)がありますが、胆嚢がんではいずれも現時点で標準治療にはなっていません。

進行がんにおいては、手術だけでは治療成績の改善に限界があります。術前・術後に有効な抗がん薬を併用し治療成績を向上させる必要があると思います。

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