院長インタビュー

甲状腺疾患において専門性の高い医療を提供する伊藤病院

甲状腺疾患において専門性の高い医療を提供する伊藤病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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東京都渋谷区にある伊藤病院は全国でも数少ないアイソトープ管理病床を有するなど、甲状腺疾患に特化した診療を行っており、全国から多くの患者さんが訪れています。

『甲状腺を病む方々のために』を理念に掲げ、専門性の高い医療を提供している同院の役割や今後について、院長の伊藤 公一(いとう こういち)先生にお話を伺いました。

先方提供

当院は1937年に私の祖父が開院し、その祖父が約20年間、その跡を父が継いで約40年間運営してきました。空襲で病院が焼失するなど途中に紆余曲折がありましたが、戦後に品川区小山にて病院を再開し、1959年に渋谷区に戻りました。私が父の跡を継いだのが1998年で、院長になってから今年で26年になります。

祖父も父も『甲状腺を病む方々のために』をモットーに掲げ、開院当初からブレることなく甲状腺疾患を専門的に診てきました。以前より書籍や放送媒体などを使って甲状腺疾患の啓蒙活動を行ってまいりましたので、当院をご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

来院される外来の患者さんは、平均すると1日あたり1,100人から1,200人であり、そのうちの約90%が女性です。また、表参道駅から徒歩2分と交通の便がとてもよいことから、神奈川県や埼玉県、千葉県など、東京都以外のエリアからも患者さんがお越しになります。症例で多いのは、甲状腺に慢性の炎症が起こってしまう橋本病、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまうバセドウ病、そして、甲状腺腫瘍(こうじょうせんしゅよう)の患者さんです。

当院の病床数は60床で、そのうちの7床がアイソトープ管理病床です。アイソトープ検査・アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)とは、甲状腺がヨウ素を取り込む性質を利用して行う検査・治療です。微量の放射線を放出するヨウ素を体内に投与し、甲状腺の内部から放射線を照射して検査や治療を行います。

アイソトープ検査や治療を行うためには特別な設備が必要で、治療できる病院は限られていることから、当院の強みの1つになっています。また、当院には入院設備(アイソトープ管理病床)があり、重症のバセドウ病甲状腺がんの治療に不可欠な入院でのアイソトープ治療にも対応できるのが特徴です。

診療実績は、甲状腺アイソトープ検査が年間約1,500件、甲状腺アイソトープ治療は約1,100件*で、専門病院として患者さんがよりよい治療を選択できるよう努めています。

*2023年1~12月実績:アイソトープ検査1,423件、アイソトープ治療964件

甲状腺がんの治療は手術が基本ですが、術後に放射線治療が効かないケースや、適切な抗がん薬がないといったケースがあります。そこで当院では、分子標的薬治療を取り入れています。

分子標的薬治療とは、がんの発生や進行に関わる遺伝子を狙って攻撃する分子標的治療薬を用いた治療方法です。近年、薬の開発が進んだことから分子標的薬治療を取り入れるケースが増えてきましたが、当院では甲状腺がんの治療に早くから取り入れており、その数は100例を超えています。この症例数は世界的にみても極めて多いです。

甲状腺の病気は特定の症状が出にくいことから、ほかの病気と間違えられることがよくあります。しかし、実はとても身近な病気で、40歳代以上の女性の20人に1人は何らかの甲状腺の病気を患っているといわれています。

甲状腺疾患の特徴は、しこりができるといった“形”の変化を伴うものと、ホルモンが過剰に分泌されるなど“はたらき”の変化によるものがあり、病気によってその両方が現れたり、どちらか一方だけが現れたりします。

また、近年は甲状腺がんの1つである“乳頭がん”の患者さんが増えており、甲状腺がんの90%近くを占めています。乳頭がんは基本的に進行が緩やかであるため、当院では小さくてリスクが低いものに対してはすぐ手術をせず、経過観察をする“アクティブ・サーベイランス(Active Surveillance)”を取り入れています。

当院の強みは甲状腺疾患に特化していることで、アイソトープ治療をはじめ、専門的な医療を患者さんに提供できます。また、毎日同じ病気の患者さんの診療をしていることから、組織内に経験と知識が蓄積されており、患者さんに質が高い医療サービスを提供できます。

その一方で、常に新しい取り組みにもチャレンジしています。具体的には、国内外の学会への参加や論文の発表など学術的研鑽活動に取り組み、積極的に情報を発信しています。その成果もあって、当院に所属する医師は学術賞などを数多く受賞しています。

また、観光庁が外国から患者さんを呼び寄せる“メディカルツーリズム”のプロモーションを始めた際には、当院がモデル施設として選出されました。その後インバウンドが予想以上に伸びたこともあり、メディカルツーリズムの注目度は下がってしまいましたが、当院では現在も院内に韓国語と中国語の医療通訳者を常勤職員として2名配置して医療サービスを提供しています(2024年3月時点)。その成果もあって、日本在住の外国籍の患者さんが数多く訪れ、医療通訳者がフル稼働しています。

そのほか、東日本大震災による原発事故の放射能漏れで甲状腺疾患が増えるのではないかと懸念された際には、国内だけでなく海外に向けて英語や韓国語、中国語でも情報を積極的に発信しました。甲状腺エコー検査を実施できる人材も不足していたため、原発事故から一番近かった福島県の南相馬市立総合病院をはじめ、各地から臨床検査技師の研修を受け入れるなど医療面でサポートもしました。

当院には私を含めて約30名の医師が在籍していますが(2024年3月時点)、いずれも「甲状腺疾患に取り組みたい」という志を持って集まっています。大学病院などである程度経験を積み、専門医の資格を持った医師も当院を就職先として選んでくれていますので、専門的な診療を行うことができます。甲状腺疾患は自覚症状がなくても、健康診断の血液検査や超音波検査で異常が発見されることがありますので、まずは気軽に受診していただけたらと思います。

また当院では、戦争で燃えた後に診療した患者さんのカルテは可能な限り電子化して、研究にも活かせるよう保存しています。

今後も民間病院におけるフレキシビリティを大切にし、『甲状腺を病む方々のために』という理念と『甲状腺疾患専門病院としての業務に徹する』という基本方針に基づいて患者さんへよりよい医療を提供してまいります。

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