
CAR T細胞療法は、初回治療がうまくいかなかった“びまん性大細胞型B細胞リンパ腫”(DLBCL)に対する治療選択肢の1つです。抗がん剤とはまったく異なるメカニズムでがん細胞にはたらきかけ、1回のCAR T細胞の投与で長期的な寛解を得られる可能性が高いといわれています。
今回は、2020年からCAR T細胞療法を行っている順天堂大学医学部附属順天堂医院 血液内科 教授の安藤 美樹先生に、再発・難治性DLBCLの治療選択肢、CAR T細胞療法の実際、治療を検討するタイミング、治療を受けた後の患者さんの印象などについてお話を伺いました。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)とは、白血球のリンパ球のうちB細胞ががん化した“悪性リンパ腫”の一種で、速いスピードで進行する特徴があります。初回治療ではR-CHOP療法*、Pola+R-CHP療法**といった抗がん剤と抗体薬を組み合わせた治療を行います。これらの治療で6~7割の方が寛解(病変がほとんど消失した状態)に至りますが、残念ながら3~4割の方は効果が得られなかったり、一度寛解してもその後再発したりすることがあります。
*R-CHOP療法:3種類の抗がん剤と副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)を組み合わせたCHOP療法に抗体薬のリツキシマブを加えた治療法。
**Pola+R-CHP療法:ポラツズマブ ベドチン(抗がん剤と抗体薬が結合した薬)と2種類の抗がん剤、抗体薬のリツキシマブ、副腎皮質ホルモン薬を組み合わせた治療法。
このような方に対しては、これまで次のステップの治療として“自家造血幹細胞移植併用大量化学療法*”や“救援化学療法**”を検討することが一般的でした。しかし、いずれも年齢や体の状態(臓器の機能など)から治療が有効に安全に行えるか慎重に見極める必要があり、実際に治療を行うことができるのは一部の患者さんに限られていました。
*自家造血幹細胞移植併用大量化学療法:抗がん剤治療を行った後に、事前に採取しておいた患者さんの造血幹細胞(赤血球、白血球、血小板のもとになる細胞)を移植して血液をつくる機能を回復させる“自家造血幹細胞移植”を行う治療法。
**救援化学療法:初回の治療とは別の種類の抗がん剤を組み合わせて使う治療法。
しかし、2019年に従来の抗がん剤や抗体薬とは全く異なる作用機序でがん細胞にはたらきかけるCAR T細胞療法が保険適用となりました。CAR T細胞療法が対象となるのは、再発または難治性のDLBCLの患者さんで、二次治療(2回目の治療)または三次治療(3回目の治療)として選択します。
また、近年では、再発または難治性のDLBCLの治療として、二重特異性抗体と呼ばれる治療薬も普及してきています。二重特異性抗体とは、がん化したB細胞のそばにT細胞を引き寄せて、T細胞ががん細胞を攻撃する仕組みの治療です。
このように、今ではいろいろな選択肢の中から、それぞれの患者さんに適した治療を選択することができるようになりました。
CAR T細胞療法は、患者さん自身の体からリンパ球の1種であるT細胞を取り出し、CARという遺伝子を人工的に導入してCAR T細胞をつくったうえで、体内に戻す治療法です。がん細胞に直接作用してダメージを与える抗がん剤治療とはまったく異なる作用で、がん細胞にはたらきかけます。
もともとT細胞にはがん細胞に対する攻撃能力がありますが、CAR遺伝子を導入すると攻撃対象であるリンパ腫細胞を見分ける能力が強化されます。さらに、CAR T細胞は一度投与すれば体内で増えながら継続的にリンパ腫細胞を攻撃してくれます。そのため、CAR T細胞療法は1回の投与で治療が完了します。
CAR T細胞の投与中や投与後しばらくの間は副作用に注意が必要ですが、ほとんどは一時的なもので適切に対処することで乗り切ることが可能です。そのため、自家造血幹細胞移植や抗がん剤治療が難しい高齢の方なども比較的選択しやすく、治療を受けた後は元気に退院されていくような治療法といえます。

CAR T細胞療法の最も大きなメリットとして、長期間に渡って寛解が得られる可能性が高いことが挙げられます。現在、CAR T細胞療法で使われる製剤は国内で3種類承認されており(2024年12月時点)、製剤によっても治療成績は異なるので一概にどのくらいの割合の方が寛解に至るかはお伝えしにくいのですが、それぞれの患者さんごとに期待できる効果についてはぜひ率直に主治医の先生にたずねてみるとよいと思います。
CAR T細胞療法はCAR T細胞を1回投与することで治療が完了します。抗がん剤治療は一定の間隔で繰り返し投与を行う必要がありますので、この点は大きく異なります。CAR T細胞療法によって寛解が得られれば、定期的に通院してあるいは入院して抗がん剤治療を受ける必要がなくなりますので、これは大きなメリットだと思います。当院でCAR T細胞療法を受けられた方は、退院後、ご自宅で自分の時間を過ごすことができているように見受けられます。趣味の時間をもてていたり、場合によっては仕事に復帰したりと、日常の生活を楽しまれている印象です。感染症には十分注意が必要ですが、時間的な制限という意味では抗がん剤治療よりもかなり負担が減るのではないかと感じます。
現在のところ、DLBCL の患者さんでCAR T細胞療法の対象となるのは、初回治療がうまくいかなかった方です(2024年12月現在)。そのため、CAR T細胞療法を検討し始めるタイミングはとても大切です。
DLBCLは病気が進行するスピードが速く、また抗がん剤治療を繰り返すにつれて患者さんのT細胞は疲弊して数も少なくなります。そうすると、よい状態のT細胞を採取して必要な量まで増やすことが難しかったり、最近は少なくなっていますが“製造不良”といって採取したT細胞を製造施設に送ったもののCAR T細胞を作れなかったりするというリスクがあります。
そのため「CAR T細胞療法を受けたい」「適応があるのか知りたい」場合は、なるべく早い段階でCAR T細胞療法を行っている病院(治療施設)にご相談いただきたいと考えています。そうすることによって、主治医の先生と治療施設の医師が丁寧に情報交換をして、患者さんにとって適したタイミングでCAR T細胞療法を実施できるよう準備することができるからです。
たとえば「今、初回治療として抗がん剤治療を行っているけれど寛解に至る可能性が低いと思われます。今後の治療としてCAR T細胞療法の可能性はありますか」とご相談いただいた場合、「あと2回抗がん剤治療を行って、CT検査を行いましょう。その結果、腫瘍が縮小していなければ、次の治療(二次治療)を始める前に、CAR T細胞を作成するためにT細胞を採取しておきましょう」と提案することができます。二次治療を行ってその結果を待ってからT細胞を採取するよりも、二次治療を始める前に準備しておくほうが、よい状態の細胞を採取できる可能性が高まり製造不良のリスクを下げることができます。
これは初回治療後に再発が分かった場合も同様です。前述したように、近年は再発または難治性のDLBCLの治療として二重特異性抗体と呼ばれる治療薬も普及してきています。二重特異性抗体による治療はCAR T細胞療法とは異なりどの施設でも実施することができますが、初回治療がうまくいかなかったり再発したりした場合、CAR T細胞療法と二重特異性抗体どちらを先に行ったほうがよいのかという点については、まだはっきりとした結論が出ていません。しかし、二重特異性抗体を先に行うとT細胞の疲弊を招いたり感染症を起こしやすくなったりするといわれているため、私を含め細胞治療を行っている医師の間では、CAR T細胞療法ができるのであればCAR T細胞療法を先に行ったほうがよいのではないかとの意見が挙がっています。
また、最近では研究が進み、リンパ球を減らす作用が強いために、CAR T細胞の製造不良につながる抗がん剤の種類が分かってきています。CAR T細胞療法を検討している場合は、それらの抗がん剤を投与する前にT細胞を採取しておく、あるいはT細胞を採取した後にそれらの抗がん剤を投与することでリスクを下げることができます。そういった観点からも、ぜひ二次治療を始める前にご相談いただきたいと思っています。
CAR T細胞療法を実施できるのは、この治療を提供できる体制が整った病院に限られます(2024年12月時点)。そのため、今受診している病院がCAR T細胞療法を実施していない場合には、治療施設に転院する必要があります。
治療施設は、主治医の先生が紹介してくださることもあると思いますが、患者さんご自身やご家族がホームページや本などでお調べになるケースも多くあります。CAR T細胞療法で使われる製剤は国内で3種類承認されていますが、それぞれ少しずつ適応が異なるほか(2024年12月時点)、3種類全ての製剤に対応している病院もあれば、使える製剤が限られる病院もあります。患者さんご自身やご家族が調べられる場合は、そのような点も注意されるとよいかと思います。
当院の場合、患者さんご自身から「順天堂で治療を受けたい」と主治医の先生にご相談される方も、直接当院に電話などで問い合わせいただく方もいらっしゃいます。いずれの場合も、CAR T細胞療法が適応になるか検討するためには、今の体の状態やこれまでどのような治療を行ってきたかという情報が必要です。そのため、まずは主治医の先生に紹介状を作成いただき、それを持参して受診してくださるようご案内しています。最近では、医師の間でもCAR T細胞療法は広く認知されてきています。希望される方は心配することなく、まずは主治医の先生にご相談いただけるとよいかと思います。
当院にCAR T細胞療法を希望する患者さんが来院されたら、抗がん剤治療との違いを含めCAR T細胞療法の仕組みや起こり得る副作用について丁寧に説明し、治療に対する具体的なイメージを持っていただけるよう努めています。
CAR T細胞療法では、“vein-to-vein time”(ベイントゥーベインタイム)が短ければ短いほど、その後の病気の見通しがよくなるといわれています。“vein”は直訳すると“静脈”という意味で、“vein-to-vein time”とは“白血球アフェレーシスでT細胞を採取してからCAR T細胞を投与するまでの期間”を指します。そのため、私たちのような治療施設の医師は、紹介元施設の主治医の先生と連携して“vein-to-vein time”をできるだけ短くできるように、緻密な治療計画を立てて治療を行います。

しかし、CAR T細胞療法を受ける予定の患者さんが新型コロナウイルス感染症などになってしまうと、予定通りCAR T細胞を投与することができなくなり、治療スケジュールを延期せざるを得なくなってしまいます。そのため、患者さんだけでなく同居するご家族にも、マスクをする、手洗い・うがいをする、人混みを避ける、ワクチンを定期的に接種するなど基本的な感染症対策をしっかり行っていただくことの重要性を繰り返しお話ししています。
また、感染症対策はCAR T細胞療法を受けた後もとても大切です。DLBCL でがん化するB細胞は、もともとは体外から侵入した病原体などの異物に対する抗体(免疫グロブリン)を作り、それを排除する役割を担っています。しかし、CAR T細胞療法を行うと、投与したCAR T細胞はがん化したB細胞だけでなく正常なB細胞にも影響を及ぼすため、免疫グロブリンが減少してウイルスや細菌などの病原体に感染しやすい状態になります。そのため、退院後も検査結果をみながら、必要に応じてガンマグロブリン製剤や抗ウイルス薬などを投与して、感染症を予防していく必要があります。
こうした予防薬の調節や感染症が起きた場合の対処などは、紹介元施設の主治医と私たちのような治療施設の医師が一緒に連携して行えるとよいと考えています。
当院ではCAR T細胞療法を受けられた患者さんを対象にしたCAR T外来を設置しています。紹介元の主治医の先生とともに、当院の医師も一緒に経過を診させていただくことで、継続的なフォローアップができるようにサポートしています。退院後間もない時期は1か月ごとに受診いただきますが、だんだんと間隔を延ばし多くの方は2~3か月ごとにいらしていただいています。長い方では3年半ほど通院されている方もいます。
CAR T細胞療法は1989年から研究が始まり、約30年の時を経て、遂に患者さんに実施できるようになりました。これまで難しかった悪性リンパ腫の治療を打破し得る画期的な治療であると思っています。さらに治療成績が向上できるように、当院を含め世界中で今も懸命に研究が続けられています。これまで寛解に到達することが難しかった患者さんが治癒できる可能性が出てきたこと、1回のCAR T細胞の投与後は長い間寛解を維持でき継続的な治療から解放される可能性が高いことから、とてもよい治療だと思っています。もしCAR T細胞療法に少しでも興味があれば、まずは主治医の先生にご相談いただければと思います。
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順天堂大学大学院医学研究科 血液内科学 主任教授
順天堂大学大学院医学研究科 血液内科学 主任教授
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