院長インタビュー

病気を診るのみではなく人を診る医療で東葛北部地域の医療の中核的な立場を担う、東京慈恵会医科大学附属柏病院

病気を診るのみではなく人を診る医療で東葛北部地域の医療の中核的な立場を担う、東京慈恵会医科大学附属柏病院
吉田 博 先生

東京慈恵会医科大学附属柏病院 病院長

吉田 博 先生

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千葉県柏市にある東京慈恵会医科大学附属柏病院は、人口140万人を擁する東葛北部医療圏(柏市、松戸市、野田市、流山市、我孫子市)で三次救急、救命救急、がん診療などを担う病院です。

日々高度急性期の患者さんの救急対応を行いつつ、大学附属病院として先進医療の提供や臨床研究に取り組み、この地域で大きな存在感を発揮している同院の現在とこれからについて、病院長の吉田(よしだ) (ひろし)先生に伺いました。

当院は1987年に、東京慈恵会医科大学の4つめの附属病院として柏市に開設されました。当時は360床と少なめの病床数でしたが、開設後10年も経っていない1996年には災害拠点病院に指定され、以降は難病支援センター、地域がん診療病院の認定を受ける一方で3次救急も行い、2012年からは救命救急センターにも指定されました。現在は664床の病床数を有し、松戸市立医療センターとともにこの地域の救命救急と3次救急を担っています。

この地域は東京のベッドタウンであり夜間人口が多いのが特徴ですが、企業や学校も多いので昼間人口も多くなっています。若年人口が増え続けていることから分娩や周産期医療を含めて産科や小児科が、高齢化が進んでいることから脳血管疾患や心血管疾患の救急が、また国道6号と16号が交差する交通量の多さや高齢の方の転倒が多いことから整形外科の救急が必要、といったように、地域の医療ニーズは多岐にわたるため、当院では29の診療科に加えて13の中央診療部門を揃え患者さんに対応しています。

当院の大きな強みは救急医療で、2022年度は約4,800台の救急車を受け入れました。3次救急で搬送された患者さんには、まず初期的な治療を行ったあと、それに続く治療をすぐに行う必要があります。当院ではそれを院内で一貫して行う体制を整備しています。

この地域は交通量の多さから交通事故が多いこともあり、外傷外科、整形外科は伝統的に地域の皆様から信頼されています。また、一刻を争う虚血性疾患への対応も当院の強みです。虚血性心疾患の患者さんの対応では柏ハートネットワークに参加し、柏市内で循環器内科や心臓外科をもつ他の病院との連携のもと、狭心症心筋梗塞などの重症患者さんに対応しています。治療に当たってはカテーテルを使った手術などの低侵襲(体に負担が少ない)な治療を積極的に行っており、2023年度からはTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)という、血管をX線で撮影する装置と手術台を組み合わせた高機能なハイブリッド手術室を用いた手術も行なっています。

また当院は日本脳卒中協会から一次脳卒中センター(PSC)コア施設の認定を受けており、発症からごく短時間のうちに脳の血栓を溶かすt-PA療法やカテーテルで血栓を除去する血栓回収療法を行うことが可能です。

当院には手術件数が日本有数の数になっている診療科が多くあり、その1つに泌尿器科が挙げられます。そもそも東京慈恵会医科大学は日本で初めて泌尿器科学の講座を創設した歴史があり、伝統的に泌尿器科に強みを持っています。当院の泌尿器科もこれまで多くの実績を積み上げており、2023年度の手術件数は700件以上と国内でも屈指の数になっています。他にも婦人科のがんや眼科の手術(硝子体を含む)は件数が大変多くなっています。一般的に手術件数の多さは医療の質の高さを示すとされますが、当院が行ってきた各診療科でしっかりと人を育てていく医療のあり方がこのような結果に結びついたのだと思っております。こうしたがん手術治療においても低侵襲の手術に取り組んでおり、da Vinciシステムなどを用いるロボット支援下手術も350件を超える実績を示しています。

がん治療については、当院のがん診療センターで診療科の枠を超えた協力体制を作り、手術・化学療法・放射線療法の3本柱を組み合わせた集学的治療をしっかりと行っています。がん治療開始とともにそのつらさに対応するための緩和ケアも多職種によるチーム医療で行っており、治療から緩和ケアまで当院で一貫して提供できるのも当院の強みとなっています。

また、当院の腫瘍・血液内科では白血病悪性リンパ腫多発性骨髄腫といった血液腫瘍の治療を行っているほか、骨髄移植も行っています。骨髄移植は東京慈恵会医科大学の分院では当院だけが行っており、西新橋にある本院の腫瘍・血液内科と連携しつつ質の高い医療の提供に努めています。

当院は治療において、患者さんに対して低侵襲であることを重視しています。腹腔鏡や胸腔鏡を使った内鏡視下手術、カテーテルによる血管内手術などを積極的に行っているほか、すでに述べたTAVIや手術支援ロボットのda Vinciシステムも導入ました。2023年には、当院泌尿器科診療部長の三木淳先生が開発の初期段階から関わった国産ロボット “Saroa(サロア)”が泌尿器科に入り、同機による国内初の前立腺がんの手術を当院で行いました。Saroaには手術時の触覚を再現する機能があり、より精密で安全な手術ができるようになると期待しています。

三木淳先生によるSaroaでの手術(東京慈恵会医科大学附属柏病院よりご提供)

当院は大学病院として、日々の診察に加えて教育や研究および新しい医療の開発も行います。職員は日頃、救急をはじめとした医療に忙しく従事していますが、各科の取り組みやチーム医療を通じて人を育てつつ、リサーチマインドを持った医師の育成ができています。実際に私自身も産学共同で開発した臨床検査が2013年より保険医療に社会実装され、最近では2023年に新たな検査手法の特許を取得しており、このような臨床研究は引き続き進めてまいります。

また、先進医療についても熱心に取り組んでおり、たとえば早期の胃がんの手術の際に特種な腹腔鏡を用いたセンチネルリンパ節生検は当院が開発を進めた先進医療で、当院と西新橋の本院で受けることができます。

がん治療に関しては、当院は柏市にある国立がん研究センター東病院と連携をしてがん治療の研究や人材育成に取り組んでいます。このような大学附属の病院だからこそできる取り組みを今後も続けていきたいと思っております。

我々は地域の患者さんに「来てよかった」と思っていただけるよう努力しています。実際、私は多くの患者さんから「明るい病院ですね」「よかった」とお言葉をいただいており、大変うれしく思っております。この努力の原動力となっているのは、“病気を診ずして病人を診よ”という東京慈恵会医科大学の建学の精神です。つまり、患者さんを診るとともにご家族に対応して、その思いに応える医療を提供することが我々の使命なのです。

この使命を果たすため、東京慈恵会医科大学や当院は丁寧に人を育て、風通しの良い環境を作ってきました。我々には人を大事にする文化があり、お互いの立場を尊重し協力しあう雰囲気のなかで医療を提供しています。これが当院の明るさに繋がり、患者さんから評価をいただいているのだと思います。

しかし、伝統を墨守するだけでは前に進めません。私はよく職員に“不易流行”と伝えています。「不易」は世の中が変わっても変わらないもの、変えてはいけないもの、「流行」は世の中の変化とともに変わっていくものという意味です。当院も職員の業務改善を絶えず行い、新しい医療を取り入れ我々自身でより良い新しい形を生み出していくなど、よき伝統は大切にしつつ変えるべきは積極的に柔軟に改善に努め、前に進んでおります。これらの活動を通して地域の医療ニーズに応え、皆さんから親しんでいただける病院であり続けたいと考えております。

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