宮城県仙台市青葉区にある仙台厚生病院は、心臓血管・呼吸器・消化器の3つの診療領域に医療資源を集中し、同領域における地域の先進・高度医療、救急医療を担っています。令和6年5月には新病院に新築移転し、診療体制がさらに充実した同院の役割や今後について、理事長の目黒 泰一郎先生に伺いました。
当院は結核の撲滅を目的として、昭和18年に社団法人生命保険厚生会により開設されました。初期目標を達成したとの判断から、平成5年に結核病棟を閉鎖し、同8年に青葉区広瀬町の病院を新築し、その際に心臓血管センターを新設するなど、心臓病やがんなど日本を代表する疾患の専門治療を提供する施設に生まれ変わりました。そして、令和6年5月に青葉区堤通雨宮町に新築移転し、新たな環境で診療をスタートさせています。
新病院建設のコンセプトは「杜の都の次世代型先進病院」です。敷地は約3倍、床面積は約1.5倍に拡大し、従前の医療機能をすべて盛り込みました。また、病床数は409床のままですが、日本もいずれ欧米のようにプライバシー保護を重視することになると考え、全室を個室にしました。入院している患者さんと外来の患者さんやお見舞いの方のエレベーターシステムを分けるなど、動線をすべて別にしたことも特徴のひとつです。こうした配慮が功を奏し、新病院に移ってからインフルエンザや新型コロナ感染症の院内クラスターは1件も発生していません。そのほかでは、将来に備えた予備のスペースは最小限にとどめ、新たな医療設備導入の必要性が高まった時に備え、増築する敷地をすでに確保しています。現在駐車場となっている場所がその候補地です。今後20年・30年先を考えたとき、自分たちの想像もできない治療法が登場しているかもしれません。その際に有効活用できるスペースを残しておくことで、可能性を将来世代に託したいとの思いを込めています。

当院の病床稼働率や利益率は全国でトップクラスを維持し続けています。その秘訣は「選択と集中」「分担と連携」をキーワードに改革を進めてきたことです。総合病院として地域の皆さんに充実した医療を提供することは重要な使命ですが、大学病院のような体制を整えるのは経営面では厳しいものがあります。そこで、心臓血管・呼吸器・消化器の3つの診療領域に医療資源を集中させ、心臓血管センター(循環器内科・不整脈科・心臓血管外科)と呼吸器センター(呼吸器内科・呼吸器外科)、消化器センター(消化器内科・消化器外科・肝臓内科)を開設して大型化を進めました。一方、それ以外の診療科目については、それぞれを得意としている医療施設との連携を強化して、地域の皆さんには途切れることなく医療サービスを提供しています。
日本の医療現場では医師不足と、それに伴う医師の超過勤務が大きな課題になっていますが、その点において当院では問題になっていません。前者については、診療科を絞り込んで大型化・高度化を進め、さらに先進的な医療を積極的に取り入れたことで、たくさんの症例を経験して診療技術を高めたいと考える優秀な医師が自然に集まり、医師のレベル向上にもつながりました。また、多くの医師が在籍していることから、夜間救急の当直も常に5~6人体制で取り組むことができ、非番のときに呼び出されるということは当院ではありません。その結果、医師の超過勤務時時間が月80時間とか120時間とか言われて話題になっていた当時から、当院ではすでに月平均30時間以内に収まっていましたので、時代のかなり先を走っていたのではないでしょうか。
心筋梗塞や急性大動脈解離など一刻を争う疾患に対し、循環器内科・不整脈科・心臓血管外科が連携し、複数の専門医による当直体制を組んで24時間・365日体制で対応しているのが心臓血管センターです。中でも循環器内科・不整脈科の心臓弁膜症や不整脈に対するカテーテル治療については、全国トップクラスの症例数を有しており、在籍する多田先生は大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療(TAVI)の第一人者です。また、心臓血管外科では、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」による心臓手術に取り組み始めるなど、患者さんの体への負担を考慮した低侵襲な治療に取り組んでいます。
呼吸器センターでは、呼吸器内科と呼吸器外科が密に連携をとりながら、24時間体制で急性期から慢性期まで、さまざまな呼吸器疾患の診療に取り組んでいます。特に呼吸器内科では、年間500例を超える呼吸器内視鏡(気管支鏡など)を実施しており、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤などを用いた臨床治験においても実績が豊富で、肺がん治療をけん引していると言っていいのではないでしょうか。また、呼吸器外科では、胸に開けた小さな切開口から、胸腔鏡や手術器具を挿入して肺がんの手術を行う完全胸腔鏡下手術を積極的に行っています。患者さんへの負担も少なく、早期の退院・社会復帰を実現しています。
消化器センターでは、消化器内科と消化器外科、肝臓内科が連携して診療を行っています。安全で質の高い消化器疾患の診療に取り組んでおり、たとえば消化器内科では早期がんの内視鏡治療を得意とし、内視鏡を用いた上下部消化管の診断と治療、胆・膵疾患の内視鏡・インターベンション治療など、さまざまな治療を行っています。消化器外科も内視鏡治療と鏡視下手術が得意で、直腸がんと胃がんについては「ダ・ヴィンチ」を使った手術に本格的に取り組み始めたところです。また、肝臓内科では肝炎・肝がんなどの肝疾患分野において、日本トップレベルの医療を提供しています。
当院では「小さな感動」運動を展開しています。主に看護師やコメディカル(医師などを除いた医療従事者の総称)が中心の活動になりますが、患者さんだけでなく、院内で見かけるすべての人に対して「何かしてあげられることはないか?・喜んでもらえることはないか?」と考えながら仕事をするといった活動です。何も思いつかないときも笑顔を忘れないようにします。こうした小さな積み重ねが、来院された方々の小さな感動につながるのではないでしょうか。
最後になりますが、当院は総合病院ではないことから、地域の皆さんにご不便を感じさせてしまうかもしれません。しかし、心臓血管・呼吸器・消化器の3分野については質の高い医療を提供し、この領域での“最後の砦”と認めてもらえる医療機関を目指しています。今後も努力を続けてまいりますので、ご支援とご指導を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。
目黒 泰一郎 先生の所属医療機関
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