北海道旭川市にある旭川厚生病院は、総合周産期母子医療センター、地域がん検診医療連携拠点病院としての機能を備えている病院です。
2005年には地域がん診療連携拠点病院にも指定されており、近年では特に子宮頸がんワクチンの接種率向上に取り組んでいる同院の地域での役割や今後ついて、院長である光部 兼六郎先生に伺いました。
当院は、1941年に病床数93床、内科小児科、外科、産婦人科、皮膚泌尿器科、放射線科の5科で開設した病院です。その7年後に北海道厚生農業協同組合連合会が発足したことで、現在の病院名である厚生連旭川厚生病院に名称変更しました。
その後は病棟や診療科目を増やし、現在では24科を診療する総合病院となりました。また、現在は総合周産期母子医療センター、小児救急医療拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院に指定されています。さらに、病院としての質を高く保つために日本医療機能評価機構から定期的に評価を受けており、同機構の一般病院の基準を満たす病院としても認定されています。
とくに地域がん診療連携拠点病院としての取り組みに注力しており、がん診療ではがんゲノム医療連携病院の認定取得、手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”の導入など、患者さんに最適な治療の提供ができるよう、必要に応じた医療機能の向上に取り組んでいます。
当院では、2024年5月から遺伝子・ゲノム診療科を設置しました。がんの遺伝子を詳しくしらべ、遺伝子の変化に応じた治療を提供することを目的としています。現在は月に4~5件、年間で約50件のがんゲノム検査を行っています。
がん患者は、今後ますます増えていくと考えられます。がんゲノム検査ですが、保険診療で受けることのできる施設は、厚生労働省の指定を受けた、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院に限られています。当院は2023年8月に、がんゲノム医療連携病院に指定されたため、日常診療の中でゲノム検査を受けてもらうことが可能となりました。
現在は、遺伝カウンセリング外来も開設し、患者さんの不安や悩みを伺っています。今後はカウンセリングの精度向上、発がん高リスクの方へのサーベイランス事業、そしてがんゲノム医療に携わるスタッフの育成にも取り組んでまいります。
当院は道北地区で産婦人科の中核的な病院として、質の高い医療を提供しています。常勤医10名と専門外来の出張医による充実した体制で、ハイリスク分娩や母体搬送にも対応可能な総合周産期母子医療センターの認定を受けています。
婦人科領域では低侵襲手術をメインに行っており、たとえば子宮体がんの7割では腹腔鏡手術も取り入れ、患者さんの負担軽減に努めています。
また、増加傾向にある乳がんの再発の患者さんには、比較的早い段階でがん遺伝子パネル検査を実施しています。がん遺伝子パネル検査とは、次世代シークエンサーという装置で組織や血液中のがん細胞の遺伝子変異を調べ、原因となる遺伝子変異が見つかった場合に、対応する薬剤を選択できるようにするものです。
乳がんは、根治が難しい病気の1つでもあります。当院ではこのような検査を取り入れ、患者さん一人ひとりに合わせた治療を提供できるように努めています。
当院では、2012年10月に道北初となる緩和ケア病棟を開設しました。23床、全室個室で、院内外を問わず広く患者さんを受け入れており、地域のがん医療の一端を担っています。
緩和ケアではチーム医療を取り入れており、2名の専任医師のほか、緩和ケア認定看護師、緩和ケア認定薬剤師、臨床心理士、MSW、管理栄養士、理学療法士などが患者さんのケアにあたっています。このような多職種体制でサポートを行うことで、患者さんの身体的苦痛だけでなく、心理的な側面も含めた包括的なケアが可能となっています。
また、在宅療養を希望する患者さんへの支援体制も整えており、在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションとの連携によって病院から在宅まで切れ目のないケアを提供しています。旭川地域でのがん緩和医療に今後も貢献できるよう、このような支援体制を整えることは非常に重要であると考えています。
我が国では、子宮頸がんワクチン接種の積極的勧奨が2022年に再開されました。この年の全国平均実施率は42%でしたが、北海道全体では28%と低い数字にとどまっていました。
近年は、若年の子宮頸がん患者さんが非常に増えています。また妊娠中に子宮頸がんと診断される患者さんも珍しくなく、妊娠時期によっては治療が困難な場合もあります。
そのような状況も考え、子宮頸がんワクチン接種率を向上させるための新な取り組みを旭川市と協力して始めました。
ワクチン接種は多くの医療機関・クリニックでは平日の日中に行われます。しかし平日ではなかなか時間が取れない方にも接種の機会を提供するため、日曜の午前中に集団接種を行えるよう体制を整えました。また、ワクチン接種の予約は病院に直接電話をかけて行うのが通常でしたが、その点も簡易化するため、スマートフォンからQRコードを読み込んでネット上で予約できるシステムも構築しました。さらに、副反応が出た場合の体制として、旭川市の医師会や夜間救急センターと協力し対応するような体制を敷いています。
周知の方法の1つとして、市から定期接種対象者向けに送付するお知らせの中にQRコードも含め送付したところ、2日間で120名程度も予約が入りました。
これらの取り組みの結果、旭川市の2023年の子宮頸がんのワクチン接種率は北海道内ではトップクラスにまで急上昇しました。今後もこの取り組みを継続し、子宮頸がんワクチンの接種率を高めていきたいと考えています。
当院は地域がん診療拠点として、PET-CTや手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”の導入、外来化学療法室の拡充、緩和ケア病棟の設置など、がん診療機能の向上に継続的に取り組んでいます。さらに、2024年には遺伝子・ゲノム診療科を新たに立ち上げ、新しい医療を積極的に提供しています。
私たちは、道北地域で「最も信頼され、選ばれる病院」を目指し、常に患者さんに高度で専門的な医療を提供し続けることを使命としています。この目標を達成するためには、新しい医療機器や診療方法の導入だけでなく、意欲ある医療スタッフの存在が欠かせません。
当院には多くの専門資格を有する優秀な医師が揃っており、旭川市内でも特に多くのがん手術を手がけている病院の1つです。当院のチームに加わることで、皆さまも私たちと共に医師として大きく成長し、より良い地域医療を創り上げていけるものと確信しています。